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「東大が『お金持ちしかいけない大学』になる」東京大学の20年ぶり「授業料値上げ」に東大生が抱く“危機感”「全員が恵まれているわけではない」

文春オンライン / 2025年1月21日 6時10分

「東大が『お金持ちしかいけない大学』になる」東京大学の20年ぶり「授業料値上げ」に東大生が抱く“危機感”「全員が恵まれているわけではない」

東大の安田講堂 ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

〈 東大生の2人に1人は世帯年収950万円超えの“富裕層出身”…国立大学のトップ・東大が20年ぶりに授業料を値上げした背景 〉から続く

 2024年9月、2025年度の学部入学者から授業料を約11万円引き上げると発表した東京大学。なぜ東大は、20年ぶりとなる値上げに踏み切ったのか?

 ここでは、朝日新聞の取材班が、国立大学の実態を明らかにした『 限界の国立大学——法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか? 』(朝日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

◆◆◆

「東大生が全員、恵まれているわけではない」

 東大には世帯年収450万円未満の学生も14%いる。24年の5月中旬にあった東京大学の学園祭「五月祭」で値上げ反対を訴えた学生の中には、授業料免除を受けている女性もおり、「東大生が全員、恵まれているわけではない」と訴えた。

 女性によると、免除には成績などの要件があるため、「審査でいつ免除が打ち切られるかわからない不安がある」という。東京大学は値上げとセットで、授業料減免の対象を拡大する案を示していた。それでも女性は同じような要件が付けられることを心配し、「免除の枠を増やせば、値上げしてもいいという意見には反対」と憤った。

食費や交通費をできるだけ削りながら生活する東大生も

 他の東大生の声も紹介したい。文系学部4年の女子学生は西日本出身で、現在は大学の近くで一人暮らしをしている。東京大学を選んだ理由の1つは、都心にあって学費が安いからだったという。同じ都内の国立大学である一橋大学は、受験生だった4年前には、すでに授業料の値上げを発表していた。

 両親は共稼ぎだが、高校生の妹がいる。奨学金を受け取りたいが、所得制限にかかって対象外。もっと学びたいことがあり、大学院進学も考えている。だが、大学院の授業料も学部といっしょに値上げされれば、親にさらに負担をかけてしまう、と心配していた。

 今でも、食費や交通費をできるだけ削る生活を続けている。一日中図書館にいる日は、1食は弁当を持参し、1食はコンビニのおにぎり1つにしている。それでも、研究のために図書館にない海外の本を取り寄せると、円安の影響もあって、月2万~3万円はかかってしまうという。

「値上げをされたら、東大にいられなくなる人も出てしまう」

 東京大学には、裕福な家庭の学生が多いと感じてはいる。ただ学内の友人には、シングルマザーの家庭の学生や家族が生活保護を受けている学生、自分で学費を稼いでいる学生もいる。

「大学が思っているほど、10万円をぽんと払える人は多くない。値上げをされたら、東大にいられなくなる人も出てしまう」。そう心配し、大学に値上げを考え直してもらおうと、苦しい学生の声を載せたフリーペーパーを友人らと作り、学内外で配った。

 やはり文系学部4年の男子学生も、値上げに反対していた。北関東出身で、1浪して入学した。もし受験生の時に値上げされていたら、同じ選択ができていた自信はない。「わざわざ学費の高い東大を選べば、両親に対して後ろめたさを感じたと思う」と言う。

 妹も一人暮らしで私立大学に通っている。実家の母は「普段の夕食はレトルトカレーで十分」と言っていた。「自分たちを大学に行かせるために食費を削っているんだ」と申し訳なさを感じている。アルバイトは不定期で、体調を崩して働けない時期もあった。物価の高騰もあり、2、3年前と比べて、節約しても生活費は上がっていると感じる。

 東京大学を目指す受験生の中にも、家庭の経済的な事情で、あきらめざるを得ない人もいるのではないか、と心配する。

「大学そのものが、お金がないと行けない場所になってしまう」

 東京大学は9月、反対する学生や教職員の声もふまえ、25年度入学者から値上げするのは学部のみとすることを決めた。大学院については、修士課程は29年度から値上げし、博士課程は据え置くことにした。

 男子学生は、今回の値上げで、イメージとしても実態としても、東京大学が「お金持ちしかいけない大学」になるのではと危機感を持っているという。東京大学が値上げすることで、ほかの大学が追随する可能性もある。「大学そのものが、お金がないと行けない場所になってしまう」と感じる。

 値上げは授業料減免の対象者などの拡充とセットになったが、話は単純ではない。親の年収が一定程度あっても仕送りが少ない人はいるし、きょうだいが多い場合もある。実際に経済支援を行う時には、世帯年収での判断ではなく、一人ずつの状況をみてほしいと考えている。

(朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班/Webオリジナル(外部転載))

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