1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「自宅は世田谷区の4億円豪邸」「愛車は運転手付きのベンツ」“東京オリンピック汚職事件”キーマン・高橋治之(80)とは何者か?

文春オンライン / 2025年1月12日 6時10分

「自宅は世田谷区の4億円豪邸」「愛車は運転手付きのベンツ」“東京オリンピック汚職事件”キーマン・高橋治之(80)とは何者か?

“東京オリンピック汚職事件”キーマン・高橋治之の人生を追う。写真はイメージ ©getty

 質素なスポーツの祭典だったオリンピックを巨額の利益を生み出すイベントに変えた電通にあって、長年、スポーツ局に君臨した高橋治之氏。慶応幼稚舎から慶応大学に進み、電通、という当時の超一流企業にコネで就職。誰もがうらやむエリートコースを進んだ人物は、なぜ逮捕されたのか? 彼の人生をジャーナリストの西﨑伸彦氏の『 バブル兄弟 “五輪を喰った兄”高橋治之と“長銀を潰した弟”高橋治則 』より一部抜粋してお届けする。(全4回の1回目/ #2 を読む)

◆◆◆

約2億円の賄賂

「私は、すべての控訴事実について無罪を主張します。理事として協賛企業を募る職務に従事したことはなく、理事の職務として取り計らいをしたこともない。企業から受け取った金銭については、民間のコンサルティング業務に対しての報酬であり、あくまでビジネス。理事としての職務に対しての対価ではない」

 2023年12月14日、東京地裁の104号法廷。グレーのスーツに臙脂色のネクタイ姿で法廷に現れた被告の男は、起訴状の朗読の間、証言台の椅子に腰かけ、睨みつけるような厳しい視線を検察官に向けていた。そして裁判長に促される形で立ち上がり、罪状認否に入った時だ。スーツの内ポケットから紙を取り出すと、「読ませて頂きます」と告げ、早口でそう捲し立てたのだった。

 この日、東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、受託収賄罪に問われた大会組織委員会の元理事、高橋治之の初公判が開かれた。

 検察側は、元電通専務の治之を“スポーツマーケティングの第一人者”と呼び、彼がスポンサー企業の選定や公式商品のライセンス契約について“働き掛け”をした見返りに賄賂を受け取ったと指摘。紳士服大手のAOKIホールディングスや出版大手のKADOKAWA、広告大手のADKホールディングスなど5つのルートで捜査を進め、計15人を立件した(うち11人はすでに有罪が確定)。冒頭陳述で明かされたのは、治之が自ら代表を務めていたコンサル会社「コモンズ」などを受け皿に、総額で約2億円の賄賂を受け取っていた克明な経緯だった。

 治之は、2014年6月に組織委員会の理事に就任。組織委員会の役員らは、特措法の規定で「みなし公務員」として扱われ、職務に関する金品の受領が禁じられていた。ただ、定款には理事の具体的な職務が記されておらず、スポンサー企業との契約は理事会に報告されるのみで、元首相で会長の森喜朗に事実上一任されていた。その森が「マーケティング担当理事」として重用し、スポンサー集めを任せていたとされるのが、治之だ。

 スポンサー企業は上位の「ゴールドパートナー」、それに次ぐ「オフィシャルパートナー」、そして「オフィシャルサポーター」の3つに分類され、マーケティング専任代理店に指名された電通が、販売協力代理店のADKや大広などの協力を得て契約獲得に尽力。治之の提案などで、それまでの「一業種一社」の原則を撤廃し、国内スポンサー68社から3761億円を集めた。

 古巣の電通で絶大な影響力を持つ治之は、電通から組織委員会に出向していたマーケティング局長らを呼び付け、自ら依頼を受けた企業に便宜を図るよう迫った。それらは“高橋理事案件”と呼ばれ、特恵事項として扱われたという。

「5000万円にしてやれ。5000万円って言っちゃったよ。俺の顔を立ててくれよ」

 コロナ禍で大会の開催が1年延期され、各スポンサー企業に原則1億円の追加協賛金を求めることになったが、治之は自らが関与した企業の追加協賛金を半額にするよう迫ったという。そこでの生々しいやり取りも法廷では明かされた。

