「リフォームは3月までに急げ」は本当? 2025年建築基準法改正とリフォーム計画の“新常識”
文春オンライン / 2025年1月6日 11時10分
リフォームを取り巻く環境には大きな変化が迫っている
2025年4月、「建築基準法」が久しぶりに改正されます。この法改正の影響はかなり大きく、建築やリフォームに携わる人々の間で話題となっているのですが、一般の消費者にとってはまだ十分に理解されているとは言えません。
一方で、近々、家を建てたりリフォーム工事を考えている読者なら「リフォームは3月までに急げ」「今すぐ工事しないと大変なことに!」といった煽り文句の広告を目にしたことがあるのではないでしょうか?
法律や制度が改正される時期につきもののこれらの広告は、一見すると急いで契約をしなければ後悔するかのような印象を受けます。しかし、その多くは消費者の知識不足を突いた誇張であり、不必要な不安を煽るものが少なくありません。
もちろん、今回の法改正には一般住宅の新築やリフォームに影響を与えるものも含まれています。悪質な業者による過剰なセールストークに引っかからないためには、法律改正の本質と実際の影響を正しく理解することが重要なのです。
そこでこの記事では、法改正の目的や具体的な変更点を解説するとともに、特に影響が大きい「一般住宅のリフォーム工事」について、どのような点に注意すべきか、さらに悪質業者を見分けるためのポイントを紹介したいと思います。
改正で変わる「普通のお家《おうち》」の扱い
今回の法律改正の主な目的は「建築物分野における省エネ促進と、木材利用の促進」と、一見すれば「大したことなさそう」なものです。
でも、実際には様々な改正が盛り込まれているのです。とりわけ、リフォーム工事を考える一般消費者にとって大きなポイントとなるのが「4号特例の縮小」です。
この「4号」とは、建築物の分類のようなもの。木造建築の場合、これまで「2階建て以下かつ、床面積が500平方メートル(約150坪)以下のもの」は「4号建築物」に分類されてきました。要するに「一般人が持つことが可能な日本の普通の家」は、ほぼ全て「4号」だったのです。
赤い屋根が印象的なのび太くんの2階建てのお家も、世田谷の大きな平屋が有名なサザエさんのお家も、どちらも「4号建築物」。そしてこれら建物がこの春の改正により、全ての2階建てと大きな平屋は「2号建築物」に、延床面積200平方メートル(約60坪)以下の平屋は「3号建築物」に再編されてしまいます。
先の例で言えば、のび太くんの家は2階建てなので「2号」です。サザエさんの家は大きいですが、さすがに60坪もなさそうなので「3号」になると思われます。
さて読者の皆さんの大切な我が家が「旧4号」から「新2号」や「新3号」になったとしましょう。それで何が問題になるのでしょうか?
「これまでの4号」には「特例」がかかっていた
実は今まで「旧4号」の建物は、新築時にこそ建築確認の申請と完成後の審査が一般的でしたが、増築などを伴わない通常のリフォーム工事では、申請や審査を省略できる「4号特例」によって、多くの工事でなんの規制も受けてきませんでした。
それがこの春から小型の平屋である「新3号」をのぞく、「新2号」で「大規模なリフォーム工事」を行う場合、申請や審査が必要になってしまうのです。
建築確認の申請は、建築士に頼ることが一般的です。なぜなら、確認申請書のほか平面図や立面図などの図面一式、構造計算書、各種計算書など多数の書類が必要で、一般素人では不可能だから。
建築士にそれら書類の作成や役場窓口での手続き代行を依頼することになるため、今までのリフォーム工事に比べて工期が大幅に伸びると同時に、コストの増加(数十万円程度)も懸念されています。
誰が「リフォームを急ぐべき」なのか?
では、すでに春から「新2号」になるような2階建ての住宅を所有していて、近いうちにリフォーム工事を考えている場合はどうなるのか?
