「大食い界のプリンス逮捕」の真相は…フードファイター小林尊(46)が目の当たりにした“米国のリアル”「ビンを投げられ、日本に帰れ!と…」「声をあげないと、ないものにされてしまう」
文春オンライン / 2025年1月25日 11時0分
2005年、ニューヨークのコニーアイランドで行われた米独立記念日恒例のホットドッグ早食い大会で5連覇を果たした時の小林尊さん ©EPA=時事通信社
〈 賞金1000万、高視聴率を連発→死亡事故で番組終了…日本のテレビから“消えた”小林尊(46)が大食い界のレジェンドになるまで「これはスポーツなんだと強調したかった」 〉から続く
2002年、中学生の窒息死事故により、それまでテレビをジャックしていた全ての大食い番組は姿を消した。「大食いはスポーツである」。そのことを証明するために、かつて“大食い界のプリンス”と呼ばれた小林尊(46)は活動拠点をアメリカに移す。
そこで待っていたのは大食いヒーローとしての栄光と、外国人チャンピオンゆえの差別、挫折の日々だった。2010年7月4日のホットドッグ大会での逮捕の真相、マイノリティとしての自覚、新たな挑戦……。アメリカの「分断」がフードファイター小林尊にもたらしたものとは。(全3回の2回目/ 初め から読む)
◆◆◆
「大会6連覇チャンピオンが逮捕」の真相
――日本のテレビから大食い番組が激減した後、我々が小林さんの活躍を知るのは、「小林尊がホットドッグ早食い大会の記録を更新した」というニュースが主でした。アメリカでの生活で大変だったことはなんでしょうか。
小林尊さん(以下、小林) 最初は本当に「大食いできりゃいけるだろう」っていう感覚でした。英語はまったくできなかったんですけど、ただ勢いだけで。
でも、すぐに移住したわけではなくて、行ったり来たりという感じでした。2006年に母をガンで亡くしているんですけど、母の闘病生活中は日本に住んでいたので。大会のたびに日本とアメリカを往復していました。本格的なアメリカ移住を決めたのは、母が亡くなってからですね。なんだかんだ2010年ぐらいかな。
ただ、この年に大会運営団体ともめて、メインの大会に出場できなくなったんです。せっかくアメリカに移住したのにアメリカでの活動がほぼほぼ報道されなくなったという……。
不法侵入、公務執行妨害などで逮捕
――アメリカで長い歴史を持つホットドッグ早食い大会で、小林さんは2001~2006年に連覇。ところが2010年、大会運営団体に提示された契約に反発したところ、出場資格がなくなってしまいました。
小林 大食いをスポーツとして広めたいという思いで渡米し活動していたのに、決まった大会にしか出られなくなるとか、メディアへの出演も制限されるといった内容の契約を突きつけられたんです。その条件をそのまま飲むことはできなかった。
フードファイトの中でも歴史ある大会で、僕の出場を楽しみにしてくれるファンもたくさんいた。「出演料はいらないから大会に出してくれ」とも頼んだんですが、ダメでした。
――大会当日、観客席に入った小林さんは警察官の制止を振り切ってステージに上がったことにより不法侵入、公務執行妨害などの容疑で逮捕されてしまいます。日本でもニュースになりましたが、どうしてそのような行動を取ったのでしょうか?
小林 今だとソーシャルメディアがあるので、大会に出場できない理由を伝えることができるじゃないですか。でも当時は主催者側がプレスリリースで公表したことだけがニュースになるんですよね。「契約の都合上、小林は今年出ません」というだけで、僕の行動に問題があるようにみえたとしても、それが全部真実になってしまう。このまま、自分の言葉まで奪われたまま終わっちゃっていいのか。どうにか伝える方法がないか考えて、それが当日その場所に行くことだったんです。
当日の空気については、僕よりマギー(小林さんのパートナー)のほうがよくわかっているかもしれない。彼女は当時僕のアメリカでの活動を支えてくれるチームの一員でした。
「彼に食べさせろ」とみんなが叫んでいた
マギーさん(以下、マギー) 多くのファンが小林を見にきているのに、小林がステージにいない。それが騒ぎになっていたんです。
――実際、小林さんの不出場によって観客数は前年から半減していたそうですね。不出場を知らずに来た観客には疑問だったはず……。
マギー それで、考えたんです。チームで彼を隠しながらステージの真ん中まで連れて行って、突然登場させる。注目させて、「彼になにがあったの?」って聞かれる行動をしようと思ったんです。「なぜ小林がいないんだ」と騒ぐファンやカメラマンたちが彼を見つけると、「Let him eat(彼に食べさせろ)」ってみんなずーっと叫んでました。
小林 Tシャツにメッセージを書いて、写真撮られてニュースになれば後々真意を聞きにきてくれるだろうと。
Tシャツに書いた戦うためのメッセージ
――Tシャツにはなんて書いたのですか?
