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「確かにダメな人です。ただ、私にとっては…」無職のひき逃げ犯との獄中結婚を決意した女性が明かす、塀の外で夫を待ち続けるワケ

文春オンライン / 2025年1月21日 11時0分

「確かにダメな人です。ただ、私にとっては…」無職のひき逃げ犯との獄中結婚を決意した女性が明かす、塀の外で夫を待ち続けるワケ

娘と食事を楽しむ吉野さゆりさん

 身近な人が犯罪を犯してしまったら、あなたはどのような対応をとるだろうか。

 西日本のある都市に住む吉野さゆりさん(仮名、40代後半)は、2021年に人身事故を起こして刑務所で暮らす夫の帰りを待っている。被害者は軽傷だったものの、周囲の人たちの助言を無視して夫は自動車で逃走してしまったのだ。体内に残った覚せい剤が発覚することを恐れての行動だった。

 結果、覚醒剤取締法違反、無免許運転過失致傷、道路交通法違反で実刑判決が下り、刑務所へ入ることとなった。2025年半ばに出所してくる夫を待つ身となった吉野さんが、これまでの道程を打ち明ける。

◆◆◆

パートナーの逮捕を機に“獄中結婚”

「逮捕されるまでは恋人同士だったんですが、いわゆる獄中結婚をしました。

 婚姻関係にあったほうが刑事施設からの連絡や面会がスムースにできるじゃないですか。もしかすると、遠くの刑務所へ移送されるかもしれないですし。あと、精神的なつながりも残しておきたいと思ったんですよね。

 夫は結婚について『出所してからでいい』と言っていました。でも、私が彼とのつながりを感じたくて、結婚を決めたんです。40代なんですけど、新婚なんですよ」

 吉野さんは現在の夫と2021年に交際を開始し、同じ年に事件が起きた。交際日数は浅い。にもかかわらず、なぜ結婚までして“待ち人”であろうとする人生を選んだのか。

「交際日数が浅いと言っても、そもそも私が夫と知り合ったのは24歳くらいのときだったんです。地元のお祭で出会って。魅力的な男性だなとは思っていたんですが、いかにもな遊び人でしたし、生活力は乏しく、少しだらしなく感じる部分もありました。そんな具合で、当時は『ちょっとだけなら』という気持ちで付き合うようになったんです。そのうちに、彼の子どもを妊娠しました。

 でも、経済力がない彼を頼りなく思って、私のほうから離れました。

 その後に、関東地方にいる男性と遠距離恋愛をして、お腹の子どもを『あなたの子どもです』と偽って、その人と結婚しました。離婚することになりましたが、それまで、元夫は私の娘を実の娘だと信じて育ててくれたと思います」

 ドラマ顔負けの展開に驚いてばかりもいられない。20年以上を経て、現在の夫と運命的な再会を果たすことになる。

「住んでいる地域も24歳のときとは全然違っているのに、前から歩いてくる男性が誰なのか、はっきりとわかりました。とっさに隠れようとしましたが、向こうから声を掛けられたんです。かつて私から離れた、現在の夫に。20年以上昔のまま、定職にもつかず、ふらふらと気ままに生きていました」

 そんな男の何がいいのか、という率直な声もあるだろう。だが吉野さんはこんなふうに話す。

「確かにダメな人です。交際しているときでさえ、ヨソの女のところに行って『1回ヤッただけで彼女面してくるんだよ』みたいな愚痴をこぼすような、どうしようもない人です。

 ただ、私にとっては、どんなに私が彼を拒絶しても、彼が私から離れなかったという事実が大切なんです。しょうがないな、と思いながら構いたくなってしまう何かがあるんですよね。危なっかしくて、放っておけない人なんだと思います。

 私はこれまで、真面目なタイプの男性とも交際したことがあるのですが、その中には手をあげる人もいたんです。でも夫は、そうした暴力は絶対にしないし、本当に心根が悪くて犯罪を犯したようには思えないんです。義理人情に厚い人柄も、放っておけない理由かもしれませんね」

自ら警察署へ出向いて捜査に協力、最終的には示談金も吉野さんが支払った

 しかし2021年に人身事故を起こし、刑事裁判では5年弱を求刑された。。だが吉野さんが情状証人として法廷に立ち、夫を更生させる強い意志を示したこともあってか、判決は懲役3年弱になったという。裁判所が認めた吉野さんの行動力は、たとえばこんなことかもしれない。

 「2021年に交際をスタートさせて、すぐに『少し前にひき逃げをしたから示談金を工面してほしい』と相談を受けました。私は、犯罪行為を是としません。たとえ愛する人間であっても、きちんと刑事罰を受けさせなければと思いました。

 被害者の服装を聞いて、勤め先はすぐにわかりました。しかし電話をかけても、個人情報を理由に会うことができませんでした。そこで事故現場近くの警察署まで出向き、夫の話をして捜査に協力することにしたんです。最終的に、被害者の方へ謝罪をして、示談金をお支払いさせていただきました。もちろん、夫が犯した罪はそのようなお金で償えるものだとは思っておりません。しかし慰謝する気持ちを何かで表さなければ、私の気持ちが済まなかったんです」

 夫のほうもまた、変化があったという。

「最初、やはり夫は逮捕されたくないので、逃げてしまうんですよね。でも最終的には罪と向き合うことを選びました。逮捕されたときは、『少しほっとした。これでもう逃げも隠れもしなくて済むから』と話していました。

 当番弁護士を通じて、私に『いつもひねくれててごめんね』と伝えてきたとき、彼の本音を聞けた思いでした。

 収監されたあとも夫は泣き言をいっていましたが、『私が一緒になるから』と言って説得しました。口先だけでなく、本気で面倒をみる覚悟を決めていたんです。入籍したのは、そうした覚悟の意味もあるかもしれません」

「だから、私は夫の出所を待ち続けます」

 なお、現在の夫、つまり後に獄中結婚をする男性が実子を知ったのは最近だ。

「娘のことは、刑務所の面会のときに話しました。娘との写真を見せたら『かわいいな、お前の連れ子』と言うので、『お前の子じゃ!』って(笑)。

 かなり狼狽していましたね。でも、最終的にはとても喜んでいました」

 現在、吉野さんはパートをしながら占い師としても収入を得ている。塀の向こうへ行く前も、夫は経済的に頼れる存在ではなかったと話す。

「夫は無職でしたから、交際することによって経済的にプラスになることはありません。これまでどうやって暮らしていたのか本当に私は知りませんが、悪いことに手を染めたこともあったかもしれません。

 ただ、夫の視点で考えると、私といることは必ずしもメリットばかりではなかったと思うんです。私ははっきりした性格ですし、罪を見逃したりしません。逮捕されるリスクはかなり大きかったはずです。それでも私のそばから離れず、夫はそのリスクを犯してまで関係性を続けてくれた。それは夫なりの私に対する誠実さだったのではないかと思うんです。だから、私は夫の出所を待ち続けます」

〈 娘に“わいせつ行為”をして逮捕された夫を待ち続けるのは「『この人しかいない』と思わせてくれる魅力がある」から…“異様な家族関係”はなぜ成立しているのか 〉へ続く

(黒島 暁生)

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