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「希望はあるのか、世界に未来はあるのか」“イカゲーム2”で監督が描いた世界の分断

文春オンライン / 2025年1月7日 7時0分

「希望はあるのか、世界に未来はあるのか」“イカゲーム2”で監督が描いた世界の分断

「イカゲーム」S2(イ・ジョンジェ) Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

 2021年秋にNetflixで配信され世界的なブームを巻き起こした「イカゲーム」。12月26日、3年ぶりに待望のシーズン2が配信され大ヒット中だ。シーズン1で死のゲームを勝ち抜き456億ウォン(日本円にして約45億円)という大金を手にした主人公ソン・ギフンは、再び死のゲームに身を投じることになる。金ではなく、復讐のためだ。今回もそれぞれの事情から金が必要な参加者たちは死のゲームに挑むが、456人のうち一人しか助からない。しかし、「イカゲーム2」ではギフンはそれを変えようとする。監督のファン・ドンヨクと主演のイ・ジョンジェが取材に応じた。

シーズン1と今作との最大の違いは「投票システム」

 シーズン 1 では、ギフンたち参加者が借金まみれである背景に韓国の金融危機や、行き過ぎた競争社会があったが、シーズン2には不安定な世界情勢が反映されている。

ファン監督:「前作はパンデミックの最中に公開されましたが、その後も世界は良くはなっていません。むしろ本当に悪い方向へ向かっています。富の格差は開くばかりで、世界中の難民問題、気候変動問題も悪化し、世界中で起こっている悲惨な戦争により、さらに多くの死がもたらされています。そして若い世代は、もはや富を創造したり、働いて裕福になりたいとは思っていません。彼らは、暗号通貨などに投資して手っ取り早くお金を稼ぐことを望んでいます。これは韓国だけでなく、世界中で起きていること。こうした現実世界の出来事は、間違いなく私の創造性に影響を与えています」

 悪くなる一方の世界を変えられるのか。主人公の456番ことギフンのいう復讐もベースには、それがある。彼は全ての黒幕を暴き、残酷なゲームに終止符を打つために、ゲームの世界に帰ってきた。ギフンの復讐は死んでいったプレイヤーたちの弔い合戦が名目だが、それは一人勝ちになりがちな資本主義の暴走を止められるのか、という問いでもある。そこでファンがシーズン2で取り入れたのが、投票というシステムだ。参加者たちは、1ゲームごとに、ゲームを続けるか、それともやめるか、を多数決で決めることができる。しかし、この民主的に見えるシステムがまた、争いを生むことになる。

 イ・ジョンジェはソン・ギフンを演じる上でも、シーズン1と2では大きな違いがあったという。

イ・ジョンジェ:「ギフンは前回、感情面で大きな変化を経験しました。シーズン1で初めて他のプレイヤーに感じた気持ちと、シーズン2で他の参加者に会ったときに感じる感情とはまったく異なります。言ってみればシーズン1では自分の感情を表現することにギフンも私も重点を置いていました。 しかし今回は他人の感情を受け入れ、注意を払っている。ギフン以外、ゲームのプレイヤーは全員新顔です。前回とはまったく違う、より親しみやすい、応援したくなるキャラクターたちに出会えますよ。でも何よりシーズン1との最大の違いは、各ラウンドの後にプレイヤーが投票するということだと思いますね」

「実は私は、シーズン2全体を通して、私たちに本当に希望はあるのだろうかという問題に焦点を当てていました」

 前作にも投票はあったが今度は、プレイヤーたちは毎回、ゲームの続行を自らの判断に委ねられる。生き残った者たち全員で賞金を分配して解放されるのか。それとももう1ゲーム続けて、脱落者の命を代償に、少しでも多くの金を手に入れるのか。より多く稼ぎたい者たちと、そうではない者たちが分断していくのだが、それがまさに現代社会の象徴となっている。

ファン監督:「シーズン2の制作中、私が最も心に留めていたのは、現在の世界と、それがいかに私たちを分断させているかでした。つまりお互いを他のグループから引き離し、反対側と認識した相手に対しては敵対心を抱かせている。 今日、私たちを分断するものは多いのです。 人種、宗教、言語、持てる者と持たざる者、世代間の分断。そして最近、非常に重要な投票(アメリカ大統領選挙のこと)が行われ、私たちは、左派と右派、保守派と進歩派の対立という政治的な分裂を目の当たりにしました。 こうした分裂は、米国とメキシコの間に建設されようとしている壁のように、まるで絶対に越えられない一線があるように思えてしまう。 世界の指導者たちが作り出しているだけなのに。

 すると私たちは、反対側にいる自分と違う判断をした人は、決して許されない敵であると考えるようになります。『イカゲーム2』では、各ラウンドの後に投票が行われ、○か×のどちらかに投票しなければなりません。その結果、ゲームに参加している人々は『私は正しい。あなたは間違っている。私は天使。あなたは絶対的な悪だ』と考えるようになる。実は私は、シーズン2全体を通して、私たちに本当に希望はあるのだろうかという問題に焦点を当てていました。つまり私たちが皆をいくつかの陣営に分け、互いに敵対するようになった世界に未来はあるのだろうか、と。このままだと、あらゆる場所に壁が建てられ、持てる者は、持たざる者が壁を越えられないように邪魔をする、というまるでSFのような社会があっという間にできてしまうと私は本気で思います。そんな社会には住みたくない、と思いながらシーズン 2 を作っていたんです」