小林 「FREE KOBI*」と。最初僕は「SAVE KOBI」って書いたんですよ。おかしな状況から救ってくれ、という意味で。でもマギーたちは「そうじゃない、戦うんだよ」って、それで「FREE KOBI」になったんです。アメリカでは「やられました。助けてください」っていうよりは、大きな権力に対して戦いを挑むっていうほうが刺さるんだって。
*小林さんのアメリカでの愛称
マギー とにかくみんなに「Why?(なぜ?)」と思ってもらいたかったんです。でも、そのまま会場で逮捕されてしまって。「『FREE=逮捕から自由にさせろ』という意味に見えた。逮捕されることを計算していたのか?」と言われたこともあったけど、捕まるようなことをするつもりは全くなかった。
小林 もちろん逮捕されようと思って行動したわけではありません。せっかく会場に行って、ほとんどニュースにならなかったら寂しいな、とは思っていましたが……。
――逮捕後はどうなったのですか?
小林 留置所に一晩入って、そこからは裁判でした。
マギー 留置所も危険って聞いていたので、「どうか無事でいて」ってずっと祈っていました。眠れなかった。祝日だったから弁護士を探すのにも時間がかかって、なんとか見つけた弁護士からは、「コバヤシ⁉ あなたはホットドッグ早食いのチャンピオンなんでしょう? こんなバカなことで逮捕されないで」と言われました……。すごく力を尽くしてくれて、1ヶ月後の裁判で下された判決は、6ヶ月間の保護観察処分。
小林 期間中に問題を起こさなければ、犯罪記録も残さないという内容で、とにかくほっとしました。自分の行動で、たくさんの方に心配をかけてしまった。それからは何をするにも「これは大丈夫?」「法的に問題ある?」ってマギーと話し合いながら慎重に行動していましたね。
マギー 大変だったね。
ホットドッグの大会にあるナショナリズム
小林 でも戦い続けたかった。大会には出続けたかったので、契約が複雑じゃないカナダの大会とかにも出るようにしたんですよ。そうした中で、アメリカのホットドッグ大会がいかに特別だったのかに気づきました。
注目度が高い理由の一つが、「独立記念日に開催されること」。アメリカで最大の祝日で、ナショナリズムを一番感じさせる日なんですよね。そんな日にアメリカ人のソウルフードであるホットドッグを食べて、その数を競う。
――なるほど。アメリカ人がアメリカへの思いを新たにする象徴的な日に、日本人が勝利していた。
小林 だから、アメリカ人ではない……それも日本人に勝たれるのは嫌だ、と思う人が一定数いるわけですよ。プライドが許さないっていう人が本当にいる。
そんな中で、「そんなの関係ないじゃん」って、「国籍も人種も関係ないでしょ」ってオープンに受け入れてくれたのが僕のファンなんですよね。ものすごくリベラルな人たち。当時の僕のライバルであるチェスナット*は、「白人に勝ってほしいという人たち」が主な支持層でした。分かりやすく言えば共和党のトランプをサポートするほうがチェスナット派で、民主党支持の方には僕派が多い。だから、ファン層がくっきり分かれていました。非常に政治的でしたね。
*アメリカ人フードファイターのジョーイ・チェスナット。ホットドッグ早食い大会で2007年に小林さんを破り、以降は「ライバル」として競ってきた
自分がヒールになって生まれたマイノリティの自覚
マギー アジア人、黒人、ラテンアメリカ人、ゲイ、レズビアン……。そういった方々からは熱い支持を集めていました。大食いの世界で、小林はマイノリティのアイコンだったの。
――いつからそれを感じていましたか。
小林 はじめは僕に対しても「なんかすごいやつがきた」くらいの反応で、みんなただ楽しんで応援していたと思うんですけど……。チェスナットと競うようになってから明確に変わりましたね。僕と競争できる白人選手が現れてから、大会運営側もブランディングの仕方を変えるようになった。小林が独立記念日のアメリカに恥をかかせる存在で、それを阻止する白人のヒーローがチェスナットという。
――ヒーローからヒールに。
小林 誤解を恐れずにいうなら、あれは僕が広げていった大会だったんです。僕が記録を作る前は、お客さんも100人くらいしか来ないし、もちろんテレビ局の中継なんてありませんでした。僕が出るようになってから、スポーツチャンネルでライブ中継するようになり、一気に認知度が増して……。なので、正直傷つきましたね。
――急に手のひらを返された。
小林 アメリカに行って初めて「マイノリティってこういうことなんだ」って気づきました。当時は今よりアメリカに暮らすアジア人、日本人が少なかったですし。
だからいつも戦っていなきゃいけない、戦わないとないものにされちゃうから。いつも声をあげてないとないものにされてしまう。アメリカは移民にとっては毎日叫んでいないとシステム的に消されていくところなので、そういう意味でフードファイトというより個人的に(アメリカでの生活は)大変だなって思いましたね。