 一連の汚職事件は、電通を巻き込んだ談合事件へと発展。底なしの広がりを見せた。東京五輪の開催が決まった2013年9月の“ブエノスアイレスの歓喜”から約10年。「復興」「コンパクト」「多様性と調和」を掲げたスポーツの祭典は、総額1兆4238億円という空前の巨費が投じられ、カネと利権に塗れた大会へとすり替わっていった。

 その真の総括は、すべてを知る男、高橋治之を抜きには語れない。

裁判で見せた弱々しい姿

 初公判から遡ること約2カ月半前の9月27日。治之は、東京地裁429号法廷の証言台にいた。

 前年の12月26日に3度目の保釈申請が認められ、東京拘置所から車椅子姿で報道陣のカメラの前に現れて以来、初めての公の場だった。この時の姿は、初公判とはまるで違っていた。マスクをつけ、首には水色のコルセット。髪の毛は油っぽくベッタリと張り付き、グレーのスーツにも皺が目立った。ヨタヨタ歩く姿は、病人そのものだった。

「どうぞお掛けになって下さい」

 裁判長からそう勧められ、座ろうとするが、スッとは座れず、両手を証言台の机の両サイドに置いてゆっくりと着席。宣誓書の朗読で立ち上がる際にも何かにつかまらなければ立てない状態だった。

 治之は、計4回逮捕・起訴され、いずれの事件も否認していたため、保釈のハードルは高いと見られていた。だが、首に持病を抱えており、手術の必要があったことから保釈が認められた。一貫して贈賄罪について否認を続けたKADOKAWA元会長の角川歴彦が、約7カ月勾留され、2億円の保釈金だったことを思えば、4カ月余りの勾留で保釈金が8000万円だった治之は、まだマシだったと言えるかもしれない。実際に、保釈後は首にボルトを埋め込む手術を受けており、痛々しい手術痕が残っているという。

 この日は、贈賄罪に問われた大広の元執行役員、谷口義一の公判が朝10時半から行なわれていた。谷口は無罪を主張し、検察側は治之を証人として申請。彼にとっては不本意ながらも避けては通れない証人出廷だった。拒否すれば、保釈を取り消される可能性があったからだ。

「今般は大変申し訳ございません。刑事訴訟法146条に基づいて、一切の証言を拒否することにしたので、お答えすることはできません」

 治之は、経歴を尋ねる検察側に対して、繰り返し、回答を拒否した。しかし、検察側は押収した治之の手帳のコピーを見せるなどして執拗に追及を続けていく。

「暑いのでマスクを外していいですか?」

 治之はマスクを手に取ると、押し問答のようなやり取りに飽きたのか、時折手でマスクを弄びながら、腕時計をチラチラと確認する。

「まだ質問あるの?」

 しつこく食い下がる検察官に苛立った様子で、治之はこう牽制したが、それでも検察官は構わず質問を繰り出した。証人尋問が始まって1時間が経過しようとしていた。

 検察側が、治之の署名、指印がある8通の供述調書についても言及すると、治之は後ろ手に手を組みながら、「妥協して署名したものもある」「あんまりしつこいから、まぁいいや、と」などと投げやりに答えた。

 これに対し、検察側は取り調べ時の様子について明かし、「腰が痛いので、足を組んで調べを受けることを許して貰った」「休みの日にわざわざ検事が来たことに対してお礼を言った」「立会事務官に気軽に話しかけた」「喉が渇いたので水を要求した」などと指摘。治之は「いくつかは面倒臭くて署名した」とだけ答え、再び時計を見た。

「まだあるの?」

 苛立たしさを滲ませて問い返すと、検察官が「不規則発言は控えて下さい」と制する始末。検察に協力する素振りは何一つ見せなかった。

 昼の休憩を挟み、午後の弁護側の尋問は早々に終了。計4時間を予定していた証人尋問は、ほぼ中身がないまま切り上げられ、10月2日に予定されていた次回証人尋問も中止となった。治之は来た時と同じく、ゆっくりと歩いて退室した。

