「絶対に捕まらないようにするから」東京オリンピック汚職事件はここから始まった…逮捕された電通元専務・高橋治之(80)を動かした「ある大物政治家」の言葉
文春オンライン / 2025年1月12日 6時10分
高橋治之氏 ©文藝春秋
〈 「自宅は世田谷区の4億円豪邸」「愛車は運転手付きのベンツ」“東京オリンピック汚職事件”キーマン・高橋治之(80)とは何者か? 〉から続く
「●●さんに『過去に五輪招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない』と言った。すると●●さんは『絶対に捕まらないようにするから、五輪招致をやって欲しい』と。その言葉があったから招致に関わるようになったんだ」
かつて東京オリンピックを承知するために、ロビー活動やスポンサー集めに奔走した高橋治之氏。当初、招致に後ろ向きだった彼の心を変えた「ある大物政治家」の正体とは? ジャーナリストの西﨑伸彦氏の『 バブル兄弟 “五輪を喰った兄”高橋治之と“長銀を潰した弟”高橋治則 』より一部抜粋してお届けする。(全4回の2回目/ #3 を読む)
◆◆◆
「首の手術をしたんだよね。ちょっとずつ良くはなってはいるんだけど、人に会ったりするのがちょっと苦痛なんだよ。弁護士とは会っているけど、他の人には滅多に会っていない。会わないようにしている」
確かに、その後の初公判の時も、首のコルセットは外れていたが、3時間半に及んだ長丁場では、途中からサポーターを取り出して、首に巻き付ける場面があった。
「まぁ、裁判が始まって、様子を見てからだよね。そうしたら話せることもあるかもしれない」
電話口で穏やかな口ぶりでそう語るのだった。
それから2カ月半後、東京五輪の招致を巡る疑惑を再燃させかねない問題発言が噴き出していた。11月17日、石川県知事の馳浩が都内での講演で、衆院議員時代、自民党の「招致推進本部」の本部長として投票権を持つIOC委員に対し、内閣官房報償費(機密費)を使って贈答品を渡したことを暴露したのだ。
馳は、当時の首相、安倍晋三から「必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す。官房機密費もあるから」と告げられ、100人を超えるIOC委員全員に対し、選手時代などの写真を纏めたアルバムを1冊20万円で作成。「それを持って世界中を歩き回った」と自慢気に語った。のちに発言を撤回したが、波紋は収まらず、「自民党本部の予算で、手持ちの参考資料として数冊作った」と説明を変えている。
IOC委員には選手出身ではない者もいれば、当初からライバル都市の支持を明言していた者もいた。委員全員に渡すという発想そのものが荒唐無稽と言わざるを得ない。しかし、2012年12月に発足した第二次安倍内閣のもとで、なりふり構わぬ招致活動が展開されてきたことは紛れもない事実だ。
電通役員らへの接待リスト
その中心人物こそ、2011年6月に電通顧問を退任後、安倍政権誕生と軌を一にして招致委員会のスペシャルアドバイザーとなった治之である。のちに安倍が凶弾に倒れ、治之に東京地検特捜部の捜査の包囲網が近付きつつある頃、彼は複数の関係者にこう打ち明けている。
「安倍さんに『過去に五輪招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくない』と言った。すると安倍さんは『絶対に捕まらないようにするから、五輪招致をやって欲しい』と。その言葉があったから招致に関わるようになったんだ」
治之は時の首相からお墨付きを得たことで、アフリカ票を握るIOC委員で、国際陸連(現世界陸連)の会長だったラミン・ディアクとその息子らに猛アプローチを仕掛けていく。招致委員会の口座記録では、治之のコモンズに2013年2月25日から開催地決定後の2014年5月28日までの間に計17回、約8億9000万円が支出されている。それは破格のロビー活動費だった。治之は招致活動の舞台裏でも重要な役割を果たしたのだ。
その後、2016年5月に英紙「ガーディアン」が、東京五輪招致の買収疑惑を報道。フランス司法当局が、ラミン親子の汚職捜査を進める過程で、日本の招致委員会が五輪開催決定の前後に2回に分けてラミンの息子が関係する口座に約2億2000万円を振り込んだことも発覚する。フランス当局から捜査共助を要請された特捜部は、2017年にJOC会長、竹田恒和を任意で事情聴取。竹田は翌年12月、フランス司法当局の予審判事による聴取も受けた。
その間、特捜部も五輪とカネを巡る疑惑について手をこまねいて見ていただけではなかった。
ここに2017年に検察当局に持ち込まれた、東京五輪の最上位スポンサーである「ゴールドパートナー」の1社、富士通の接待リストがある。
2015年3月から2016年3月までの255件、約890万円の交際費の内訳で、執行役員らを司令塔にして、組織委員会幹部や電通役員らを都内の高級店で接待している様子が見て取れる。特捜部はこの資料をもとに、企業協賛金の行方や同業種のスポンサー企業との商権の駆け引きなどについて内偵捜査を進めていた。リストに「高橋治之」の名前はないが、その先にいるキーマンの動向を察知していなかったはずはない。
その後も形を変えながら特捜部の内偵捜査は続き、ターゲットが具体的な像として浮かび上がってきたのは、2022年の夏前。AOKIルートから芋づる式に治之の疑惑が噴き出し、彼は五輪招致の“功労者”から一転、汚れた五輪の“戦犯”として一身に批判を浴びることになった。
「安倍さんが元気だったら、こんなことには」
元日本サッカー協会会長、川淵三郎が治之について語る。
「高橋さんは、サッカー協会がまるでお金も何もない時にトヨタカップなんかを持って来てくれて、サッカー協会に財政的なゆとりを持たせてくれた。ある意味で恩人です。今回のことは、組織委員会の理事にさえなっていなければ罪に問われることはなかったし、気の毒だと思う。安倍さんがお元気だったら、こんなことにはならなかったのに……」
治之は組織委員会の理事に就任した際、挨拶の場で「電通に45年勤務して、そのうち35年をスポーツビジネスに関わり、五輪はロサンゼルス大会以降お手伝いさせて頂いた」と胸を張った。スポーツマフィアが跋扈する国際舞台で、幾多のビッグイベントを成功に導いた男は、いかにして頂点に上り詰め、そして堕ちたのか。
“五輪を喰った兄”には、“長銀を潰した男”と呼ばれた1歳違いの弟の存在があった。
〈 「ホテルのサウナで死んだ」「いや他殺ではないか」東京オリンピック汚職事件キーマンの弟・高橋治則(享年59)はなぜ死んだ? 〉へ続く
(西﨑 伸彦/文藝春秋)
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