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〈シューズで見る箱根駅伝2025〉箱根ランナーの9割以上が履いていた“絶対王者”ナイキがまさかの転落…アディダスがシェア1位に大躍進した納得の理由〈出場210選手「着用シューズ一覧表」付き〉

文春オンライン / 2025年1月5日 18時0分

〈シューズで見る箱根駅伝2025〉箱根ランナーの9割以上が履いていた“絶対王者”ナイキがまさかの転落…アディダスがシェア1位に大躍進した納得の理由〈出場210選手「着用シューズ一覧表」付き〉

アディダスが目立った今年の箱根駅伝 ©︎AFLO

〈 「人間じゃない」青学大・野村昭夢が山下りのヒーローになったワケ…箱根駅伝2025「TVに映らなかった名場面」復路編 〉から続く

 青山学院大が2連覇を達成、8度目の総合優勝を果たした第101回箱根駅伝。長年、選手の足元をチェックし続けてきた駅伝マニア集団「EKIDEN NEWS」( @EKIDEN_News )の西本武司さんとポールさんは、今大会も予選会から全選手のシューズをくまなくチェック。その結果、ランニングシューズ界に大きな地殻変動が起こっていたことが判明。箱根駅伝から読み解く最新シューズ事情をお伝えする。

◆◆◆

“一強”の座に君臨していたナイキがまさかの転落

 今回、まず一番最初にお伝えしなくてはならないのが、ここ数年トップに君臨していたナイキが、箱根駅伝着用率3位に後退したことです。

 前回大会のナイキ着用率は予選会が62.7%。本戦が42.6%でした。

 そして今大会の予選会のナイキ着用率は46%。それゆえ、私たちが監修する 『あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド!2025』 で、本戦ではナイキが第1党の座を譲る可能性が高いと書いたのですが、結果は予想をはるかに下回る着用率23%! 前回大会の約半数にまで落ちたというのは衝撃です。2021年の箱根駅伝では96%の選手がナイキを着用していたのですから、隔世の感すら覚えます。

 トップに躍り出たのは、前回大会18.3%で3位だったアディダス。昨年の着用者数42人から、今年は76人、36%と大幅にシェアを伸ばし、1位と3位が入れ替わる結果となりました。

【第101回箱根駅伝 着用シューズ内訳】

・アディダス 76人(36.2%)

・アシックス 54人(25.7%)

・ナイキ 49人(23.3%)

・プーマ 25人(11.9%)

・On  3人(1.4%)

・ニューバランス 1人(0.5%)

・ブルックス 1人(0.5%)

・ミズノ 1人(0.5%)

 

 ※文末に出場全選手の着用シューズ一覧を掲載しています。

通常ではあり得ない…1年間で突然シェアが逆転

 ちなみに前回の内訳はこういう結果でした。

【第100回箱根駅伝 着用シューズ内訳】

・ナイキ 98人(42.6%)

・アシックス 57人(24.8%)

・アディダス 42人(18.3%)

・プーマ 20人(8.7%)

・ミズノ 5人(2.2%)

・On  3人(1.3%)

・HOKA  2人(0.9%)

・ニューバランス 1人(0.4%)

・アンダーアーマー 1人(0.4%)

・ブルックス 1人(0.4%)

 これは日本陸上界にとっては数字以上の衝撃があります。なぜなら、日本人ランナーはとても保守的だからです。ランニングシューズにイノベーションをもたらしたナイキのヴェイパーフライでさえ、選手への普及には長い時間がかかりました。それが1年間で突然シェアが逆転するというのは、通常であればありえないことなのです。

昨年3区の熾烈な首位争いで注目を集めたアディダス

 この躍進を後押しする1番のプロモーションとなったのは、前回の箱根駅伝の3区でしょう。青山学院大の太田蒼生選手と、駒澤大の佐藤圭汰選手の熾烈な首位争い。競技実績では格上の佐藤選手を負かした太田選手が履いていたのが、アディダスの「アディゼロ アディオス プロ エヴォ 1」でした。

