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青学大は令和ロマンなのか!? M-1化する箱根駅伝を読み解く…箱根駅伝2025「TVに映らなかった名場面」往路編

文春オンライン / 2025年1月5日 18時0分

青学大は令和ロマンなのか!? M-1化する箱根駅伝を読み解く…箱根駅伝2025「TVに映らなかった名場面」往路編

大手町をスタートする選手たち ©︎AFLO

 青山学院大が10時間41分19秒の大会新記録で、2年連続8度目の総合優勝を果たした第101回箱根駅伝。

『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド!』 (通称「あまこま」)の監修を行う、駅伝マニア集団「EKIDEN News」( @EKIDEN_News )の西本武司さんは、原点回帰とばかりに、今大会は全10区間追いかけ観戦を敢行。毎年恒例、テレビには映らなかった“細かすぎる名場面“を振り返る。

◆◆◆

「箱根駅伝とM-1は似ている」“二代目山の神”柏原竜二さんも指摘

 今年の箱根駅伝は僕の中で発見がありました。それは「箱根駅伝とM-1は似ている」ということです。これは”二代目山の神“の柏原竜二さんと話していたときに気づいたことです。

 僕は昔、吉本興業に勤めていたのですが、「漫才」と「M-1」は、似て非なるものと思っています。たとえばNGK(なんばグランド花月)のトリを務めることと、M-1で優勝することはまったく違うのです。

 NGKでトリを務められる人は、どんな舞台に立っても老若男女笑わせることができる。一方、最近のM-1は“競技漫才”と言われていて、4分間の中でいかに効果的に審査員とお客さんの心を掴むかというルールに特化した、ドメスティックな進化を遂げています。どちらが上というわけではなく、どちらも面白いけれど、でも全然違うんですね。

「陸上競技」と「箱根駅伝」も同じです。どちらも走る競技なんだけど、陸上競技は世界共通のルールで誰が速いかを競い、箱根駅伝は箱根駅伝で勝つことに特化した戦略を立て、それを実行できた大学が勝つというゲームになりつつあります。

 その中で令和ロマンのM-1と青学大の箱根駅伝はとても似ていると思いました。どちらも傾向を分析し、1年かけて微調整を重ねながら完璧にハックをやりきる手法です。

 2023年のM-1を制した令和ロマンは連覇を狙うべく、テレビにはほとんど出ず、M-1で勝つための漫才を磨き上げ、2024年に連覇を果たします。

 一方の青学大は、昨年、大会前に体調不良者が続出して練習が満足に積めない中で大会新記録で優勝。その結果からこれまで完璧だと思われていたピーキング「原メソッド」を見直し、今大会を迎えました。偶然産まれた大会新記録を必然のものにする。これが101回大会での青学のテーマです。

 箱根で勝つことに特化した戦略を立て、5区を走った若林宏樹選手を「山の神」ならぬ「若の神」と名付けてしっかりと箱根の盛り上がりポイントを抑え、さらに6区の山下りでは野村昭夢選手というスターを生み、新たな見せ場まで作ってみせました。

 令和ロマンが2年連続トップバッターで漫才をし、しっかり会場を盛り上げてM-1連覇したように、青学大も箱根の見どころである「山登り、山下り」で箱根のお客さんをしっかり満足させて連覇するという偉業を成し遂げた。「ただ、勝つだけではなく山でも魅せて勝つ」ことで、うるさがたの箱根駅伝ファンも認めざるを得ない状況を作って連覇を果たしたのです。

 大会後、青山学院大の原監督はいみじくも「(各大学の)メソッド対決になっていると思う」とコメントを残していましたが、つまり令和ロマンはM-1の、青学大は箱根駅伝での勝ち方=メソッドを知り尽くしているということです。

 今回の箱根で、向こう5年、どこも勝てないかもしれない青学大の「箱根駅伝メソッド」が出来上がってしまったと僕は思っています。これはこれで面白いんだけど、僕としては今回のM-1におけるバッテリィズのような、メソッドよりも天然でとにかく面白いという存在も、箱根駅伝に現れてほしいなと思っています。

 さて、前置きが長くなりましたが、それぞれの区間を振り返りましょう。

【1区】中央大・吉居駿恭と兄・大和の“まるでリビング”のようなやりとり

 今回、僕が全区間、追いかけ観戦をしようと思ったのにはいくつか理由があるのですが、その1つが、今年から「あまこま」に掲載した追っかけ観戦時刻表が本当に役に立つのか、監修者として実地調査をしようと思ったからです。

 1区は近年、スローペースとなる傾向が強く、大手町近辺でスタート後の選手たちを見たら、そのまま地下鉄に飛び乗って、三田で選手たちを迎えるというのが我々の黄金ルートでした。

 ところが今大会は、スタート直後に中央大の吉居駿恭選手が飛び出し、さらに他の選手たちが追走しなかったため、トップと後続の距離が離れてしまった。このペースではすべての選手が通り過ぎるのを待っていたら、先頭と後続の差が離れすぎてしまい、先頭に時刻表を合わせるか、最終ランナーに合わせるかで、その後の移動に大きく影響が出てしまう。あまこま片手に移動された方は序盤から、「どこまで見続けるか?」という判断が大変だったことでしょう。