おさえておきたいポイントは「すべてのリフォーム工事」で建築確認申請が必要になるわけではないことです。
改正法によれば、確認申請や完了検査が必要になってくるのは「大規模な修繕・模様替え」のとき。「主要構造部(筆者注:外周の壁・柱・梁・2階の床・屋根・階段)の一種以上を、過半にわたり修繕、模様替え」する場合とされています。つまり、住宅の構造部分に大きく手を加える工事のときだけなのです。
例えば塗装などはもちろんのこと、外周の壁、2階の床、そして屋根などに手を加える場合でも、骨組み部分にまでは手をつけず、床板や壁板、屋根板など表面の部材の張り替えや、上から覆うように新しい部材を張るカバー工法のような工事なら全く問題ありません。外壁や床の「下地の合板」を外して断熱材を補充するくらいも大丈夫と考えられます。
また、1階の床や、室内にある間仕切りの壁については主要構造部に該当しないので、比較的自由に手を加えられる可能性が高いでしょう。
さらに、もし主要構造部に手を加えるような工事の場合でも、その範囲が建物全体の半分以下であれば「大規模な修繕」とは見なされません。2階の床や外壁、屋根などは面積の1/2以下、柱や梁は本数の半分以下の工事であれば「申請・審査」なしでリフォーム工事を行うことが可能です。
「世の中のリフォームのほとんど」はどちらに当てはまるのか?
改正後、新たに「申請・審査」が必要になりそうなリフォーム工事には次のようなものが考えられます。
〈・過半の外壁を撤去し、構造材(柱や梁)を補強・交換する工事
・面積の半分以上の2階床板を外し、根太や梁を補修・交換する工事
・屋根の骨組みに手を加え、屋根形状を変える工事
・既存建物の外側に新たな部屋を増設する、または部分的に取り壊す工事
・内壁や柱の多くを撤去して間取りを大幅に変更する工事〉
さて、こうやって工事のリストを見てみると、「申請・審査」が必要なケースは素人目にも「いや、そりゃ少しは縛りが必要だろ」って工事ばかりだと思いませんか?
そうなんです。実は今まで「重要な構造」に手を加える大規模なリフォーム工事でも「申請・審査」が不要なケースは多かったため、工事後のトラブルが問題となっておりました。今回の法改正には、危険なリフォーム工事を未然に防ぐ意味合いもあるのです。
改正後に「申請・審査」が不要な工事を見てみよう
それでは逆に改正後も「申請・審査」が不要なリフォーム工事にはどのようなものがあるのかと言いますと、
〈・外壁の内側から柱などに手を加えずに断熱改修を行う工事
・既存の外壁や屋根の上に新しい外装材を設置するカバー工法
・キッチンや風呂など水回り設備の交換工事
・壁紙・床板などの表面材を張り替えるような小規模な模様替え
・1階の床周りを改修する工事
・屋根や骨組みを全体の半分以下の範囲で修理・補強する工事〉
上記のような工事は今まで通り「申請・審査」なしでリフォームすることができます。意外と申請なしで大丈夫な工事が多いと思いませんか?
今回の改正も含め「建築基準法」の目的は、建物の持ち主を困らせることではなく、「安全で安心して住める建物を多くの人に提供すること」にあります。
こういった「工事の内容」や「法律が縛る範囲」をうやむやにして、「全てのリフォーム工事で『申請・審査』が必要になります! 急いで今のうちに契約を!」と、いうような誤認させる広告をだしているリフォーム業者には注意が必要なのです。
逆に、しっかりその改正の意味を理解すれば、自分に必要なものもわかります。たとえば、「新3号」については「旧4号」と同じ扱いが続きますから、これからリフォームを前提に中古物件の購入を計画するなら、木造平屋の選択を考えるのも良いかもしれません。
2025年4月の法改正に関しては、今後さらに細かい通達が出る可能性があります。ご自宅がある地域や建築年代によって施工方法が変わる例もあります。ご自宅のリフォーム工事で新たな構造計算や建築申請が必要になるのかどうか不安な場合は、信頼できる地元の工務店や市区町村の建築課に問い合わせるといいでしょう。
まずは怖がらずに行ってしっかり相談してみれば、親切に教えてくれますし、そのときにも大まかな改正の趣旨を理解して聞くと、より納得してリフォームができると思います。
写真=阪口克
(阪口 克)
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