 このシューズはナイキに圧倒的後塵を拝してきたアディダスが「アディダス史上最軽量」を謳って開発したもの。リリース直後の2023年9月に行われたベルリンマラソンでは、このシューズを履いたエチオピアのティギスト・アセファ選手が、女子マラソンの世界記録を2分以上も短縮する史上初の2時間11分台を達成したのです。

エヴォ1の機能性を引き継いだ、アディオスプロ最新モデル 

 ところがこのシューズ、機能性は抜群なのですが大量生産ができず、価格は1足8万円超。耐久性もなく、なんともコスパのよくないシューズになってしまったのです。そこで「多くの人に履いてもらえるものを」とアディダスが2024年秋に発表したのが「アディゼロ アディオス プロ4」です。これはアディオスプロの最新モデルと位置付けられていますが、実はエヴォ1の機能性を引き継いでいます。

 エヴォ1のイノベーションは、ソールの角度にあります。アディダスはドイツ本社に世界のトップランナーを招待し、レースを開催。そこで得た動作データを解析したところ、ケイデンス(足の回転)が上がるソールの角度を発見。それを搭載したのがエヴォ1であり、プロ4なのです。

 さて、アディダスは開発だけでなく、伸びそうな大学にアプローチをするという戦略もとりました。もともとユニフォームを提供していた青山学院大、國學院大、創価大はもちろん、女子の陸上部もカバーしました。ターゲットはナイキですから、ナイキスクールの名城大に勝つために、立命館大、大東文化大にもアプローチしています。

 そしてアディダスを履いた大学が、2024年に次々と結果を出します。女子駅伝界では2018年から6季連続大学駅伝2冠を打ち立てた名城大には勝てないと言われていましたが、立命館大がその牙城を崩し、全日本大学女子駅伝でも富士山女子駅伝でも勝利しました。

 今回の箱根駅伝でも、2区で区間新記録を出した3選手全員がエヴォ1、6区で異次元の走りで56分台を出した青学大の野村昭夢選手がプロ4を履いています。

 ナイキ一強時代から一転、今では「ナイキでは勝てない」というムードすら漂っているのです。

着用率2位をキープしたアシックスの変化

 昨年と変わらず2位だったのがアシックス。昨年の着用率24.8%からほぼ変わらず、25.7%を維持しています。

 先日、とあるアシックス関係者から、2021年に文春オンラインで書いた記事 「《シューズで見る箱根駅伝》ナイキ一強はどこまで続く? そしてついにアシックスが箱根路から消えた!」 が朝礼で話題となったと言われました。

 思い返せばあのときからアシックスは変わりました。トップ選手の意見を取り入れた新しいシューズを作るというプロジェクトが始まり、メタスピードを開発。さらに熟成に熟成を重ね、2024年10月には シカゴマラソンで、メタスピード(プロトタイプ)を着用したケニアのジョン・コリルが、世界歴代6位の2時間2分44秒で優勝。シックスメジャー大会のひとつである高速レース、シカゴを制したのです。

 さて、ご存知の方も多いと思いますが、メタスピードにはストライド走法向きのスカイと、ピッチ走法向きのエッジがあります。発売当初は、ナイキのヴェイパーフライに近いスカイが圧倒的人気でしたが、現在ではエッジが逆転。アディダスのエヴォ1と同じく足の回転数が上がるケイデンスシューズの着用率が上がっているのです。

 ちなみに今大会では6人の選手がアシックスのプロトタイプを履いています。このシューズ、見た目はシンプルなメタスピードなのですが、実際に手にしてみると、驚くほどに軽い。そして、クッションは「ほぼエヴォ1」と思わせるようなフワフワな触り心地。とある箱根ランナーが試しにトラックで履いてみたところ、スピードが出すぎてトラックが曲がれない(笑)。それほどまでにスピードが出るシューズなのだそうです。

 ナイキはソールで数多くの特許をとっているため、他メーカーはそれを侵害しないアプローチを模索し続けてきました。その中でアディダスとアシックスは、ナイキと違う方向性で攻め、同じ答えに辿り着き、同じ方向性のシューズを作ったということだと思います。

