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女の子の足首には9kgのダンベル、胸部には電気コード…家族4人を殺害・海中に遺棄した中国人元死刑囚(40)の死刑執行日

文春オンライン / 2025年1月17日 17時0分

女の子の足首には9kgのダンベル、胸部には電気コード…家族4人を殺害・海中に遺棄した中国人元死刑囚(40)の死刑執行日

2019年に死刑が執行された魏巍

 その日は唐突に訪れた――。

〈「……この事件は、誠に身勝手な理由から、幸せに暮らしていた8歳と11歳の子どもを含む家族全員を殺害し、極めて冷酷かつ残忍な事件であり、なんら落ち度のない4名もの尊い人命を奪った結果は、極めて重大です。

 

 命を奪われた被害者はもちろん、ご遺族の方々にとっても、無念このうえない事件だと思います。

 

 そして、裁判において十分な審理を経たうえで、最終的に死刑判決が確定したものです。

 

 以上のような事実をふまえ、法務大臣として、慎重な上にも慎重な検討を経たうえで、死刑執行の命令を発したものであります」〉

 2019年12月26日、同年10月31日に就任したばかりの森雅子法務大臣(当時)は、福岡拘置所で死刑を執行したことを発表した。

 死刑囚の名は魏巍(ウェイウェイ)、中国河南省出身の40歳である。

親しくした相手の死刑が執行されて

 外国籍の死刑囚に刑が執行されたのは、2009年以来10年ぶりのこと。最高裁第一小法廷で彼の上告が棄却され、11年11月10日付で死刑が確定しているので、それから約8年1カ月後の執行だ。そしてその年月は、私と彼が音信不通となった期間と重なる。

 彼の関わった事件の取材をしていた私は、中国に住む彼の両親に息子が犯した事件のことを伝え、会いに行っている。さらにその後、一審を控えた魏本人と福岡拘置所での面会を重ね、手紙のやり取りをしていた。それは、最高裁で刑が確定するまで続く。

 殺人犯であり、死刑判決が確定するだろうことはわかっていた。だが、そのように親しくした相手の死刑が執行されるのは、私にとって初めてのことである。面会室のアクリル板越しではあったが、交流してきた相手の命が絶たれてしまったとき、胸の奥に鉛が埋め込まれたような気持ちになるのだと知った。

 私と彼との繋がりについて説明するためには、まずは21年前の事件発生時に遡る必要がある。

鉄製の重しが繋がれた遺体

 港湾地区にある埠頭のそばを歩いていた貯木場の作業員は、眼下の海面に浮かぶ、マネキンのような足先があることに気づいた。目を凝らして見ると、それはマネキンではなく、ピンと伸ばした人間のつま先だった――。

 2003年6月20日午後2時25分頃、「人の足のようなものが浮いている」との通報が福岡県警に入った。

 現場は福岡市東区にある箱崎埠頭。駆けつけた警察官が、頭を下に、足先だけが水面に出た全裸の女性の遺体であることを確認。地上に引き揚げたところ、遺体の右手首には手錠がかけられ、その片方には重さ30.45kgの、箱型鉄製重しが繋がれていた。

 遺体の身元はすぐに福岡市に住むBさん(40)であると判明する。詳しくは後述するが、遺体が発見された当日の午前8時半頃、Bさんの父親がBさんとその夫、2人の子供を含む家族4人の捜索願を所轄の東署に出していたのだ。

 そのことから、福岡県警は水中を捜索する機動隊のアクアラング隊を投入。午後6時15分までの間に、まずは手錠とダンベルに繋がれた夫のAさん(41)と娘のDちゃん(8)、最後に手錠とダンベルに繋がれた息子のCくん(11)を水中で発見したのだった。

 彼らの遺体は直ちに東署へ運ばれ、検視が行われた。

いずれの遺体も事件性が疑われ

 身長157cmのBさんの遺体は首にネックレスだけをつけた全裸で、顔面にはうっ血があり、左右の頬に表皮剥脱と皮膚の変色があるが、首に絞めた痕は認められなかった。

 身長174cmのAさんの左手は手錠で重さ9kgのダンベルと繋がれ、そのダンベルには、身長126cmのDちゃんの左足首にかけられた手錠も繋がれている。

 Aさんは灰色の半そでTシャツと黒色のウインドブレーカーズボンという姿で、首には紐状になった透明の粘着テープが巻かれていた。両膝はコートの腰紐で、両足首はベルトでそれぞれ緊縛されており、胸部には電気コードが2周巻かれ、その一端は後ろ手にされた右手首に、もう一端は手錠がされた左手首に巻き付けられた状態だった。

 一方のDちゃんは水色の半そでTシャツに赤色の柄物パジャマズボン姿。顔面にはうっ血と左前頭部に表皮剥脱がある。首のまわりには、ほぼ半周する長さで表皮剥脱を伴う絞め痕が残っていた。

