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ありえない“コンクリの塊”、鳥の対策もおろそかに…韓国・死者179人の航空機事故をまねいた“危険すぎる管理実態”〈在韓記者が解説〉

文春オンライン / 2025年1月8日 6時10分

ありえない“コンクリの塊”、鳥の対策もおろそかに…韓国・死者179人の航空機事故をまねいた“危険すぎる管理実態”〈在韓記者が解説〉

1月4日撮影。墜落事故の現場で、法医学の専門家、警察の捜査官、消防士らが作業にあたっている ©EPA=時事

 2024年12月29日、179人が死亡するという悲劇的な航空機事故が韓国で発生した。181人を乗せて韓国・南西部の務安(ムアン)国際空港で非常着陸を試みていた済州(チェジュ)航空の7C2216便が、滑走路の端に設置されたコンクリートの丘にぶつかって爆発し、乗客・乗員の大半が死亡した事故だ。

韓国で報じられている主な事故原因

 事故の正確な原因究明までは、まだまだ時間がかかるものと見られる。現時点において、韓国メディアでは、「務安空港の安全管理上の問題点」と、「済州航空の無理な飛行スケジュール」などを事故の原因とみる報道が目立つ。

 済州航空の7C2216便は181人を乗せて29日午前4時半(韓国時間)頃、タイ・バンコクのスアンナプーム国際空港を出発、8時30分に務安国際空港に到着する予定だった。これまで明らかになった7C2216便の操縦士と管制塔との交信内容や空港周辺の目撃者の証言などを照らし合わせると、事故当時の切迫した状況は次の通りだ。

08:54 務安空港の管制塔から済州航空の7C2216便に対する着陸許可が出る

08:57 管制塔からバードストライク(鳥衝突)に対する警告が出る
 

08:59 滑走路南側で着陸を試みていた旅客機が突然再び空に舞い上がり、操縦士は「鳥と衝突した」として「メーデー」(国際遭難信号)を発信
*目撃者は、「鳥の群れが飛行機のエンジンに吸い込まれ、爆発音とともに右側のエンジンに火花が見えた」と証言している。
 

09:01 旅客機は務安空港の北側を旋回(着陸復行)した後、滑走路の北側で2度目の着陸を試みる。


09:03 客機は車輪を広げられないまま「胴体着陸」を敢行したが、十数秒間滑走路を走った後、滑走路の外に設置された2メートルの高さの外壁に衝突。すぐにものすごい爆発音とともに火炎が巻き上がる〉

なぜこれほど大きな被害となったのか

「胴体着陸」とは非常事態で車輪が出ない場合、胴体を直接地面に当ててその摩擦で速度を落としながら着陸する方式だ。危機の瞬間に遭遇した操縦士の“最後の選択肢”と呼ばれるほど危険な方法だが、成功した例も少なくない。韓国でも1991年に大韓航空の376便が大邱(テグ)国際空港で胴体着陸を試み、乗客全員が無事救助された例もある。

 そのため、「務安空港の滑走路がもっと長く、滑走路の端に設置されたコンクリートの丘の問題がなかったら、被害を大幅に減らすことができただろう」という指摘が、航空安全専門家らを中心にあがっている。

他の空港より滑走路が短かった

 韓国の主要な空港である仁川(インチョン)国際空港の滑走路は3.7km、金浦(キンポ)国際空港は3.6km。韓国内の大半の国際空港は3km以上の滑走路を確保しているのに比べ、務安国際空港の2つの滑走路の長さは2.8kmと比較的短いのだ。

 さらに務安空港は、2025年を目標に滑走路を3.1kmまで延長するための工事をしていた。そのため、今回の事故機が着陸した19番滑走路の末端の300mは使用できないように塞がれていた。結局、事故機が利用可能な滑走路の長さはわずか2.5km程度だった。

 19番の滑走路から264メートル離れた地点に設置されている高さ2メートルの丘は、事故を大きくした最大の要因として指摘されている。この丘は一見、土の山に見えるが内部はコンクリートで作られている。2023年に補強工事を通じて丘の上に30センチ程度のコンクリートの天板を敷き、その上にローカライザー(方位角表示施設)を設置したため一層堅固になった。

