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「音楽やめて役者になるとか、わけわからんこと言い出すんですよ」本気でミュージシャンを辞めようと思っていたトータス松本を引き留めた“奥田民生の言葉”

文春オンライン / 2025年1月12日 17時0分

「音楽やめて役者になるとか、わけわからんこと言い出すんですよ」本気でミュージシャンを辞めようと思っていたトータス松本を引き留めた“奥田民生の言葉”

©三浦憲治

〈 「いま飲んでるから来い」ウルフルズ再開前夜、奥田民生に呼び出されたトータス松本が“いじくり倒された夜” 〉から続く

「役者になんのよ、俺は」。今から約20年前、ミュージシャンを本気で辞めようと考えていたトータスを引き留めたのは奥田民生の言葉だった。果たしてどんなやりとりがあったのか。そして同席していた井上陽水のリアクションは……。(全2回の後編/ 前編を読む )

◆◆◆

よく洒落で言ってた「曲は増えても客は減るんや」

――2005年のアルバム『9』のあと、トータスさんは役者に転向しようと考えました。音楽と役者の二足のわらじではなく、音楽をやめようとまで思ったわけですよね。

トータス そうです。そのころ、よく洒落で言ってたのは、「曲は増えても客は減るんや」って。もちろん曲は、どんどん作りつづけるじゃないですか。でも世の中的には、もしかしたら「ガッツだぜ!!」(95)や「バンザイ~好きでよかった~」(96)辺りが、ウルフルズのひとつのピークだったかもしれない。あとは緩やかに下降していってね。

 自分も音楽家の端くれとして、「ガッツだぜ!!」も「バンザイ」も稚拙なところがあるし、ピークにはまだ至ってないと思って作ってるわけです。でも『9』まで行って、もう書き尽くしたというか、もうやることないかみたいに思ったんですよ。それくらい『9』は達成感のあるアルバムで。

「このあいだ言ってたことはどういうことだ」っていきなり怒られて

――じゃあその思いを、飲んでいるときに民生さんに話したんですか?

トータス いや、よく覚えてるのがね、『MUSIC GARAGE』という深夜の音楽特番があって、それに出たんです。僕と民生くん、サンボマスターがいて、あと(木村)カエラちゃんだったかな。その打ち上げでバーに行ったとき、「もうやることやったし、音楽はいいかなと思ってんのよ」って、酔った勢いでしゃべってたんですよ。

 でも民生くんにではなく、サンボの山口(隆)に言ってたんですよね。そのころサンボとか銀杏BOYZとか、若いバンドに勢いがあったし、「俺らの出番もここまでかな」とか。「じゃあその先どうするんですか?」って聞かれて、「役者になんのよ、俺は」って。それに対して山口が「なに言ってんすか、トータスさん!」みたいな感じで、酒を飲みながら楽しく盛り上がってたんですよね。GLAYのTAKUROくんもそこにいて、「僕はいまでも1日1曲書いてますよ」って言うから、「毎日曲書くからってなんやねん!」とか反論して。

 そうしたら数日後か、数週間後だったか、その期間は忘れたけど、民生くんから電話があったんですよ。「いま寿司屋で飲んでるから来い」って。駆けつけたら、民生くんと陽水さん、それから小林聡美さんが寿司屋の一角にいて、民生くんの顔がちょっと怒ってるんですね。なんや、怖いなと思ったら、「お前、このあいだ言ってたことはどういうことだ」みたいにいきなり怒られて。

「歌もギターも俺よりターヘーだけど、やめることはないだろう」

――その前にバーで飲んでいたときは、民生さんはなにも言わなかったんですよね。

トータス なにも言わなかったです。たぶんずっと考えてたんじゃないですか、「あの野郎!」って(笑)。それで「音楽をやめてどうするんだ?」「いや、役者になろうと思ってんのよ」「なれるか、そんなもん!」みたいな感じで怒られて。しかも民生くん、「たしかにお前は歌もギターも俺よりターヘーだけど、それでもやめることはないだろう」って言うんですよ。どんな言い方やと思いません? ターヘー扱いって(笑)。

――そのときまわりにいた人たちはどんな反応だったんですか?

トータス 「え、なんの話?」みたいになるじゃないですか。それで民生くんが「こいつが音楽やめて役者になるとか、わけわからんこと言い出すんですよ」って説明して、みんなが「えー!」って。そんななか陽水さんだけ、「それ、いいじゃない」って(笑)。「音楽やめるの? いいじゃない」って、しきりに言うんです。

 小林さんもわりと中立っていうか、気持ちはわかるみたいに言ってたかもしれない。「ちょっと煮詰まったんでしょう?」って。でも僕は「煮詰まったんやない。今後も曲を書いたところで、世の中にはすでに曲がいっぱいあるから、もう必要ないやろ」みたいに反撃して。すると、また陽水さんが「すごくわかるよ」って、いちいち肯定してくれるの(笑)。全面肯定。

 陽水さんが言うには、「僕も曲ができなくて、メロ先も詞先もいろいろやり尽くして、なにをやってもできないから、最近はベース先だ」って。なんでもいいからベースラインを先にちょうだいって頼んで、それで曲を作るって言うんです。「ただそれでもできなくて、ベース先にドラム先、全部やったから」って(笑)。

