「もううんざりなんだよ!」モラハラを繰り返す妻と不倫相手に癒しを求めた夫…10年を一緒に過ごした夫婦が決定的にこじれるまで
文春オンライン / 2025年1月26日 17時10分
画像はイメージ ©AFLO
〈 「お前にキスやハグを強要される度にじんましんが出るように…」“モラハラ妻”と10年以上一緒にいた温厚な夫の「堪忍袋の緒が切れた」瞬間 〉から続く
かつて、高校時代から10年以上一緒にいる温厚な夫に対して、不機嫌をまき散らしたり暴言を吐くなどの「モラハラ」行為を続けてしまっていたという九州在住の荻原道子さん(仮名・30代)。あるとき友人から「荻原さんの夫が女性とラブホテルから出てくるところを友人が目撃した」と言われ、目の前が真っ白になったという。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、荻原さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
第2回では複雑な家庭環境で育ち、自身も「モラハラ」をしてしまっていた荻原さんと、浮気疑惑をかけられた夫との関係がこじれていく過程に迫る。(全3回の2回目/ 続き を読む)
◆◆◆
「もううんざりなんだよ!」
“ラブホテル目撃情報”から約1年が経った2018年5月。
夕方、荻原さんが1歳半の息子を連れてスーパーで夕食の買い物をした後、車で駐車場を出たところで、見覚えのある車が目の前を通過した。
夫の車だった。夫は自宅とは反対方向へ走っていった。
「え? なんでこんなところに? まだ仕事じゃないの?」
そう思っていると、夫から電話がかかってくる。
「今すれ違ったね~! 仕事終わったから、このままジム行くね!」
と普段と変わらない調子で言う。
しかし、それだけでは荻原さんに芽生えた疑いは晴れない。
「なんで? 仕事は? なんであそこにいたの?」
と矢継ぎ早に質問するが、電話は切れていた。モヤモヤしたまま家に着くと、「ジムに行く」と言ったはずの夫が帰って来た。
「ジムはまたにするよ。一度帰った時にきみがいなかったからジム行こうとしたけど、もう帰ってきたから今日はいいや」
荻原さんは泣き出していた。
「仕事は?」荻原さんが声を絞り出すと、いつも温厚な夫が声を荒げた。
「仕事終わった後、電話して『終わったからジム行く』って言ったじゃん!」
すると荻原さんは泣きながら叫んだ。
「言われてない! 前にジム行くなら言ってから行ってって言ったじゃん!」
「電話したじゃん」
「電話されてない! なら履歴見せてよ!」
荻原さんがそう言うと、夫は自分で自分のスマホを確認し、「あ! 弟にかけてたわ!」と苦笑する。
途端、荻原さんは
「そんな事ありえない! うそつき。女でしょ!」
と弾かれたように責める。
その瞬間、高校1年生の頃から10年以上一緒にいた夫が初めて荻原さんに怒鳴った。
「もううんざりなんだよ!」
約2年前に購入した新築一戸建てのリビングのおもちゃスペースで、1人で機嫌よく遊んでいた1歳半の息子が、夫の大声にびっくりして泣き出す。
「毎日毎日毎日疑って! いつからか、お前にキスやハグを強要される度に蕁麻疹が出るようになったんだ! もう終わりだ! 離婚しよう!」
我に返った荻原さんは慌てて土下座して謝るが、もう夫には届かない。「無理無理無理……」と首を振りながら繰り返すだけ。
その夜、荻原さんは、息子を連れて母親の家に行くことにした。
母親との生活
実は以前、息子が生まれた後から自分の怒りっぽさに悩み始めていた荻原さんは、“ラブホテル目撃情報”をきっかけに、友だちと一緒によく当たると噂の占い師に見てもらいに行ったことがあった。そのとき占い師に、
「あなたは強すぎる。旦那さんにもっと優しくしなさい」