一方でマイノリティとしての自覚が芽生えると、独立記念日に僕を応援してくれている人の気持ちがわかってきたんです。「いつも7月4日見てるよ」「その日だけは小林は俺のマイボーイなんだってみんなに叫ぶんだよ」って言ってくれる人たちの気持ちが。
缶ビールや瓶を投げられ、「日本に帰れ!」と叫ばれ…
――具体的にどんな場面で「マイノリティ」だと感じましたか。
小林 空港のイミグレーションでも意地悪されましたね。別室に連れていかれて、なんの問題もなくても1時間くらいずっとそこにいさせられたり。イミグレーションの担当者が白人だと時間をズラしたりしてました。もちろん白人でも普通に接してくれる人もいますし、差別的な考えで嫌なんですけど……。
大会で僕が入場してくると、缶ビールや瓶を投げられます。街中を歩いていると「Go back Japan!(日本に帰れ!)」って叫ばれることはしょっちゅうでした。
――日本に戻りたいとは思いませんでしたか。
小林 やりがいはありましたからね。逆に応援してくれる人は本当に心から応援してくれる人たちだから。プライド・パレードのときには、当時大統領選に出馬していたヒラリー・クリントン陣営と一緒に歩きました。僕が主催したホットドッグパーティにニューヨーク州知事選への出馬を表明していた俳優のシンシア・ニクソンが来てスピーチしてくれたこともありましたね。
――『セックス・アンド・ザ・シティ』のミランダ役でも知られるシンシア・ニクソンですね。ご自身がアメリカの政治まで背負ってしまっている状況に戸惑いはなかったですか。
小林 いや、もうずっと応援してもらっていたから自然にそうなっていったんだろうなと思います。戸惑うというよりは、もっと頑張らなきゃなという思いのほうが強かった。2009年からのオバマ政権でマイノリティライツが前進して、今度はトランプに代わって……。その辺りのアメリカが二分されていく時代にずっといましたから。
――今回の大統領選はどういう思いで見守っていらっしゃったんですか。
小林 そうですね。ちょうど引退して日本に戻ってきたタイミングだったので、少しアメリカから離れて見ながら、「ああ、これからまた4年間厳しいだろうな」と思っています。
この間アメリカ人の友だちに「アメリカが懐かしいか?」って聞かれて「懐かしいよ」って言ったら「なんでだ! あんな国」って怒られました。「こんないい国に住んでいて、なんでアメリカミス(miss)するんだ」って。僕の周りの人は、トランプが大統領に決まってからだいぶ雰囲気が落ちていますね。
撮影=三宅史郎/文藝春秋
〈 「バケモノ覚醒させたの俺か!」ジャイアント白田との意外な関係は…大食いプリンス・小林尊(46)がメディアに抱いていた“複雑な思い”「もし当時YouTubeがあったら…」 〉へ続く
(西澤 千央)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
賞金1000万、高視聴率を連発→死亡事故で番組終了…日本のテレビから“消えた”小林尊(46)が大食い界のレジェンドになるまで「これはスポーツなんだと強調したかった」
文春オンライン / 2025年1月25日 11時0分
-
「バケモノ覚醒させたの俺か!」ジャイアント白田との意外な関係は…大食いプリンス・小林尊(46)がメディアに抱いていた“複雑な思い”「もし当時YouTubeがあったら…」
文春オンライン / 2025年1月25日 11時0分
-
47歳元ジャニーズ俳優が演じる“最低最悪の男”は期待外れ? ドラマ1話は不評、2話でいきなり“評価爆上がり”のワケ
女子SPA! / 2025年1月23日 8時46分
-
突然の不調で消えた“逆指名” 関東希望も胸打たれた熱意…下位でも「阪神しか行きません」
Full-Count / 2025年1月17日 6時50分
-
大谷翔平でも八村塁でも大坂なおみでもない…アメリカでもっとも知名度が高い日本人アスリートの名前【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月4日 7時15分
ランキング
-
1元同僚の下半身に鉄棒か、暴行も=塗装会社社長ら3人、3度目逮捕―警視庁
時事通信 / 2025年1月29日 11時39分
-
2ぶるっ… 沖縄・国頭村奥で9.2度 来週は「10年に1度レベルの寒さ」となる見込み
沖縄タイムス+プラス / 2025年1月29日 8時28分
-
3公明党また自民党に反旗!裏金事件で有罪確定の旧安倍派会計責任者「参考人招致」に賛成の狙い
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月29日 10時32分
-
4「お前が悪いのに被害者ヅラするの?」 交際中女性に土下座強要&暴行「殴っていはいない」札幌
STVニュース北海道 / 2025年1月29日 7時58分
-
5陥没にトラック転落、救助難航 埼玉・八潮、74歳の安否不明
共同通信 / 2025年1月29日 10時14分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください