早すぎる2025年ベストワン候補が登場! 邦画エンタメの総力を結集した大傑作時代劇アクション『室町無頼』に参上!
文春オンライン / 2025年1月17日 6時0分
昨年『あんのこと』が話題を呼んだ入江悠監督が、年明け早々すごい作品をぶち込んできた。カッコいいけどどこか気の抜けた近年の邦画アクションに飽いた活劇ファンも、肉弾相打つ激しい戦いに興奮すること必至だ。大群衆と炎の一大クライマックスを観れば、きっと2025年ベストワン候補と言いたくなる!
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かつてない大エンターテインメント活劇
近年の時代劇というと、馴染みのない若い方からすれば「なんとなくとっつきにくい」という印象があるだろうし、見巧者の方からすれば「かつての作品に比べて役者も殺陣も映像もチャチなニセモノ」という印象があるのではないだろうか。つまり、誰も喜ばない作品ばかり――なのである。
かく言う筆者も「時代劇研究家」を名乗ってはいるが、昨今の時代劇で心から楽しむことができたのは一本としてなく、欠点ばかりに目が行っていた。そのため、表立ってはできる限りスルーしてきた。
そうした状況下なので、この『室町無頼』に関しても「どうせ大したことないんだろう」という先入観を抱いている方も少なくないのではないかと思われる。だが、それはあまりにもったいない。
日本映画に久しぶりに現われた、完成度の高い活劇だからだ。大きなスケールのアクション、画面の隅々まで埋め尽くされた群衆、細部まで徹底された世界観の構築、そしてシンプルで熱いドラマ展開――。近年の時代劇――どころか日本映画全体でもまず観られることのなかった大エンターテインメントが繰り広げられているのである。
舞台はこの世の地獄と化した京都
時代は室町幕府八代将軍・足利義政の治世。重税に苦しむ人々が、無頼の浪人・蓮田兵衛(大泉洋)に導かれるように一揆を起こし、強大な幕府軍と戦う様が描かれる。
室町時代ってよくわからないから、内容についていけないかもしれない――。そう危惧される方も少なくないだろう。だが、そうした人にこそ観てもらいたい。
入江悠監督は室町中期という時代設定が一般的にイメージを掴みにくいことを逆手にとり、思う存分のイマジネーションを展開。『マッドマックス』シリーズや『北斗の拳』のような「荒野のディストピア」として、この時代を創出しているのである。吹きすさぶ風、巻き上がる砂埃、そして大地を埋め尽くす死屍累々。この世の地獄と化した京都を「荒れ果てた大地」として表現しているため、歴史の知識はなくとも全く問題はない。
CG、ワイヤーは抑えて人間の体術で見せる
そして全編を貫くのは、さまざまに趣向を凝らしたアクションの数々だ。そのことごとくが、とにかくカッコいい。
日本映画における近年のアクションといえば、CGやワイヤーを多用した表現が多い。そのために軽くて嘘くさくなり、リアリティと迫力に欠けたものになりがちだった。が、本作はそうではないのだ。
あくまでホンモノ志向。装置においては大爆発や大炎上、無数の一揆勢が掲げる松明が全てCGではなく実際に撮影している。そして何より素晴らしいのは、人間の動きだ。全てにおいて肉体性を第一に考え、CGは不使用。ワイヤーも大々的に使うのはクライマックスの1度のみで、基本的には人間の体術を駆使している。そのため、近年の日本映画にはなかった汗臭さ、泥臭さが個々の肉体からほとばしり、人と人との熱いぶつかり合いが全編を貫くことになった。
大泉洋の納刀・抜刀の確かさに惚れ惚れ
また、そうしたアクションを実現させた俳優陣の奮闘も特筆すべきものがある。
観る前に不安だったのは、大泉洋だ。殺陣のできるイメージは全くなかったからだ。ところが、序盤の関所破りのシーンから早くも見事な立ち回りを披露。腰の据わった安定感あるフォーム、いくら刀を振ってもブレることのない重心、納刀・抜刀の鮮かさ、斬り終えた残心のシルエットの美しさ。どれをとってもヒーローとして申し分のないもので、当初の不安はすぐに消え去ることになる。
一方、その弟子の才蔵を演じる長尾謙杜はアクロバティックな棒術を見せる。琵琶湖畔でのジャッキー・チェン初期作品のような奇想天外な特訓シーンもスタントやCGなしで乗り切り、その若い肉体の躍動は新世代のアクションスターの到来も予感させた。
さらに嬉しかったのは、兵衛に立ちはだかる骨皮道賢役の堤真一と、才蔵を見守る弓の使い手役の武田梨奈という、アクションの鍛錬を積んでいながらもその才能を日本映画で発揮する機会に恵まれないできた二人が、鬱憤を晴らすかのように動き回ってくれたことだ。堤の圧倒的な強者感を放つ殺陣、武田の弓やナタを使っての全身全霊の激闘は、いずれも「これが見たかった!」という願いを叶えてくれるものだった。
大群衆と炎の圧巻のクライマックス
そして、なんといっても圧巻なのは、一揆勢だ。京都に雪崩れ込んだ一揆勢と、骨皮率いる守備隊がぶつかる市街戦がクライマックスとなるのだが、これが凄い。画面を埋め尽くす大群衆が暴れ回り、ぶつかり合う。しかも時代劇の合戦シーンにありがちな漫然としたぶつかり合いではない。画面の隅々に至るまで、全ての俳優たちがそれぞれにアイデアを凝らしながら必死に戦っているのである。そのスペクタクル映像のド迫力も、近年の日本映画にはないものであった。
しかも、こうしたアクションがただ激しいだけではない。本作にはアクション監督の川澄朋章だけでなく、『侍タイムスリッパー』でも重みのある殺陣を創出した東映京都撮影所の若き殺陣師・清家一斗も参加している。これが大きかった。時代劇の本場である京都仕込みだからこその「間」の表現や「一刀の重み」の表現も加えられたため、近年の日本映画にありがちなただ激しいだけ、速いだけの軽いアクションに陥ることなく、その緩急により緊張感やドラマチックな感情表現がもたらされることになったのだ。
その一方で、実はVFXも良い仕事をしている。アクションや爆破で使用はできるだけ避けられた一方、実は京都市街戦で映り込む御所や屋敷といった街並の多くが、CGによって描かれているのである。ただ、それらは言われないと――というか言われても気づかないほど、精巧かつリアルに造られている。
本作は新旧・東西の技術を最高レベルで駆使した、現在日本映画の総力戦なのである。
『室町無頼』
1461年、大飢饉と疫病に襲われた京都。時の権力者は無能で享楽の日々を過ごす一方、貧しい者は地獄の苦しみを味わっていた。蓮田兵衛(大泉洋)は、己の腕と才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人。武術の才能を秘めた才蔵(長尾謙杜)と出会って兵法者として育てる。兵衛は腐りきったこの世を正すため、京都に空前絶後の都市暴動(一揆)を計画。その行く手を阻むのは、かつての友にして洛中警護役を担う骨皮道賢(堤真一)だった。兵衛の命を賭した戦いが始まる――。
監督・脚本:入江悠/原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)/出演:大泉洋、長尾謙杜、松本若菜、北村一輝、柄本明、堤真一/2025年/日本/135分/配給:東映/全国公開中
©2016 垣根涼介/新潮社 ©2025『室町無頼』製作委員会
(春日 太一/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)
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