「不純な動機ですよ!」200kg超のバーベルを持ち上げる驚異の“筋肉女子”…野村優(24)がパワーリフティングを始めた“意外なきっかけ”
文春オンライン / 2025年1月31日 11時10分
ある日の練習光景。70kgのバーベルをゆうゆう持ち上げる
国内最強格のパワーリフティング選手として、数々の世界大会に出場する野村優さん(24)。その逞しい肉体美は、まさに圧巻。
しかし、彼女はなぜ、世間ではまだあまり知られていないマイナースポーツを始めたのか。競技との出会いから現在の私生活まで話を聞いた。
◆◆◆
自己ベストはトータル「500kg」
――はじめにパワーリフティングという競技は、どのような競技なのか教えてもらえますか。
野村 バーベルを肩に担いで立ち上がるスクワットと、ベンチ台に寝転がって胸まで下げて元の位置まで戻すベンチプレス、床から腰の高さまで持ち上げるデッドリフト。この3つの合計重量を競う競技です。
――想像もつかないのですが、野村さんはどれくらいの重さを持ち上げられるのでしょうか。
野村 昨年の全日本選手権でスクワット167.5kg、ベンチプレス102.5kg、デッドリフトで230kgを上げて、日本人女性歴代最高重量のトータル500kgを記録したのが大会で出した自己ベストですね。
憧れのアイドルと共演できるんじゃない?
――想像以上の重量でイメージすらできません(笑)。ちなみに、競技を始められたきっかけは何だったのでしょうか。
野村 もともと本当にごく普通の女の子だったんですけど、高校生の頃、当時好きだった関西ジャニーズJr.が出演しているテレビ番組でパワーリフティングが特集されているのを目にしたのがきっかけなんです。
「私もパワーリフティングでナンバーワンになったら憧れのアイドルと共演できるんじゃない?」
そんな不純な動機ですよ!(笑)
――とはいえ、メジャーなスポーツではないだけに、パワーリフティングを始めようと思っても、なかなか始めるきっかけがないのではないでしょうか。
野村 実は、もともと町の道場で柔道をやっていて、中学生の頃に出場した大会で京都府で3位にはなれたんです。それで進学先の高校では、まず柔道部に所属して、その補助トレーニングとして、パワーリフティングに取り組んでいました。トレーニングをやっているなかで、どんどんパワーリフティングが楽しくなったんですよね。
そして、進学先がたまたまパワーリフティング部のある高校で、先輩が世界大会に出ていたりもしたので、「ここで練習を続けて結果を残せば、世界大会にも出られるかもしれない。そうすれば、憧れのアイドルと共演できるかも!」と、転部したんです。
悔しくて、真っ昼間一人で泣きながら…
――テクニックはもちろん、何よりも筋力が重要な競技だと思うのですが、もともと力に自信があったんでしょうか?
野村 うーん……握力には多少。当時、体力測定で計測して45~46kgだったので、女子の中では強い方なのかなと。でも、パワーリフティングを始めてみたら、自分の力は大したことないと思い知らされましたね。いまの記録の半分の重量も上げられなかったですし、成績もなかなか伸びなくて。
その頃、他校にライバルがいて、私よりも階級は一つ下(57kg級)だったんですけど、最初からすごい成績を残していて、稽古先でも彼女ばかりが注目されていたんです。そういう状況がすごい悔しくて、帰り道に、真っ昼間一人で最寄りのバス停から泣きながら家まで歩いていたりしていましたね。
パワーリフティングは成長がわかりやすく目に見える競技
――それでもパワーリフティングを続けられたのはなぜなのでしょうか?
野村 先ほどの不純な動機もありますが、何より、パワーリフティングは重いものを持ち上げるというシンプルな競技なので、自分の成長がわかりやすく目に見えるんですよね。頑張れば頑張ったぶんだけ、数字に表れますし、それがモチベーションにつながるというか。
練習でどれだけしんどいことがあっても、試合で自己ベスト記録を更新したときは、それ以上の喜びってないんですよ。「この瞬間のために生きている!」と痛感します。
――では、これまで、高校、大学、社会人と競技を続けてきたなかで一番喜びを感じた瞬間はどんなときだったのでしょうか?
野村 大学1年生のときに、サブジュニアというカテゴリで63kg級の世界チャンピオンになれたときですかね。
表彰台の一番上から見る景色はとても特別でしたし、高校2年生の頃からお世話になっていた先生もその場にいて、そこで国歌を流せたのは、何かしらの恩返しになっているんじゃないかなと。当時を思い出すと、いまでもグッときますね。
――高校生から競技を始めて、大学生の頃に世界一に輝かれた。凄まじいキャリアだと思います。現在はパワーリフティング一本で生活されているのでしょうか。
「選手として生計を立てている人というのはまずいない」
野村 いえ、農業関係の会社で社会人をしながら、パワーリフティングを続けている状況です。
――国内トップクラスの選手である野村さんでも、仕事をしながらでなければ競技を続けられないのですね。日本にパワーリフティングだけで生計を立てている選手はいるのでしょうか。
野村 ジムのトレーナーや経営者をしながらという方はいますが、例えばスポンサー支援を受けたりして、選手として生計を立てている人というのはまずいないと思います。
驚かれることも多いんですけど、パワーリフティングはオリンピック競技でもないので、例えば世界大会に出るにしても、かかる費用は全額自費なんですよ。一回の遠征で60万、70万円くらいが自分の財布から飛んでいってしまうんです。私の場合、初任給のボーナスもすべて遠征費につぎ込みました。
――それでも世界に挑み続けるというのは、すさまじい熱意ですね。ちなみに社会人になると、それまでと違って、トレーニングにかけられる時間が減ってしまうのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
野村 そうですね。成績も落ちました。朝も早いし、夜もトレーニングしてから帰宅すると、寝るのも遅くなって……みたいな感じで、トレーニング時間は本当に短くなりました。
――並々ならぬ熱意で競技に取り組まれているだけに、成績が落ちたことで働き方を変えようと考えたりされることもあるのかと思うのですが?
仕事とパワーリフティングの“両立”
野村 成績が落ちていくなかで、仕事とパワーリフティングをどう両立させるか悩んだことはもちろんあります。ただ、会社の人は競技のことを応援してくれているんです。
世界大会に出るだけでも長期間仕事を空けないといけないのに、嫌な顔ひとつせずに送り出してくれますし、日本選手団に干し芋やお米をはじめとした物資を送ってくれたりもするんですよ。そんな環境だからこそ社会人になってから競技を辞める人が少なくない中で、私は競技を続けられたのだと思います。
ただ、どうしても時間が限られてしまうのは事実なので、いまは環境を整えて、能力を高めようという方向にシフトしました。お金をかけてフランス人のコーチをつけて、食事メニューも変えて、住まいもジムの近くに移したんです。
――そうして競技に打ち込まれるなか、2024年の世界選手権は欠場されています。なぜなのでしょうか。
野村 いろいろな要因が重なって。業務が忙しくて選考に行くことができなかったですし、かなりのお金がかかってしまうし、さらにそのタイミングで怪我も抱えていて。2024年は出場しないという決断を下しました。
――2025年は出場される考え?
野村 そうですね。2026年も、2027年も。自分が選手として第一線で活躍できているうちは出場し続けたいです。負けにいくのは嫌なので、勝ちにいく気持ちで出られるうちはずっと出たいですね。そのためにトレーニングを重ねる毎日です。
〈 「脚が太くても、腕がデカくても…」パワーリフティング界の女王(24)が明かした“周囲の視線”に対する“素直な心情” 〉へ続く
(「文春オンライン」編集部)
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