と言われ、思い当たることが多すぎた荻原さんは帰宅後、インターネットで自分が夫にしてきたことについて検索してみたという。そこで「モラルハラスメント」がヒットし、愕然。以降、怒りすぎないよう心がけてはいたものの、長年繰り返してきた行動がすぐに直るわけがない。さらにその頃、夫の怪しい言動や、身の回りで起こる不審な出来事に振り回され、精神的に疲弊していった荻原さんは、ついに温厚な夫を限界まで追い込んでしまったのだ。
夫との別居が始まったことを機に、荻原さんは初めて心療内科にかかり、カウンセリングを受け始めた。そこでカウンセラーに訊ねられて、生まれ育った家庭のことや、夫とのことを話すと、このように言われた。
「幼い頃に特殊な家庭環境で両親や祖父母に気を遣って育ち、充分に甘えられなかったり、イヤイヤ期や反抗期がなかったりしたのでは? その反動で、パートナーに甘えすぎてしまったり、反抗しすぎてしまったりしていると考えられます」
そしてさらに、
「お父さんは、威圧的な態度で相手を動かすタイプのモラルハラスメント。お母さんは、お父さんからの愛を感じられないあまり、子どもに依存し過干渉になってしまったタイプのモラルハラスメントを家族にしていたようです」
と説明された。萩原さんは言う。
「父は私たち娘を溺愛してくれていたので、直接のモラハラはありませんでしたが、機嫌が悪い時はドアを大きな音を立てて閉めるので、いつもビクビクさせられました。母は、不機嫌になるとものすごくわかりやすくて、私はそれを察して、それ以上怒らせないように気を遣っていました。それは今もそうで、夫との別居後、母の家に身を寄せた私は、すぐに後悔しました」
突然息子を連れて訪れた荻原さんに対し、母親は荻原さんのことも夫のことも責めることなく、快く迎え入れてくれた。
しかし、パートの仕事をしていた母親をサポートするため、息子の世話をしながらも家事を荻原さんがやるようにしたが、夕飯を作れば「またこれ?」と文句を言われたり、朝8時までに起きないだけで「母親失格」とダメ出しされたりした。息子と家の中で遊んでいると「可哀想」と言われるので、公園に連れて行って遊んでいると、今度は「暑いのに可哀想」と言われるなど、何をしてもダメ出しや文句などのマイナス発言をされる。
「母の家に来てから1ヶ月半ほど経つ頃には、母から嫌味や文句を言われるたびに動悸がしてきて、今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られました」
カウンセラーに相談すると、
「どう動いても結局怒られたり、嫌味を言われたりするのは、典型的なモラルハラスメントです。お母さんから離れたほうが良いのでは」
とアドバイスを受け、荻原さんは別居から2ヶ月で夫のいる自宅に戻ることになった。
期限付き別居
自宅に戻った荻原さんは、夫と話し合った。
あれから冷静になった夫は
「離婚するつもりはない。11年も一緒にいたんだから、きみとの絆は簡単には壊れない」
と言った。
それなら再構築に向けてお互いに努力していくのかと思いきや、「12月まで別居しよう」と提案された。話し合いは8月に行われたので、4カ月先までということになる。
夫は荻原さんと一緒にいると蕁麻疹が出るようになってしまっていたため、リハビリ期間が必要だったのだ。“ラブホテル目撃情報”から情緒が不安定になっていた荻原さんは、不安に駆られると夫の都合はお構いなく甘え、キスやハグ、時にはセックスまで強要していた。
「夫は不倫に関しては最後まで、『向こうから一方的に好意を持たれていた』と否定していました。でも、夫は義両親には本当のことを話していました。夫とは高校からの付き合いということもあり、義両親にはとても可愛がってもらっていたので、私も本当のことを教えてもらいました。不倫相手は10歳くらい年上の2人の子持ちの女性で、ジムで知り合ったようです。夫が不倫に走った理由は、私が怖くて、不倫相手に癒しを求めたから……。夫が円形脱毛症になった時は、不倫するか自殺するかという瀬戸際まで追い込まれていたのだと思います。私はそれでも自分が犯してきたことに気づかず、夫の小さな叫びを見逃し、モラハラをし続けました」