民生くんには怒られ、陽水さんには全肯定されて

――曲作りをするとき、メロディーを先に書くやり方と、詞を先に書くやり方がありますけど、そうではなくてベースやドラムのフレーズを先に決めると(笑)。

トータス それが05年だから、陽水さんはまだ50代でしょう? いまの僕と同じくらいとして、僕はまだそんなのやったことない、ベース先とか(笑)。最高な人やなと思って、忘れられないです、そのときのことが。民生くんには怒られる、陽水さんには全肯定される。両方の意見を「はあ」って聞いてましたよ。

 そのあと小林さんは帰って、今度は板谷由夏さんが合流して、4人でバーに行ったんですね。そこでもまた同じ話をして、板谷さんにも相手をしてもらって、朝5時ぐらいに足裏マッサージして帰りました。話はなにも解決せずに(笑)。

とりあえず作るかって、できた曲が「サムライソウル」

――ただそのときの民生さんの言葉が、トータスさんを引き留めるきっかけになったんですよね。

トータス そうそう。帰ってから、民生くんがえらく熱心に引き留めてくれたなと思って、ベタに言うと愛情を感じたって言うんですかね。仮にバンドのメンバーに先に話してたら、メンバーはたぶん反対しなかったと思います。優しいから、僕を尊重して、わかったって。

 でもメンバーに言う寸前の、絶妙なタイミングで民生くんに呼び出されたんです。人をターヘー扱いする変な引き留め方だけど、あんなに引き留める人もいないなと思って。それでとりあえず曲でも作るかって、できた曲が「サムライソウル」(06)。

 民生くんに怒られるまでは、曲を作る気なんて全然起きなかったんですよ。でも民生くんがそこまで言うなら、やっぱり音楽を続けたほうがいいのかなと思って、ちょっと作りはじめたらメロディーができてきて。歌詞は浮かばないけど、三船敏郎しか頭にないから「みふねとしろう」の「あいうえお作文」で歌詞を書いて、じゃあ侍の歌でいいかなみたいな。

民生くんはウルフルズの音楽が好きだったんじゃないですか

――そうしてウルフルズの代表曲のひとつができあがったんですね。お話を聞いてると、民生さんがトータスさんのことをどれだけ好きかがわかります。

トータス 人はよくそう言うんですよ。民生くんはトータスのことが好きだよねって。でも僕というか、ウルフルズの音楽が好きだったんじゃないですかね。その一点に尽きると思います。04年の「J-WAVE LIVE」で、「ウルフルズ with 奥田民生」としてライブをしたときに、僕は大丈夫かなと思ってたんですよ。百戦錬磨の民生くんを呼び込んだものの、民生くんが乗っかれる力量が俺らにあるのかなって。

 それで「こんなふうに演奏しようと思ってるけど大丈夫?」って聞いたら、「大丈夫。だってウルフルズだよ?」って言われたんです。それを聞いて、ウルフルズをすごく信頼してくれてるんだなって。そのウルフルズで曲を書いて、歌ってる松本だから、下手やけどまあよしっていうことなんじゃないですか(笑)。

「いじられキャラ」の下地を作ってくれたのが民生くん

――民生さんはトータスさんの人生に対してもすごく影響を与えていますよね。

トータス めちゃめちゃ影響があったと思います。カーリングシトーンズを始めてからもね、本来の僕はいじられたり、からかわれたりするのが苦手なタイプなんだけど、完全にいじられキャラになって。

 子どものころから、おちょくられるとちょっと面白くないというか、弱みを握られないように虚勢を張るところがあって、わりと孤立しやすかったんです。でもそうじゃないようにしてくれたのも民生くんかもしれない。「お前、かっこ悪いぞ」って言われても、民生くんだとむかつかないんですよ。やっぱり尊敬してるから。それで民生くんがからかいはじめたら、シトーンズのみんなも僕をからかうようになって。

 身内はそういう僕を見て、よかったねって言いますよ。それまではどこかしんどそうだったんじゃないですか? いつも松本は気張ってるな、みたいな。もうちょっと隙を見せたほうが楽ちんなのにって。だからいまはものすごく楽です。後輩のバンドマンにしても、からかわれてる僕のほうが親近感が沸くでしょう? そういう下地を作ってくれたのが民生くんのような気がします。

「愛は勝つ」を歌いながら誰よりも泣いていた民生くん

――そうやっていじったり、からかったりするのも、愛情の裏返しでしょうしね。

トータス そういうところが、なんかチャーミングっていうかね。去年3月の「浜崎貴司GACHIスペシャル in 国宝松江城2024」のとき、KANさんが亡くなったばかりだったから、出演者全員でアンコールに「愛は勝つ」を歌ったんですよ。そうしたら民生くんが誰よりも泣いててね。人前で泣くのをあまり見たことがなかったけど、そのときは歌えなくなるくらい泣いてて。そういうとき、誰よりも我慢しそうな気がするじゃないですか。でも思いきって泣くんやと思って、ピュアな人なんだなって。そんなチャーミングな人であることは間違いないですね。

(門間 雄介)

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