 身長159cmのCくんは白色半そでTシャツに灰色の半ズボンという姿。顔面にはうっ血があり、顔の左側には表皮剥脱と腫脹を伴う皮膚の変色が見られた。

 捜査員による検視の結果、いずれの遺体も事件性が疑われたことから、その日の夜には、司法解剖に回されることになった。

司法解剖で判明した死因は

 福岡市内にある大学で、20日午後10時45分から、翌21日午後4時まで行われた司法解剖では、それぞれの死因について、以下の結果が出ている。

〔Bさん〕入浴中に襲われて、扼頸(手で首を絞められる)による頸部圧迫と、浴槽に水没させられたことによる淡水溺水による窒息死。

 

〔Aさん〕絞頸(手以外のもので首を絞められる)によって窒息状態に陥り、死亡前に海中に投棄されて溺死したもの。

 

〔Dちゃん〕絞頸による窒息死。

 

〔Cくん〕扼頸による窒息死。

 これらの司法解剖の結果を待つまでもなく、Aさん家族4人の捜索願が出された時点で、彼らが行方不明になっていることについて事件性が疑われていた。

 自宅から離れた私立の学校に通うCくんとDちゃんを車で送るため、母親であるBさんの父親、つまり子供たちにとっては「おじいちゃん」である祖父のEさんが、毎朝A家にやってくるのが習慣となっていたのだ。

 その日、6月20日の午前6時25分頃にも、Eさんは普段通り、近くに住むA家を訪ねている。しかし、いつもと違って家に家族4人の姿がない。Eさんは心当たりを探してみたが、彼らの所在は判らないままだ。

室内に土足で侵入した痕跡

 前日の夜、Bさんが子供2人を連れて実家にやって来ており、Eさん夫婦と一緒に夕食を食べていた。その際に普段と変わったところは見受けられなかった。そうしたことから、家族が揃って家を出ることは考えられない。

 家の中を見てまわったEさんは、数カ所に血痕があることに気づく。もしかしたらなにかの事件に巻き込まれたのではないかとの思いが生じ、午前8時20分頃に、所轄の東署に届け出たのである。

 Eさんから事情を聴いた東署は県警本部の捜査一課に即報。それを受けて、捜査員と鑑識課員が、A家に臨場したのだった。

 その結果、玄関と1階の8畳仏間のガラス窓が無施錠で、室内に何者かが土足で侵入した痕跡があることがわかる。

 また、玄関の土間と2階の廊下、子供部屋の2段ベッドの枕などに血痕が付着しており、浴室に入るための戸のガラスが1枚割れて木枠のみとなっていた。

 こうしたことなどから、「事件性あり」として、捜査はすでに始まっていたのだ。その矢先の遺体発見であり、前述の通りの司法解剖の結果である。現場や遺体の状況を総合的に判断して、複数犯による殺人死体遺棄事件とみられたことから、東署に「東区における一家4名殺人・死体遺棄事件」捜査本部が設置されたのだった。

 なお、ここまでに書き連ねてきた事件発覚の詳細については、私を含めた捜査関係者以外の者が、発生時には知る由もなかったことであり、後に取材を重ねたことで、明らかになったものであることをお断りしておく。

 以下、「福岡一家4人殺人事件」と称されるこの事件は、子供2人を含む家族4人が殺害され、全員の遺体に重しがつけられて海中に遺棄されるという、衝撃的な事件として大きく報じられることになった。

 週刊誌からの依頼を受けた私が、この事件の取材に入ったのは第一報が出てすぐのこと。遺体の運搬に車が必要なことや、一人ではとても運べない被害者数であることから、複数犯による事件であることが推測された。さらに、遺体の遺棄に重しが使われるなど、事前に準備がされていなければ成し得ない犯行内容であったため、当初から殺害を予定していたのではないかとも考えられた。

 そうなるとまず、被害者に対する「怨恨」や、小さな子供まで巻き込むことでの、「見せしめ」の意味があるのでは、との発想になる。私は被害者であるAさん、さらに妻のBさんの仕事や交遊関係を中心に、取材を進めていた。

衣料品販売会社を始めたばかりだったAさん

 Aさんの職業について「衣料品販売業」との発表がなされてはいるが、もともと彼は「飲食業」に長らく従事していた。62年4月に福岡市で生まれたAさんは、高校卒業後に佐賀県鳥栖市にある焼肉店を経て、東京都港区にある焼肉店2軒で修業を積み、26歳で帰郷。福岡市中央区で韓国料理店のXを開店する。その2年後、彼はBさんと結婚した。

 Bさんは高校卒業後に、化粧品会社の美容部員になり、その後は福岡空港国際線ターミナルの免税店で働いていたが、Aさんとの結婚後はXを手伝うようになる。

 Xは人気店となり、やがて夫婦は2号店である焼肉店のKを同市東区で開いたが、BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)の影響を受けて、1年ほどで閉店、続いてXも閉店を余儀なくされてしまう。それが02年2月のことだ。

 同年10月から夫婦は、Bさんの親族がやっている衣料品販売会社で働くようになり、03年4月からは、Bさんが知人の休眠会社を使って、衣料品販売会社を始めたばかりだったのである。

 そんな矢先に、家族4人は不幸に巻き込まれてしまったのだ。

〈 海中に手錠が付けられた小学生2人と両親の遺体が…事件後に上海行きの便で帰国した「疑惑の中国人留学生」の正体 〉へ続く

(小野 一光)

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