 それから数時間後。ヨタヨタ歩きで病人そのものだったはずの男の姿は、思わぬ場所にあった。

高級ホテルのスパでサウナ・マッサージ

 都内屈指と言える高級ホテルの27階。そこにあるのは、治之が長年通う会員制の「フィットネス&スパ」だ。施設内にはゆったりとしたジムスペースのほか、都内のホテルでは最大規模の25メートルプールが5レーンあり、水着で入れるジャグジーも併設されている。さらに更衣室を抜け、奥に進むと、ドライサウナやミストサウナ、そして浴室がある。別室には汗を流した後に眺望を楽しみながらくつろげるサロンもあり、無類のサウナ好きで知られる治之にとっては、この上ない安息の場所だった。

 実は、保釈翌日にも、治之はここを訪れている。長男に肩を担がれ、杖をつきながら姿を見せると、まるで政治家が聴衆の声援に手を上げて応えるかのような仕草で、顔馴染みのメンバーたちの前に現れたという。

 前日のニュースで保釈されたことは知っていたとはいえ、まさかこれほどすぐに顔を見せるとは思っていなかった仲間たちは、驚き、唖然とした表情で、勾留生活でやつれた治之を迎えた。

 以降の治之は再びスパに通い、サウナとマッサージで癒やされる日常を取り戻した。当初は人目につかない車寄せから出入りしたが、そのうちに正面玄関に堂々と愛車で乗り付けるようになった。愛車は以前と変わらず、運転手付きのメルセデスベンツ。2000万円は下らないという最上級クラスのマイバッハで、かつて東京五輪の招致が決定した当時は「2020」のナンバーだった。その後、東京五輪に問題が噴出すると、ナンバーは治之の生年月日にちなんだものに変えられた。

 もとより宵越しのカネは持たないタイプで、銀座の高級クラブ通いを続ける派手な生活ぶりから、電通時代は「高橋の年間予算は約2億円」とも言われたほどだ。

 外食の機会も増えたようで、11月中旬には、都内の隠れ家的な韓国料理店を複数名で訪れていた姿が目撃されている。店のオーナーとは知り合いらしく、焼酎を口にしながら、店員が焼く厳選された肉に舌鼓を打つと、自ら支払いを済ませて、お土産を持って店を後にしたという。かつては六本木で高級ステーキ店「ステーキ そらしお」を経営していただけあって、肉好きで、美食家なのだ。

 往時と変わらぬ姿を見せる一方で、事件後、保釈金や裁判費用の捻出に苦慮していた様子も窺える。軽井沢にある別荘なども「手放すことを考えている」と周囲に漏らしており、2023年4月にはコモンズの代表を妻に譲って顧問に退いていた。

 さらに、コモンズ名義で所有していた港区虎ノ門にあるタワーマンションの事務所には、7月に銀座の“名物ママ”がかつて代表を務めていた会社が、1億3000万円の抵当権を設定。このママは、銀座で複数の高級店を経営した後、引退しているが、2012年にも治之に個人で2億円を超える貸付をしていた資産家だ。コモンズは、事務所を同じマンションの下のフロアにある手頃な部屋に移し、業務を縮小しつつ、裁判シフトを敷いている様子だった。

「反撃しようと思っている」

 2023年の8月下旬、世田谷区内に聳える治之邸を訪ねた。閑静な住宅街のなかでも、ひと際目を引く4億円相当の豪邸だ。郵便受けに取材依頼の手紙を投函すると、後日、見慣れない番号から着信があり、留守電にメッセージが残されていた。

「高橋治之です。僕が借りている書斎みたいな場所から電話をしています」

 伝言にはそうあったが、確認すると、それはコモンズの番号だった。折り返すと、すぐに本人が電話をとった。

「取材の依頼は結構来ているんだけど、裁判の前にあんまりやると、良くないらしいんだよね。今は弁護士からも止められている。マスコミは一方的に検察側の言い分を書いている。検察側が(リークを)勝手にやっているんだよ。これから裁判始まったら、反撃しようと思っている」

 フランクな語り口ながら、言葉の端々には怒りを滲ませた。

〈 「絶対に捕まらないようにするから」東京オリンピック汚職事件はここから始まった…逮捕された電通元専務・高橋治之(80)を動かした「ある大物政治家」の言葉 〉へ続く

(西﨑 伸彦/文藝春秋)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください