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「相思相愛の寅さんに逃げられて、私って家庭運のない役ばかり…」竹下景子が明かす『男はつらいよ』秘録

文春オンライン / 2025年1月18日 7時0分

「相思相愛の寅さんに逃げられて、私って家庭運のない役ばかり…」竹下景子が明かす『男はつらいよ』秘録

竹下景子(たけしたけいこ)/1953年、愛知県生まれ。映画『犬笛』やドラマ『北の国から』などに出演。『クイズダービー』のレギュラー解答者も務めた。94年、日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞(『学校』)。撮影:篠山紀信

第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』(1983年)
第38作『男はつらいよ 知床慕情』(1987年)
第41作『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』(1989年)

◆ ◆ ◆

別のヒロイン役で3作品に出演

 浅丘ルリ子さんが演じたキャバレー歌手のリリーは6作品に、吉永小百合さんが演じた東京のOL・歌子は2作品に登場します。私も3作品に出演しましたが、それぞれ別のヒロインを演じました。どうしてそうなったんだろう……私自身も謎ですが、各作品の脚本で描かれたヒロインの性格や行動がたまたま私に合っていたのかなと、そう考えることにしています。

 まず『口笛を吹く寅次郎』のオファーが来た時は、「まさか松竹の看板映画に私が!?」と驚きのほうが強かったんです。戸惑う私に、島津清プロデューサーが「大丈夫です、監督さんは万事心得てますから安心していらしてください」と優しく教えて下さって。不安を抱えつつ岡山県高梁(たかはし)市へロケに向かったのですが、宿につくや否や知恵熱が出てしまって。無事にクランクインは出来たんですが、私なりにプレッシャーだったんですね。そんな私をセッティングの折などで、山田洋次監督や渥美さんが優しく雑談をしてくれたりしてほぐしてくださいました。

 そういう現場の朗らかさは作品にも如実に出てると思います。博(前田吟)の父の墓参りに訪れた寅さんが、帰り道で酔っ払った住職(松村達雄)と、私が演じる娘の朋子に出会います。出会った階段で、寅さんは住職には素っ気なかったのに、朋子を見るやポーッとしちゃうから可笑しい。そこから渥美さんが圧倒的に元気溌剌! 翌朝、寺から帰ろうとする寅さんを朋子が引き止めると、「朝ご飯を頂いてバカっ話をしているうちに、すぐお昼です。『蕎麦にしますか、おうどんにしますか?』『そうですねえ』なんて言ってるうちに三時のオヤツですから……」と縷々語る場面がありますね。私は傍でリアクションを取るために緊張してるけど、それでも渥美さんの話芸に思わず顔が綻んでました。その後、二日酔いの住職に代わり坊主として法事に行き、インチキ説法を披露したり、柴又に帰って、御前様(笠智衆)のもとで煩悩まみれで修行を始めたり、俳優・渥美清=寅さんはノリにノッてました。

 そしてラスト、寅さんは朋子をフります。周囲は「知的な美女? ダメだそりゃ」と、絶対寅さんがフラれると信じているのに、意外や意外の展開。朋子はあんなに思いを込めて、寅さんのドテラの袖をギュッと掴んだのにねえ。あの場面が好きだと仰る方が多いんですが、監督の指示通り演技したんです。あれこそ演出のマジックだと思います。

「私って、なんて家庭運に恵まれない役が来るんだろう」と(笑)

 次の『知床慕情』でも寅さんと相思相愛の仲になります。北海道は知床に辿り着いた寅さんは、獣医の順吉(三船敏郎)の家に招かれる。私は東京から帰ってくる娘りん子。私自身、上京してお世話になったのが三船プロダクションでしたから、三船さんと父娘役を演じられるのが楽しみで。三船さんは告白できない男を繊細にチャーミングに演じられていました。順吉と恋するスナックのママ悦子は淡路恵子さん。淡路さんはダサいエプロンをした街場のママなのに、匂い立つ色気があるんですよ。その姿を見て、監督が不意に「現役ですね!」と感嘆されていたのは忘れられません。待ち時間に演技から私生活までお喋り出来て、本当にステキな女性でした。

 朋子も、りん子も離婚して出戻った女性。「私って、なんて家庭運に恵まれない役が来るんだろう」と(笑)。しかも寅さんにも逃げられる。恋が実りそうになると、自ら遠ざかる寅さん。旅から旅の生活、責任の重さに耐えかねるのか、男としての自分を過小評価し、相手に相応しくないと身を引いてしまうのか。わかりませんけど、ちょっとずるいと思いませんか?

 そして『寅次郎心の旅路』。平成初の寅さんの舞台はウィーン。空港から市街地までヘルムート市長の下、全面協力で撮影されました。柄本明さん演じる心身衰弱のサラリーマンと珍道中を繰り広げる寅さんが出逢うのが、私が演じるツアーガイドの久美子です。今回の淡路さんは、ジャンヌ・モローのような妖艶さと、久美子の後見人のような頼もしいマダム役でした。フラれフラれて、三度目の正直とばかり、やっと寅さんをフってやりました(笑)。

 こうして3本を振り返ると、山田監督と渥美さんをはじめとする共演者の方に恵まれました。そして、高梁、知床、ウィーン……異郷にいるからこそ感じる望郷、失われていく実景への追慕、そして寅さんによって取り戻した自分、人の幸せを考えること、人情。たくさんの宝物を頂けたと思います。

〈 「寅さんは変わらないようで成長しているんです」栗原小巻が明かす『男はつらいよ』秘録 〉へ続く

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年1月2日・9日号)

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