巻き返しを図るナイキの原点回帰

 さて、一気に第3党に転落したナイキの逆襲はあるのか。

 ナイキの敗因のひとつは、イノベーションを起こし続けなくてはいけない社内文化にあると思っています。ヴェイパーフライもアルファフライも、新モデルがドラスティックに変わりすぎて、選手が求めるものとのミスマッチが生まれてきたと感じます。

 その象徴的な出来事がパリオリンピックでありました。

 もともとヴェイパーフライは、マラソン元世界記録保持者のエリウド・キプチョゲのマラソン2時間切りを目指して開発されたシューズです。しかし、彼のために開発されたシューズでありながら、パリオリンピックでキプチョゲは、最新モデルのヴェイパーフライ3ではなく、1つ前の2を最新モデル風にデザインしたシューズで走りました。要は「ヴェイパーフライ2で良かったじゃん」という話です。

 そこでナイキは、今年のニューイヤー駅伝で新たなモデル(記事末のシューズ着用表では「ヴェイパーフライ4(仮)」と表記)をお披露目しました。トップオブトップの選手だけが履いたこのモデルをじっくり観察してみるとデザインも大ヒットモデル、ヴェイパーフライ2を踏襲したものであることがわかります。

 つまりナイキは原点回帰をしたのでしょう。着用選手の結果も悪くありませんでしたから、このシューズで巻き返しを図るのだと思います。

着用率を上げたプーマ、駒澤大・佐藤圭汰選手が履いたOn

 第4党は前回大会と同じプーマですが、着用率は8.7%から11.9%にアップ。着用選手のうち城西大の桜井優我選手が9区で区間賞を獲得、3人が区間3位以内に入っています。

 プーマのシューズはソールが前後で分割されていたり、つま先が前に出ていたりと、ちょっと奇抜なデザインなのですが、それも速さにこだわっているゆえのデザインなのです。城西大や立教大といったユニフォーム契約をしている大学の選手をアメリカに呼び、採寸も行ない、日本人ランナーの傾向を本社で吸い上げていくという力の入れようでした。こうした努力が、着用率の拡大につながったのだと思っています。

 そして第5党に上がってきたのがOnです。着用者数は前回と変わらず全体で3人ですが、7区で区間新記録を出した駒澤大の佐藤圭汰選手が履いたという実績は大きいでしょう。佐藤選手はOnのトップアスリートチームOACの合宿に参加するなど、シューズだけでなく、世界を見据えた練習のサポートも受けていますし、全日本大学駅伝前には開発責任者が故障から練習を再開したばかりの彼や、篠原倖太朗選手の走りをチェックしにわざわざ来日をしていたほどです。

 創価大の吉田凌選手が履いていたのが、パリオリンピックでOnがローンチした紐なしシューズ「クラウドブーム ストライクLS」。これはハロウィンなどの飾り付けで使われる蜘蛛の糸風のスプレーから着想を得て開発されたシューズ。縫って貼ってという既存のシューズ制作とは異なり、ソールを装着した足形に糸を吹きつけて成形するというもの。僕も試し履きをさせてもらったのですが、新感覚の履き心地で、しかもこのシューズを履いた選手がオリンピックで躍進し、一気に注目度が高まりました。今後、駅伝界にどのように浸透していくのか楽しみです。

人気コンテンツになってきた日本の駅伝

 さて、なぜグローバルのメーカーがここまで日本の駅伝に力を入れるのかというと、アジアで日本の駅伝が人気コンテンツになっているからです。特にタイ、中国、韓国、台湾の駅伝好きは、日本の情報をくまなくチェックしているし、熱狂的な駅伝ファンも多いのです。

 だからこそ各メーカーは新作のお披露目の場に駅伝を選んでいます。ニューイヤー駅伝でローンチされたナイキの最新モデルもグローバル初登場でしたし、日本の駅伝が各スポーツメーカーのプレゼンテーションの場になる機会は、ますます増えていくでしょう。

 1年でシェアがここまで激変するランニングシューズの世界。来年はどんな変化が起きるのか。群雄割拠のシューズ戦線は、ここからさらに面白くなるはずです。

構成/林田順子(モオ)

第101回箱根駅伝「シューズ一覧」

 ここからは第101回箱根駅伝「シューズ一覧」を見てみよう。

 

(EKIDEN News)

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