「イカゲーム」のシステムとルールを知っているギフンは、この死のゲームをやめさせようとプレイヤーたちを説得するのだが、なかなかうまくいかない。自分だけは大丈夫、と思っている人のなんと多いことか。欲だけでなく、正常性バイアスも人の目を曇らす。これもまた現実社会の縮図だ。

イ・ジョンジェ:「シーズン1の後、ありがたいことに世界中のファンやメディアの方に会い、非常に多くの経験をしました。そこで学んだのは、私たちが世に出すもののテーマや主題がいかに重要であるかということ。つまり『イカゲーム』の成功は、そのテーマが世界中の多くの観客の共感を呼んだからだと実感しました。ですから俳優として今回そのテーマをどれだけ生々しく表現出来るかに、意識を傾けました。でも同時に、テーマに集中しすぎると、番組全体が少し重くなりすぎる。だから適切なバランスを取ろうと努力しましたね。また、シーズン2の状況はすべてシーズン1に由来しているため、前回ギフンはどのような感情を経験したかを思い出すことにも時間をかけました。番組をもう一度見直して記憶を掘り下げ、監督にもたくさんの質問をしました」

主人公がゲームに戻る理由と監督が全員に投げかけたかった問い

 実はこの取材はアメリカ大統領選の最中に行われたが、この後、韓国ではユン大統領による戒厳令の発布と失効、そこから大統領弾劾という一連の事態が起きた。そこでは「投票」の意味が本当に重く、保守勢力である与党議員を説得する野党議員は、まるでギフンとその仲間のようである。実際にはドラマの方が先に作られていたのだが。

ファン監督:「シーズン1終盤、ゲームの陰にいるVIPの存在がわかります。あれは誰か特定の人物を表すのではなく、富であれ政治的影響力であれ、現在のシステムを作りそれを維持したい人、既得権益者のイメージとして私は作ったんです。シーズン2では、ギフンはこれらすべての背後にいる首謀者を見つけようとします。それが彼がゲームに戻る理由です。しかし、シーズン2と3で私が見せたいのは、悪人をギフンが止められるかどうかではありません。それよりも、私たち、つまり弱い立場にある人々に、世界をより良い場所にしようとする意志と強さがあるかどうか、という問いかけでした。それをもう少し大きなスケールに広げると、人類は、人間として、世界の流れを変えるために必要なものを持っているでしょうか。そして、より良い世界を一緒に作るために、私たちは欲望を手放すことが本当にできるのか。私が提起したかった問いの一つはこれです。だからゲームの背後にいる人物の詳細を描くことにあまり興味はありませんでした」

 実際、シーズン2では黒幕の実像はまだわからない。しかしギフンは、見えない敵を相手に戦おうとする。そのため彼に出来ることは、仲間を増やすことだ。

ファン監督:「歴史を振り返れば、権力者が悔い改めたことで世界が変わったことはありません。そんなことはあり得ない。それよりも権力者の支配下にある大多数の人々、つまり一般市民であるあなたや私が、変化を起こそうとし、共により良い未来を願うかどうかが問題なんです。未来は常に人々次第。それが私たちが全員に投げかけたかった問いなんです」

シーズン2の面白さ

 ここから先はシーズン2を見てから読んで欲しい。

 ギフンは仲間と共に戦うが、敵が目の前にいることに気づかない。実はイ・ビョンホン演じるフロントマンことイノは、彼の目の前に素顔で登場するのだ。優秀な警官だったイノがなぜゲームに身を投じたのかという過去も明らかになるし、スーツ姿のスカウトマン(コン・ユ)の背景も明かされる。ギフンと同じ立場だったものたちが、なぜシステム側に取り込まれてしまったのか。それも「イカゲーム2」で我々が考えなければならない問いであり、最近の多くの選挙が「どうしてこうなった?」という結果に終わることの考察にも繋がる。シーズン2の面白さは、こうした優れた社会考察にもあり、ゴールデングローブ賞でも配信前にも拘らずドラマシリーズ作品賞にノミネートされた。ライバルであるあの「SHOGUN 将軍」が作品賞含め4部門受賞という結果になったが、「イカゲーム2」はいわば『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』と同じ。

 1作目の斬新さがないのは当たり前だし、完結編への橋渡しだから何も解決しない。しかし今観ると『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』は3D看板など細部が先見の明に溢れているし、「イカゲーム2」も時代を予見している。シーズン3は1年後に公開されるようだが、それまでに、世界は少しでも良い場所になるのだろうか。

INFORMATION

「イカゲーム」
Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信 
https://www.netflix.com/title/81040344

(石津 文子/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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