PSA、膀胱鏡…「前立腺がん」早期発見に必要な検査とは?《余命半年宣告の医療ジャーナリストが綴った教訓》
文春オンライン / 2025年1月7日 6時10分
長田昭二氏 Ⓒ文藝春秋
長田昭二氏(59)は余命半年の宣告を受けながら執筆活動を続けている。医療ジャーナリストとして前立腺がん闘病から学んだ「教訓」を詳らかに綴った。
◆◆◆
「偶然」からがんは見つかった
(1)PSA「4」を超えたら画像検査
前立腺がんは、進行して骨転移でもすれば痛みが出るし、がんの場所が尿道近くなら尿や精液に血が混じることもある。だが、基本的に早期では無症状だ。つまり早期で見つけるには、前出の腫瘍マーカー「PSA」に頼るしかない。
PSAは血液を採取して調べる。現在日本では9割以上の市町村が健康診断のメニューにPSAを入れており、毎年健診を受けていればスクリーニングできる可能性は高いが、受けなければ見つけるチャンスは限りなく少ない。筆者の場合、真夏の炎天下でランニングをしたあと、「真っ赤な尿」を見て驚いて診療所を受診。検査を受けたところ、真っ赤な尿は脱水によるもので血尿ではなかったのだが、その時に受けた血液検査でPSAが「3.5」と高く出たことから前立腺がんの疑いが生じた――という経緯がある。つまり「偶然」から見つかったのだ。
PSAの値が「4」を超えると統計的に前立腺がんがある可能性が高まる。PSAだけではがんと断定できないが、PSAが4を超えている、あるいは4以下でも1年間で0.75以上の上昇が見られたときは要注意。泌尿器科を受診して、次のステップに進むべきだ。
(2)膀胱鏡は「軟性鏡」なら痛くない
「次のステップ」とはMRI(核磁気共鳴画像法)による画像検査だ。検査着に着替えて検査台に横たわるだけなので、音がうるさい以外に苦痛はない。がんがあれば画像上に白く光るものが浮かび上がる。
筆者が初めて前立腺がんのMRIを受けたとき、小さく光るものが写った。しばらく放置していたらPSAが上昇し、2年後に再び撮影したら「光るもの」は大きくなっていた。「がんと思われるもの」は確実に成長していたのだ。
「被検者」から「患者」へ
そこでさらに次の段階の検査に進むことになった。膀胱鏡検査だ。陰茎の先から管状の内視鏡を挿入し、尿道と膀胱の内部を観察する。これは痛そうだ。筆者はこの検査が恐かった。過去にこの検査を受けた知人が、あまりの痛さに耐えかねて、医師から膀胱鏡を奪って自分の手で引き抜いた――と話していたのだ。
しかし、この検査に伴う痛みに関しては、いまは心配不要だ。たしかに、少し前までは「硬性鏡」という硬い棒状のカメラを使っていたので、被検者は耐えがたい苦痛を強いられたが、いまは「軟性鏡」というフレキシブルなカメラが普及し、その苦痛は劇的に低減されている。筆者は事前に刷り込まれていた恐怖心が強かっただけに、実際の検査は拍子抜けするくらいにラクだった。胃カメラや大腸内視鏡検査に鎮静剤を使う「無痛検査」があるが、軟性鏡による膀胱鏡検査はまさに無痛検査に匹敵する。事前に医療機関のホームページなどで軟性鏡を導入しているかどうかを確認してから受診するといいだろう。
(3)組織検査は「ターゲット生検」で
各種検査で前立腺がんの疑いが濃くなると、最後の検査として生検、つまり前立腺に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で見てがんの有無を調べることになる。従来は肛門から専用の器具を挿入し、直腸越しに針を刺して組織を採取していたが、近年は「ターゲット生検」という検査法の導入が進んでいる。
従来の方法は前立腺の十数カ所に針を刺して、その中の1本でもがん組織を捉えていたら「前立腺がん」の確定診断が下りるという流れだった。しかしこれは、がんを確実に捉えることを約束するものではない。
そこで、MRIで写した「がんと思われる部位」の画像を3次元処理して、そこを目標にして針を刺すターゲット生検の臨床導入が進んでいる。この検査は直腸越しではなく、会陰部(陰嚢と肛門のあいだ)から直接針を刺す。麻酔をしているので痛みはない。被検者は医師と同じモニターを見ているので、針が確実に目標の組織を捉える過程を見ることができる。
筆者はこれらの検査を経て、前立腺がんのステージ1〜2a、つまり早期の前立腺がんという診断を得た。その瞬間、筆者の立場は「被検者」から「患者」に変わった。
(監修/東海大学医学部腎泌尿器科学領域主任教授・小路直医師)
※長田昭二氏の本記事全文「 前立腺がん 余命半年だから伝えたい10の教訓
」は、「 文藝春秋 電子版 」に掲載されています。全文においては、性機能や体形の変化、副作用の内実、めまい発作の対策、医師選びの重要性などについて語られています。
■連載「 僕の前立腺がんレポート 」
第1回「 医療ジャーナリストのがん闘病記 」
第2回「 がん転移を告知されて一番大変なのは『誰に伝え、誰に隠すか』だった 」
第3回「 抗がん剤を『休薬』したら筆者の身体に何が起きたか? 」
第4回「 “がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか 」
第5回「 抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由 」
第6回「 ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル 」
第7回「 恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤の『想定外の驚き』 」
第8回「 痛くも熱くもない〈放射線治療〉のリアル 照射台には僕の体の形に合わせて… 」
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第10回「 『薬が効かなくなってきたようです』その結果は香港帰りの僕を想像以上に落胆させた 」
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第17回「 〈再び上昇した腫瘍マーカー〉「ただのかぜ」と戦う体力が残っていない僕は「遺言」の準備をはじめた 」
第18回「 『余命半年』の宣告を受けた日、不思議なくらい精神状態は落ち着いていた 」
第19回「 余命宣告後に振り込まれた大金900万…生前給付金『リビングニーズ』とは何か? 」
特別編「 前立腺がん 余命半年だから伝えたい10の教訓 」
(長田 昭二/文藝春秋 2025年1月号)
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