不倫相手との関係は、ジムで夫が夫婦のことを女性に相談したのが始まりだったという。不倫に走るほど夫を追い詰めてしまったのだと自分を責めていた荻原さんには、夫の提案を拒否することはできなかった。
夫は「先輩の家に居候する」と言って出て行き、荻原さんと息子が自宅に残った。
別居が決まってから荻原さんは、働きに出ることを決意する。
「夫は息子のことをとても可愛がっていましたが、夫に対して私がダメ出しをしまくるモラハラだったせいで家にいないことが多く、育児には協力的ではありませんでした。だから私は息子が2歳になる頃には、家事・育児がワンオペで問題なくなっていたんです」
別居が始まってから夫は、2~3日に1回ほど自宅に帰ってきては、荻原さんと息子と1時間程度過ごすようになった。
荻原さんは外に働きに出ることと並行して、不機嫌になったりイライラしてしまう前に対処する方法をカウンセラーから学び、実践し始めていた。
「自分が不機嫌になったりイライラしてしまう時はどんな時なのかをノートなどに書き出して、そうなる前の兆候が現れたら、どう対処したら不機嫌やイライラを防げるか、楽しい気分になれるか、発散することができるかをいくつも考えておきました。例えば、睡眠が浅くなるなどの兆候が出てきたら、甘いものを食べるとか、仲の良い友だちとおしゃべりするなどして、兆候の段階で発散させてしまうという方法です」
効果があったのか、母親の家に行っていた2ヶ月間を含め、自宅に戻ってから3ヶ月経ってもモラハラ的行動は出ていなかった。
「夫とは2~3日に1回、数時間一緒にいるだけなので効果が出ているか判断がしにくいですが、相手の意見に耳を傾けたり、折れる、謝る、束縛しないなどが、以前よりは確実にできるようになったかなと思いました」
あと100日
ついに別居解消まであと100日となった日、荻原さんは離婚に向けて貯金を開始した。
というのも、夫の言動が信じられなくなっていたからだった。
「家族として今後も頑張って行こうと決めて、『少しずつ一緒にいる時間を増やしていく』と何度も言ったにも関わらず、いまだに2~3日に1回来て数時間いるだけ。もう、夫に期待しないで、何があってもいいように“離活”をすることにしました」
荻原さん夫婦は当時、お互いの収入を1つの通帳に入れて管理していたが、その時から息子の子ども手当と荻原さん自身の給料は、別通帳に入れることにした。
「私のほうは食費を1日500円で頑張っているのに、別居してから夫は、毎月8万円の生活費とは別に、私の許可なしで2万円も使っているので、馬鹿馬鹿しくなったのです。これからは、夫が勝手に使った額と同じだけ、私の通帳に入れることにしようと思いました」
別居前、夫が有給休暇を取るのは半年に1回ほどだった。しかし別居してから夫は、毎月有給を取ってどこかへ出かけていることが、クレジットカードに紐づいているETC使用履歴からわかった。
「自分の息子を放っておいて、どこで何をしてるんだろうと呆れました。もしも離婚したら、私はこの家に住み続けて、母子手当や息子の養育費をもらって、今よりずっと楽な生活ができると思いました。でも夫は、月8万円の住宅ローンに、おそらく4万~5万円の養育費もあって……。そんな無計画な生活を続けていて、どうやって生きていくつもりなのだろうと思っていました」
別居してから夫が好き勝手に使ってきた金額は、約50万円にのぼった。
「妊娠してから働いていなかったとはいえ、私が必死に守ってきたお金なので、私にも好きに使う権利があるはず。これもモラハラ発言かもしれませんが、『気がついた時に苦しめば良い』と思ってしまいました」
そして4ヶ月が経ち12月に入った。
別居期間解消が明後日に迫る中、自宅を夫が訪れた。
〈 別居中の夫宛ての荷物を開けると「150センチの子ども用Tシャツが…」不倫されても夫を信じたかった30代女性が「もうダメだ」と思った瞬間 〉へ続く
(旦木 瑞穂)
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