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「予測はしていたが…」日本製鉄幹部がバイデンに恨み節、一方のトランプは…

文春オンライン / 2025年1月21日 7時0分

「予測はしていたが…」日本製鉄幹部がバイデンに恨み節、一方のトランプは…

USスチールをめぐる「ディール」は…

「恥ずべき腐敗した決定だ。経済・国家安全保障上の同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険に晒した。中国の共産党幹部は北京の街頭で小躍りしているはずだ」

 1月3日、バイデン米大統領が日本製鉄によるUSスチール買収を禁じる大統領令を発表。すると、その直後、USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は大統領を糾弾したのだった。

◆◆◆

中国と対抗する機会を葬る、嫌がらせに等しい内容

 米在住ジャーナリストが解説する。

「不動産バブルの崩壊で不況が続く中国は、今、鋼材輸出でもうけようと東南アジア、中南米などの市場に猛烈な攻勢をかけている。1年前に比べ、アジアの鋼材価格は3〜4割ほど下落。日米鉄鋼業界の雄が手を結び、中国と対抗する機会を、あろうことか米国の大統領が葬り去ろうとしている。ブリット氏が怒り心頭なのもうなずけます」

 一方、2兆円を超える資金投入を覚悟して買収に乗り出した日鉄もいら立ちを隠せない。幹部の1人は「買収を認めないのは予測していたが、得体の知れない条項が付いている」と苦虫を噛み潰す。バイデン氏による大統領令で「買収計画の放棄を証明する文書を原則30日以内に提出せよ」と命じられたからだ。「大統領選挙の最中に面倒な案件を持ち込まれたのが、バイデン氏にとってよほど腹立たしかったのではないか。ほとんど嫌がらせに等しい内容だ」(自民党議員)。

囁かれる、バイデン氏の“癒着”

 米国でも、大統領令によって政治力を誇示するバイデン氏に批判の目が向けられている。

 USスチールが本社を置くペンシルベニア州で幼少期を過ごしたバイデン氏は、買収に終始反対してきた全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長とも旧知の間柄。昨年の大統領選でも同州は激戦区となったが、こんな生臭い話も聞こえてくる。

「大統領選挙の1カ月ほど前、ブリット氏が買収成立後、USスチールを退任すると7200万ドル(約111億円)を手にする契約の存在が、民主党のリベラル派議員によって暴露された。またUSWのマッコール会長は米国2位のクリーブランド・クリフス社との癒着の噂が絶えません。日鉄が買収をあきらめれば、資金でも技術でもかなわないクリフスにもチャンスが生まれる。もしクリフスがUSスチールと合併すれば、マッコール氏を高い報酬で社外取締役として迎え入れる密約があるとも囁かれています」(現地特派員)

「当然我々は訴訟も考えますよ。」

 日鉄でUSスチール買収の陣頭指揮をとっていたのが、橋本英二会長だ。

「営業一筋の橋本氏は2019年に社長に就任。当時の社内状況は、橋本氏が周囲に『資金流出がひどすぎる。このままだと後3年で会社は潰れる』と漏らすほど。橋本氏は国内高炉の廃止など不採算事業を整理し、年間8000億円の経常利益を安定して生み出せる企業に変身させました。

 また政財界に人脈を広げ、林芳正官房長官、齋藤健前経産相、DeNAの南場智子会長らは橋本応援団の一員です」(日鉄の別の幹部)

 11月の米大統領選直後、 橋本氏は小誌の取材に強気でこう語っていた 。

「これがね、正当な理由もなく、正式な手続きも経ないまま駄目になるってことであれば、当然我々は訴訟も考えますよ。アメリカ政府に対して。我々は訴訟もあるべしというぐらいの覚悟でやってんだよ」

トランプ氏の意向

 だが、大統領令が出た直後、橋本氏の携帯電話を鳴らすと、暗い声で「取材、お断りします」と語った。

 次期大統領のトランプ氏はかねて買収を認めない意向を示しており、打開の道筋は描けていない。

「ただ日鉄がアメリカに対し、どれだけの投資や雇用を約束しているか、トランプ氏はまだ十分理解していないはず」(経産省幹部)

 今後は日鉄が米政府の決定を覆すための裁判を続ける間に、トランプ大統領をディールに引き込めるかどうかが焦点になりそうだ。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年1月16日号)

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