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外食の“町中華”でも“ガチ中華”でもない…レシピ本大賞W受賞『あたらしい家中華』が大ヒットの深いワケ

文春オンライン / 2025年2月8日 11時0分

外食の“町中華”でも“ガチ中華”でもない…レシピ本大賞W受賞『あたらしい家中華』が大ヒットの深いワケ

『あたらしい家中華』(マガジンハウス)

 簡単、あっさり、毎日食べたい。「味が濃くて調味料が多い」という中華料理のイメージを鮮やかに覆す、初のレシピ本『あたらしい家中華』(マガジンハウス)が重版を続け、13刷9万部という大ヒット。「料理レシピ本大賞」W受賞がさらなる話題を呼び、男性のファンも多いという。

 SNSやブログでおいしい情報をマイペースに発信し続け、昨年12月発売の新刊『中華満腹大航海』(KADOKAWA)を上梓した中華料理愛好家・酒徒さんに、本場中国のごはんに邂逅する前に食べていたもの、現地での食の楽しみ方を聞いた。(全2回の1回目/ 続きを読む )

◆ ◆ ◆

『あたらしい家中華』が大ヒット

――ご著書『あたらしい家中華』がみるみるうちに13刷に。ご新刊『中華満腹大航海』も発売3日目にして重版がかかったそうで、おめでとうございます。

酒徒さん(以下、酒徒) ありがとうございます。

――ふだんは会社にお勤めのサラリーマンとのことですが、この一年と少しで、酒徒さんご自身の変化がものすごく大きかったのではと想像します。実際のところ、いかがでしたか?

酒徒 怒涛の一年間でした。2023年10月に初めてレシピ本を出したんですけれども、その反響が、自分の想像をはるかに超えたもので。「何刷」という話もそうですし、昨年9月には「料理レシピ本大賞」というものもいただきました。それにともなって今回のようにさまざまなお声がけをいただくようになったり、新刊もいきなり「重版」が決まったりと、もうびっくりしてしまうことの連続です。

はじまりは「dancyu」の中華特集

――いちばん最初に酒徒さんのことを知ったのは、これなんですよ、2022年1月号「dancyu」の中華特集。

酒徒 あー、懐かしい。

――どういう経緯でお声がけがあったのでしょうか。

酒徒 2019年に駐在先の中国から帰ってきて、noteで中華料理のレシピを発表するようになってですね、それがけっこうnoteとしては多くの人たちに見ていただけるようになってから、ちょこちょこと雑誌のお話をいただくように。その流れからですね。

――特集のタイトルが「新しい家中華」で、いまから思えば、ご著書のタイトルはここからきているのかなと。

酒徒 レシピ本の編集者さんと相談して、「今回の本のコンセプトにはこのタイトルがすごく合ってるんじゃないか」という話になりまして、dancyu編集部さんにおうかがいを立てて、同じタイトルを使わせていただいたという経緯があります。

――「dancyu」にも載っていた「里芋の葱油炒め(葱油芋艿)」。私は『あたらしい家中華』を見てつくったのですが、びっくりするくらい簡単で、めちゃくちゃおいしくて、感動しました。

酒徒 それはうれしいですね。

 あの料理は、僕も初めて知ったときは、まさに同じような感動を覚えて、これでもう里芋の消費に困らないというか、実家から送られてくる大量の里芋を食べられるようになったというか、ただの衣かつぎじゃ絶対に消費できないような量を食べちゃうじゃないですか。つくりかた自体もすごく簡単で、自分で料理をする楽しさを自覚した料理のひとつではありますね。

外食の「町中華」でも「ガチ中華」でもなく…

――材料も少ないし、塩味だけで素材の味を生かされて、「トマトの卵炒め(西紅柿炒蛋)」なんかもそうですけど、家庭のおかずみたいだなあと。日本で食べる中華料理って、いまでしたら「町中華」とか、主に池袋周辺の「ガチ中華」とか、あるじゃないですか。

酒徒 はい、はい。

――どちらかといえば濃い味つけの、日本人が好きな中華料理と、酒徒さんが思われる中華料理に、ギャップを感じることはありますか?

酒徒 それはぜんぜん違うなと思っていて、いわゆる「町中華」だけを中華料理だと捉えている方にとっては、この本に出てくる料理は、かなり違うものだなというふうに映ったと思います。

 日本で一般的に中華料理といわれて想像するものは、外で食べる料理だと思うんですよ。誰かがつくって、レストランで食べる料理。そのイメージが強いからか、たとえば青椒肉絲とか、エビチリとか、がんばって家でつくらなくてもいいようなものも、すごくがんばって再現するというレシピが、基本になっていたんじゃないかなと。

 それに対して、僕がレシピ本で紹介したのはふだんのおかず、中国の人がふだん家で食べている料理ばかりだったので、読者にとってもギャップとして新鮮に映ったのかなって思っています。

うま味調味料は「入れないで」

――いわゆる昭和の「町中華」でいうと、うま味調味料も味のうち、といったイメージがありますが、中国の現状はどんな感じでしょう。

酒徒 あ、ふつうに使ってますよ。がっつり使ってる店も多いです。

 レストランで注文するときは、「入れないで」って、僕は言いますけれども。うま味調味料自体はただの「うま味」なので、それが危険だという派閥では僕は全然ないですし、入れるも入れないも単なる好みだと思っていますが、自分の好みで言えば、入れすぎていると感じる店が多いので。

――「入れないで」とお願いしたときの、お店の方の反応は?