 世界的な航空安全専門家らが、「この堅固なコンクリートの丘こそ、今回の惨事の最大の原因だ」と指摘している。国際的な安全規定には、「ローカライザーは非常時に飛行機がぶつかったら簡単に壊れるように設計されなければならない」とあるためだ。

コンクリートの丘について説明していなかった

 そのうえ、務安空港はコンクリートの丘について操縦士にきちんと説明していなかったという。韓国メディアのインタビューに応じたある操縦士は、「この丘がコンクリートの塊だったという事実を知らなかった」と証言したが、「事故機の操縦士も丘がコンクリートではなく土の山だと思ってそこに突進したのではないか」という推測も出ている。

渡り鳥の飛来地に囲まれているにもかかわらず…

 そもそも、務安空港が渡り鳥の飛来地に囲まれているにもかかわらず、バードストライク対策などの安全管理がずさんだったという批判も出ている。務安空港の新たな設置は1998年に当選した金大中(キム・テジュン)大統領の選挙公約だった。しかし、近距離には光州(クアンジュ)空港と麗水(ヨス)空港がすでにあったうえ、務安地域が有名な渡り鳥の飛来地であることから環境団体などを中心に空港建設に反対する世論が強かった。

 2003年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権に入り、建設が頓挫しそうになることもあったが、この地域出身の大物政治家である韓和甲(ハン・ファガプ)議員肝煎りの政策として推し進められ、2007年についに開港した。だが、総人口300万人程度の光州市+全羅南道地域ではすでに既存空港だけでも十分な状態だったため、務安空港の年間利用客は当初の予想値の0.2%水準である1万8000人(2012年基準)にとどまり、韓国の14の地方空港(仁川空港を除く)の中で最も赤字幅が大きい空港となった。

 赤字が大きいだけに、空港管理面でも様々な問題点が明らかになった。まず、周辺に4ヵ所渡り鳥の飛来地があり、バードストライク発生率が地方空港の中で最も高かったにもかかわらず、鳥を追う安全要員は4人のみ。事故当時は、そのうちの1人だけが勤務していた。

 高強度のコンクリートの丘もコスト削減のためであった可能性が高い。2007年開港当時から設置されていたコンクリートの丘は2023年に補強工事を経て、上部にローカライザーと共に「アプローチライト」等の照明施設を設置された。これに対して航空専門家たちは「照明施設とローカライザーを一緒に置くケースはほとんどない」として、「照明施設の重さを支えるためにコンクリートの丘をさらに補強したのではないか」と指摘している。

済州航空の無理な運航スケジュール

 済州航空の無理な運航スケジュールに関する指摘も出ている。LCC航空会社の済州航空は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年から2022年まで3年連続で営業損失を計上。最近は、海外旅行客の増加と年末シーズンを迎え、無理な運航スケジュールを消化しようとしていた。実際、事故機は事故前の48時間に、6ヵ国を行き来しながら13回も運航したという。

 専門家たちは「無理な運航により、機体の疲労度が高かった」と分析する。差し迫った運航時間によって整備などの安全管理が不十分だった可能性もあるという指摘もあるが、これは詳しい調査を通じて明らかにしなければならない問題だろう。

 さらには、韓国の地方空港*の運営と管理を統括する韓国空港公社の社長が、政権の天下りで任命されるケースが続き、政治的な癒着があったという問題も指摘されている。
*仁川空港は含まない

 現在、韓国空港公社は、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に任命された前任社長が退任し、8ヵ月間空席となっている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権で社長と目されていた人物は、大統領府の移転問題などで監査院から重懲戒処分を受けたため、世論と野党からの反対によって任命が保留されているためだ。

「人災」という側面が強い“最悪の航空事故”

 このように、長期に渡りトップが不在という韓国空港公社は、昨年の6月に発表された「2023年度公共機関経営実績評価」では落第点に該当するD(不十分)評価を受けている。ちなみに「安全および災難管理」部門ではE+(非常に不十分)評価を受け、その安全面が早々から警告されていたのだ。

 韓国の“最悪の航空事故”として記録される済州航空事故は、関係機関の不十分な安全意識に起因した「人災」という側面が強い。それだけに、韓国国民の胸の中では2014年のセウォル号沈没事故と2022年の梨泰院(イテウォン)雑踏事故とともに「後進国型」事故として記憶されるものと見られる。

(金 敬哲)

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