 さて、吉居選手はその後も好走を続け、兄の吉居大和選手が3年前に出した区間記録1時間00分40秒に迫る1時間1分7秒、歴代4位の記録で、見事区間賞を獲得します。

 このあとの区間賞インタビューが秀逸でした。

 箱根駅伝の放送を行う日テレのスタジオには、過去に箱根で活躍した選手がゲスト解説者として呼ばれるのですが、今年のゲストは兄の大和選手。

 通常は先輩・後輩の間柄なので、選手側は敬語になるのが通例ですが、今回の聞き手は兄。初っ端から弟の「これ敬語の方がいいんですかね?」という発言が飛び出し、その後も兄が「まさか出るとは思ってなくて、兄的にはすごくドキドキしちゃったけど…」と語りかけるなど、兄弟だからこその和やかなやり取り。まるで吉居家のリビングにいるかのような錯覚におそわれました。

 兄・大和選手も飛び出しからの好走で区間賞を獲得していますから、駅伝ファンは兄弟揃っての飛び出しが見たいと思っていました。それが叶っただけでなく、兄弟インタビューまで見せてくれた日テレのキャスティングにはグッドジョブ!と伝えたいです。

【2区】國學院大のエース・平林清澄、箱根最後の走りに思うこと

 今大会の注目は、エース平林清澄選手を有する國學院大学。平林選手が4年生になったときに箱根で優勝するという4カ年計画でチームを強化してきました。今季の大学三大駅伝、出雲駅伝と全日本大学駅伝は國學院大が優勝。あとは箱根を取れるかどうか。

 今回のM-1でいうと、優勝まであと一歩の実力派、ヤーレンズです。

 駅伝ファンが注目したのは平林選手がどの区間を走るか。配置されたのは各校のエースが集結する花の2区でした。

 結果は1時間6分38秒の区間8位。タイムは決して悪くはありません。ただ、区間新記録の5分台が3人も出るというスピードレースになったため、平林選手が目立たなかったのが本当にもったいなかった。

 平林選手はもちろん速い選手ではあるのですが、それよりもタフなコースでも粘り強く走れ、持久力に優れたところが持ち味です。今回はその良さが速い選手に囲まれたことで、消されてしまった感がありました。

 ただ、最初に話したように、「箱根」と「陸上」は似て非なるもの。M-1では勝てませんでしたが、世界の大きな舞台での活躍に期待したいです。平林選手は初マラソンを日本歴代7位の記録で優勝していますし、駅伝ファンは彼の凄さを知っているので、今後の活躍を楽しみにしています。

【3区】中央大の躍進を予想した夏の北海道での出来事

 駅伝ファンは青学大の4年生の鶴川正也選手が、最初で最後の箱根駅伝に出走できるかどうかに注目していました。今季、出雲駅伝と全日本大学駅伝で区間賞を獲得し、5000m、1万mでも大学記録を更新するなど、絶好調の鶴川選手を青学大は3区に配置。ところが、その鶴川選手を抑えて区間賞を獲得したのが、中央大の本間颯選手です。

 僕は今年に関しては、中央大をずっと推していました。それには理由があります。

 7月上旬から中旬にかけて、北海道の北見・網走・士別・深川・千歳で順に行われる、ホクレンディスタンスチャレンジというトラックレースでの走りを見ていたからです。

 この大会、一般的にはあまり知られていませんが、暑さが厳しい真夏に、涼しい北海道で行われ、記録が出やすいことなどから、トップクラスの実業団選手が集結。ハイレベルなレースが繰り広げられるとあって、大学生トップランナーも多く参加します。

 中央大は前回2024年の箱根駅伝直前、体調不良者が続出。優勝候補の一角として挙げられながらも、シード権を落としてしまいました。だからこそ今大会では是が非でもシードは取らなくてはいけない状況でした。

 そんななか中央大の選手たちは、昨年のホクレンに出場し、実業団トップ選手の中にあってほとんどのレースで先頭に出て、積極的にレースを引っ張っていたのです。

 1年生から4年生まで、すべての選手に前で引っ張って行こうという気持ちが見えた。こういうことができるチームは強いなと楽しみにしていたのです。

 中央大はシード権を落としていましたから、10月の箱根駅伝予選会と、11月の全日本大学駅伝で、選手を分けて出場させました。そのため予選会の成績はあまり振るわず6位。そのチームがここまでの好走を見せ、本間選手が鶴川選手を抑えて区間賞を獲ったところに箱根の面白さがあります。

【4区】 青学大・太田蒼生の薬指に光るもの…太田よ、ラウールになれ!