酒徒 「ああ、好きじゃないのね」って感じです。

 なんていったらいいですかね、日本では漫画の『美味しんぼ』的なノリで、うま味調味料がわるものにされがちなところがあると思うんですけど、中国にはそういう価値観があまりないので、単なるワン・オブ・調味料なんですよ。辛さを弱めにしてくれとリクエストするのと同じ感覚で、ある意味すごくニュートラルです。

小学生で「いつか豚の丸焼きを中国で食べてみたい」

――本場の中華料理との出会いの原点は、大学1年生の中国旅行だったと、ご著書に書かれていました。

酒徒 中国に行ったのはそのときが初めてで、それまではふつうに日本にいましたので、いわゆる日本の中華料理を食べて育ちました。

 もともと僕は大学で中国の歴史を専攻していまして、歴史への興味から「中国行くぞ」って、張り切って北京に行ったわけですよ。昔から食い意地が張っていたので、現地の料理に興味はあったんですが、何気なく食べたら、それが想像以上においしくびっくりして、歴史への興味が、食への興味にシフトしてしまった、みたいな。

――初めて中国に行かれる前、外食として食べてらした中華料理は、どういうものでしたか? 

酒徒 いわゆる「町中華」のメニューを思い浮かべていただければいいんですけど、特別なものはなにも食べてないです。⾼校のときは、部活の帰りに食べる広東麺が好きだったなあ。ちなみに、広東麺は中国にはない「日式中華料理」です。

――お好きだった中華料理は?

酒徒 とくに記憶にないですね。じつは中華料理に限らずどの料理も大好きなタイプで、それはいまも変わりません。ただ、小学4年生のときの文集に、「いつか豚の丸焼きを中国で食べてみたい」と書いていました。理由はまったく覚えてないですけど、きっとテレビかなにかで見たんでしょうね。

――初めての中国で、食べて感動したお料理は。

酒徒 水餃子って、よく書いてるんですけど、北京の、山盛りにどさっと出てくる水餃子に痺れたって感じですね。

 学生時代は休みのたびに中国に出かけて、短期留学は2回ですけど、旅行を加えるともっと行ってました。

就職氷河期に選んだ大学卒業後の“進路”

――就職先は、なにかしら中国に関連する会社を意識して選ばれたのでしょうか。

酒徒 最終的にはそうです。僕が大学生のころは就職氷河期で、しかも歴史学科卒の学生に職なんてあるのかないのか、そういう時代だったんですね。みんな100社くらいエントリーシートを送るみたいな。

 自分はもともと大学院まで進学して歴史を学ぶつもりで大学に入ったんですが、先ほどお話ししたように、歴史への興味が食にいってしまったので、進学はやめて、食品メーカーを狙って就職活動していたんです。

 でも、途中で自分はマスプロダクトとしての食品が好きなわけではないと気づいて。どうせなら現地に住んで中華料理を食べまくるチャンスがある職に就くほうが面白いよなと方向転換しまして、「中国に行けそうな会社ってなんだろう」と、いまの会社にたどり着いた感じです。

北京留学中は食べた料理をひたすらExcelに…

――大学生の頃から、現地で食べたものを記録され続けているとか。

酒徒 好きなことをもっと知りたいという一心で、最初は食べた料理の名前の意味もわからないので、帰ってきてから調べるということで、ノートに手書きで記録していました。

 語学留学で北京に暮らしていたときは、パソコンが普及していたので、食べた料理をひたすらExcelに打ち込んで、中国語の勉強ついでに発音記号をつけて、それが何料理か、さらにひとことメモをつけて、ということをずらーっとやり続けたら、2年もしないうちに5000食になったわけですよ。

――5000。

酒徒 さすがに3、4年したら、レストランでふつうに出てくるような料理はだいたい覚えちゃったのでやめましたけど。ただ、Excelをやめたあとも、食べた料理の作り方や由来を調べてブログに書くことを続けていたので、食べたものが食べただけで終わらず、自分の養分というか、知識になっていった部分はあります。

「食べて、調べて、書く」で、三度楽しめる、みたいな。

――伝えたいというお気持ちが強いですか?

酒徒 身も蓋もない話なんですけど、僕がなにより重視しているのは自分自身の食欲なので、「本場の中華料理を日本に伝えなければ」といった使命感はぜんぜんないんですよ。せいぜい「この料理むちゃむちゃ旨かったよ! 見てみてー」くらいですね。

 もちろん、どうせ見てもらうんだったら受け止めてもらいやすいものはなんだろうということは考えますけれども、やっぱり初期衝動としては、自分が食べたことがないものへの追求心や食べておいしかったときのよろこびがあって、それがいまも一番の行動原理になっています。

〈 「10億人産んでる国だから大丈夫だろうって」プロの料理人のファンも多い大人気中華料理愛好家・酒徒さんが、家族とともに再び中国に住みたい理由 〉へ続く

(中岡 愛子)

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