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「コピー1枚自分で取れない不器用な人」“22歳年下の愛人”が明かした東京オリンピック汚職事件キーマンの弟・高橋治則(享年59)の「意外な人柄」

文春オンライン / 2025年1月12日 6時10分

「コピー1枚自分で取れない不器用な人」“22歳年下の愛人”が明かした東京オリンピック汚職事件キーマンの弟・高橋治則(享年59)の「意外な人柄」

愛人が明かした高橋治則氏の人柄とは…。(写真:時事通信社)

〈 「ホテルのサウナで死んだ」「いや他殺ではないか」東京オリンピック汚職事件キーマンの弟・高橋治則(享年59)はなぜ死んだ? 〉から続く

 1995年、東京協和信用組合破綻に関する背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された、イ・アイ・イーインターナショナル社長の高橋治則。天皇家にもつながるという名門で、花嫁修業中のお手伝いさんがいるような裕福な家庭に生まれ、慶応幼稚舎から慶応大学に進み、日本航空という当時の超一流企業にコネで就職。資産は1兆円を超え、のちに“環太平洋のリゾート王”とまで呼ばれた男の最期とは…。ジャーナリストの西﨑伸彦氏の『 バブル兄弟 “五輪を喰った兄”高橋治之と“長銀を潰した弟”高橋治則 』より一部抜粋してお届けする。(全4回の最終回/ 最初 から読む)

◆◆◆

告別式にデヴィ夫人や千昌夫の姿も

 西麻布にある曹洞宗の永平寺別院長谷寺で行なわれた告別式には、約1000人の弔問客が列を成した。

 受付を担当した人物が振り返る。

「高橋さんは名だたる政治家の方々とお付き合いがありましたが、葬儀で姿を見たのは当時、自民党幹事長代理だった安倍晋三さんくらいでした。当日は、『香典は一切受け取らない。名簿だけを作って欲しい』と頼まれていました」

 生前、治則と親交のあったデヴィ夫人や千昌夫の姿もあった。会場にはベートーベンの交響曲「英雄」が流れ、厳かな雰囲気が漂っていた。喪主を務めた長男、高橋一郎は、父親の突然の死に戸惑いつつ、挨拶に立った。

「父はよく家族に『人間は死ぬ1年前が幸せかどうかで決まる』と話していました。父は死ぬ1年前、幸せだったと思います」

 会葬のお礼状には、一郎を筆頭に治則の家族の名前が並び、最後に「兄 高橋治之」と書かれていた。この葬儀を事実上取り仕切っていたのは、当時電通の常務取締役を務めていた実兄の治之だった。

 通夜・告別式の遺族席には、高橋兄弟と関係の深い赤坂の料亭「佐藤」の女将の姿もあった。かつては元首相の佐藤栄作や田中角栄も通った老舗料亭として知られ、移転後に経営を引き継いだ女将が、約10億円をかけてビルを新築。その際、治則の東京協和信組が資金を貸し付けて支援しただけでなく、上階には、半ば治則専用のサウナ部屋も設えられていた。

 この料亭を舞台に、バブル絶頂期も政治家や大蔵官僚などを招いた宴が夜ごと繰り広げられた。治則は、料亭の各部屋を行き来しながら、一日に2つ宴会を掛け持ちすることも決して珍しくはなかった。

「ノリちゃんが、どこで死んだか知ってる?」

 参列者のなかに見知った女性の顔を見つけた「佐藤」の女将は、手を振り、歩み寄って、こう話し掛けた。

 その女性は、治則の22歳歳下の愛人、北山裕子(仮名)だった。

 キャンディーズの田中好子に似た印象で、細身のスラッとした美人。治則とは1987年8月に出会い、長い愛人関係が続いていた。治則は生涯で何人もの愛人を囲ってきたが、わけても彼女は最も付き合いが長く、特別な存在だった。

 裕子は、年の離れた治則を「じいちゃん」と呼んだ。2人で料亭「佐藤」にも度々訪れており、女将は、その掛け合いを聞きながら、治則のことを「あんた」呼ばわりする年下の奔放な愛人を「あんたのキミ」と言って笑った。

 裕子は治則の死の前週、電話で「来週会おうね」と約束したが、それが最後に交わした言葉になった。亡くなったことは、新聞に訃報記事が出ていると知人が知らせてくれた。通夜と告別式に出るかどうか迷ったが、「じいちゃんが死んだら、葬式に来なきゃダメだよ」と彼が話していたことが頭を過り、西麻布の長谷寺に向かった。

 裕子には、治則が亡くなった場所について、「多分あそこだ」という心当たりがあった。それは、前年の12月に治則に連れて行かれた赤坂の一軒家だった。青山通りから薬研坂に入り、細い路地を右手に折れた奥まった場所。近くには当時、治則が事務所を構えていた草月会館があった。

 裕子から一軒家の話を聞いた女将は、その場所が自らの自宅マンションの近くだと知り、合点がいった様子でこう話した。

「あっ、だから犬の散歩をしている時によく会ったんだ」

 治則が地検特捜部に逮捕された時、料亭「佐藤」も家宅捜索を受け、女将は治則と政官界の繋がりを知るキーパーソンとしてマスコミの標的になった。そして葬儀では高橋家の親族と並んで座るほど近しい関係でありながら、晩年の治則とは距離ができていた。

コピー1枚自分で取れない不器用な人

 裕子は、治則が隠れ家に自分を誘った日のことを鮮明に覚えている。

「じいちゃんさ、この辺を歩いていた時に、偶然見つけて買っちゃったんだ」

 治則は、「売り出し中」のノボリが立っていた中古住宅を衝動買いしたと明かした。

「いくらで買ったの?」

「1億2000万円くらい。それでも現金で払うからと1000万円くらい値切ったんだよ」

「ここで何するの?」

「いろんな人と話をする」

 一軒家は、内装にかなり手が加えられており、生活感はなく、さながら小さなお風呂屋のようだった。治則は彼女を招き入れ、冷蔵庫からビールを取り出した。ビールと言えば、決まって銘柄はアサヒだったはずの治則が、手にしていたのはキリンの「一番搾り」だった。

「お手伝いさんがいて、全部やってくれるんだ」

 室内には、裕子からすると悪趣味としか思えない家具が置いてあり、違和感しかなかった。ミストサウナを勧められ、服を脱いで入ったが、震えるほど寒いなかを裸で待たされた挙句、突然火傷しそうなサウナの蒸気が足に掛かった。サウナの操作方法が分からず、混乱している様子が手に取るように分かった。コピー1枚自分で取れない不器用な人、それが裕子の知る治則だった。

(西﨑 伸彦/文藝春秋)

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