 今大会の4区は、青学大の太田蒼生選手への声援がとにかくすごかったです。太田選手は今風のスマートなタイプで、大会後のインタビューでは「箱根駅伝どうでしたか?」と聞かれ、「美しかったです」と、これまたスマートな返事をしています。

 その太田選手が中継所で襷を待っているとき、映し出された左手の薬指に指輪がはめられていたことでSNSは騒然となりました。

 最初に反応したのは青学大OBで“三代目山の神”の神野大地さん。「太田結婚したの?💍」と直球のポストをします。

 神野さんが選手のプライベートに踏み込む“プチ増田明美化”していくことにも今後注目していきたいところです。

 太田選手は実際にはまだ結婚しておらず、婚約中とのことでしたが、僕はさすが篠栗町の子だなと見ていました。

 篠栗町というのは、福岡県にある太田選手の出身地。実は僕も同じ福岡出身なので、太田選手が青学大に入ったときは「篠栗から、よくここまで来たなぁ」と親近感をもって見ていました。篠栗町は福岡の中でも牧歌的な地域なので、結婚も早い。おそらく太田くんの周りも結婚している人が多いのではないでしょうか。「早く結婚したい」というのも太田選手にとっては自然な流れなのでしょう(すべて憶測です)。

 僕としては、せっかく指輪をしたのだから、レアル・マドリーにいたラウール選手のように、薬指にキスをしながらゴールをしたらよかったのに、というのも付け加えておきます。

 さて、今回区間賞を獲得した太田選手は、卒業後はGMOに所属しながら、プロランナーになるそうです。芸人にたとえるなら、M-1で優勝したあと、日本の芸能界には収まらずにアメリカズ・ゴット・タレントでゴールデンブザーを獲得する、そんな想像を超える存在になってほしいです。

【5区】駒澤大・山川きっかけで“こめかみファイテン”が大流行

 “二代目山の神”柏原さんがM-1に一番近いと言っていたのが実は5区です。

 あらゆる人が、どうしたら5区をうまく走れるかを柏原さんに聞きに来るそうです。山登りという箱根にしかないコースをどう攻略すべきか、M-1と同じく特別な戦略を用意する必要があるからでしょう。

 ただ、5区攻略法を聞かれた柏原さんの答えは1つで「100パーセントの力を出せるようにコンディションを整えておくこと」。

 柏原さんは東洋大時代の4年間、毎晩小田原から芦ノ湖のゴールまでを脳内再生してから寝ていたそうです。それを続けた結果、4年目の5区では、走っているときに次に足を置くべき場所が見えたと言います。つまり、走るというよりは見えたところに足を置くだけという状態だったと言うんです。

 メソッドではなく、とにかく100パーセントの力を出すために準備を尽くすこと。実は柏原さんの考え方は、もっともM-1的発想から遠いのかもしれません。

 さて、今大会です。

 2022年の箱根駅伝5区で好走を見せ、今季の全日本大学駅伝では日本人歴代2位のタイムで区間賞を獲得した駒澤大の山川拓馬選手が5区にエントリー。関係者は「新山の神誕生か!」とざわつきました。

 そこで「STOP山の神!」とばかりに、各大学が牽制し合うことに。國學院大の前田康弘監督が「平林選手の5区もありえる」と発言すれば、城西大の櫛部静二監督は前回2区を走った斎藤将也選手を5区に配置。

 さらに前回話題をさらったメガネランナー「山の名探偵」こと早稲田大の工藤慎作選手、そして青学大の「若の神」こと若林宏樹選手が配置され、稀に見る山の神候補が集結したわけです。

 その戦いを制したのは、1時間09分11秒の区間新記録を叩き出した若林選手。今大会の最高傑作を見たと感動しました。

 山川選手は新年度から駒澤大の主将になることが決定。来年は青学から王座奪還を目指してぜひ頑張ってほしいと思っています。 

 さて、その山川選手について1つお伝えしておきたいことがあります。

 陸上選手の体によく貼られている丸いシールをご存知でしょうか。ファイテンが出しているパワーテープというもので、貼ると血行が良くなることから、これまでは疲労の溜まる足や、呼吸が楽になるよう首筋に貼るのが一般的でした。ところが今年の箱根ではこめかみに貼る「こめかみファイテン」が増加。

 実はこれを駅伝界で最初に導入したのが山川選手なんです。パリオリンピックで柔道の角田夏実選手がこめかみにつけているのを見て、「あれはいい」と主将の篠原倖太朗選手のアイデアで取り入れたところ、夏合宿の30km走での集中力が上がったそうなんです。

 そこで出雲駅伝でもこめかみファイテンで出走したところ、話題になり、都大路(全国高校駅伝)、ニューイヤー駅伝でも真似する選手が続出。今回、駒澤大の佐藤圭汰選手もこめかみファイテンでした。

 ちなみに僕もやってみましたが、仕事の集中力も上がるので、ぜひ試してみてください(個人の感想です)。

 構成/林田順子(モオ)

〈 「人間じゃない」青学大・野村昭夢が山下りのヒーローになったワケ…箱根駅伝2025「TVに映らなかった名場面」復路編 〉へ続く

(EKIDEN News)

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