「寅さんは変わらないようで成長しているんです」栗原小巻が明かす『男はつらいよ』秘録
文春オンライン / 2025年1月18日 7時0分
栗原小巻(くりはらこまき)東京都出身。68年、舞台「三人姉妹」で注目を浴び、舞台を中心に活躍。出演作に映画『忍ぶ川』『八甲田山』、舞台「アンナ・カレーニナ」など。
〈 「相思相愛の寅さんに逃げられて、私って家庭運のない役ばかり…」竹下景子が明かす『男はつらいよ』秘録 〉から続く
第4作『新 男はつらいよ』(1970年)
第36作『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』(1985年)
◆ ◆ ◆
私を含めてキャストの皆さんは笑いを堪えるのに必死でした
渥美清さんが“寅さん”を演じる以前に、私はテレビドラマ『泣いてたまるか』(1966〜68年)で共演させて頂いていました。一話完結で毎回、渥美さんが演じる役が変わる形式で、その第12話「子はかすがい」でご一緒したのです。脚本が山田洋次監督だったと思います。その頃の私は俳優座養成所を卒業し、大河ドラマ『三姉妹』(67年)に出演するまでの数カ月、単発ドラマにゲストヒロインとして出演し、経験を積ませてもらっていた時期です。若い私の目には、渥美さんは“人情の人”として映ったのを忘れられません。
ですから、その後、『新 男はつらいよ』の出演依頼の際は躊躇(ためら)うことなくお引き受けしました。ただ、私がマドンナを演じることを、当時のマスコミの方々には意外に思われた方も多かったようです。時代劇『風林火山』(69年)の由布姫、『3人家族』(68〜69年)の敬子、『霧の旗』(69年)の桐子などドラマで主演していた私のイメージと、まだ国民的映画になる以前の、エネルギッシュな寅次郎が躍動していた第4作とに、ギャップを感じられたのでしょうね。けれど、私の中では“役者・渥美清”との仕事は、漠然とでしたが、とても大切なことだと感じていましたから、何の不思議もなくて。そうして参加した現場はとにかく笑いに溢れていて素敵な日々を過ごせました。
この作品は渥美さんの独壇場です。競馬で大穴を的中させた寅さんが、おいちゃん(森川信)とおばちゃん(三崎千恵子)をハワイ旅行に連れて行こうとするのですが、金を持ち逃げされてしまう。メンツがあるからと、真っ暗にした茶の間に潜んでいると、泥棒(財津一郎)が入ってくる。「おい、110番ってのは何番だっけ?」……という喜劇展開。カメラが回っている時に、私を含めてキャストの皆さんは笑いを堪えるのに必死でした。私は幼稚園の先生である春子役。土手での子どもたちとのお遊戯も素敵な場面でしたね。私の衣装は春の装いでしたけど、実は真冬の撮影なんですよ。私も出演した『八甲田山』(77年)とまでは申しませんが、楽な作品、楽な撮影は一本もございませんね。
プロポーズを受けた悩みに対する寅さんの優しい答え
その15年後、プロデューサーの島津清さんが、訪ねて下さり、『柴又より愛をこめて』へのオファーをいただきました。前作が楽しい記憶ばかり、渥美さんと再びご一緒できるのが嬉しくてお受けしたんです。
演じたのは、伊豆諸島は式根島の小学校教諭、真知子。俳優の仕事は日頃から準備が必須です。演劇の役作りとは違い、解釈というより、真知子先生の設定を把握し映像の中で自然に存在し、生きることを心がけました。教師役は何度か演じた経験もありましたが、教育関係の集いや懇談会など機会があれば積極的に参加しました。
『柴又より〜』は渥美さんを中心に山田監督が作り上げたファミリーの中で、ドラマ性の比重が大きい作品だと感じました。真知子がプロポーズを受けた悩みを寅さんに打ち明ける場面。
真知子「身を焦がすような恋の苦しみとか、大声で叫びたいような喜びとか、胸がちぎれそうな悲しみとか、そんな感情は胸にしまって鍵をしたまま一生開けることもなくなってしまう」
そんな将来の不安に、寅さんは自身の失恋の痛みを超えて優しく答えるんです。
寅次郎「その男の人はきっといい人ですよ」
『新 男はつらいよ』では黙って去っていった寅さんが、今度は相手の幸せを思いやって背中を押してくれたんです。寅さんの世界も変わらないようで変わっている。各々が成長してるんです。真知子と寅さんは時代と人生の機微を表現できたように思います。2作目の共演は、私にとって美しい再会になりました。
車寅次郎を26年間、演じ続けた渥美さん。私も舞台で一つの役を十数年演じたことがあります。その大変さは身をもってわかります。そして今も愛され続ける渥美さん。改めて尊敬の念をお伝えしたいです。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年1月2日・9日号)
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