「この先生に学ぶことはたくさんある」“時代劇”で医師を演じた松坂桃李が共演するたびに教えられるという“師の存在”
文春オンライン / 2025年1月25日 6時10分
撮影 杉山拓也/文藝春秋
これまで殺し屋、娼夫、刑事、エリート官僚など幅広い役に挑んできた松坂桃李。『 雪の花 ―ともに在りて― 』は『居眠り磐音』(2019年)以来の時代劇だ。演じたのは疱瘡で苦しむ人々を種痘で救うために奔走する町医者。新鮮で充実した時間だったという。
主人公のひたむきな姿勢を
―今回、種痘の伝播に努力した江戸幕末の医師・笠原良策を演じていかがでしたか?
松坂 まずこのお話を頂いた時、小泉堯史監督とご一緒できるなら何をおいてもと参加表明しました。そうしたら、シナリオと同時に大量の資料も届き、笠原という人物を知らなかったので一から学びました。知っていくにつれ、難治の病とされていた疱瘡と戦うため町医者の身で蘭方医に学び、種痘を広めた意志力、その志に打たれました。シナリオにも疱瘡予防のために立ち上がるけれど数々のハードルを超えなくてはいけない過程が丁寧に描かれていて、演じるにあたりそうしたひたむきな姿勢を心がけようと思いました。
―撮影前の役作りで心がけたことはありますか?
松坂 完成した作品をご覧になるとわかるように、とても現代的な要素があります。コロナ禍を経た僕らにとって病との対決は身近な問題です。良策がぶつかる幾つもの壁、偏見や官僚制、新しい技術に関することなどが時代劇の中に自然に入っています。だから役作りとしては“時代劇だ!”と肩肘張らず、自分の演じたあの時代と今は地続きなんだと考えてのぞみました。
―役柄としては町人でも武士でもない町医者です。立ち居振る舞いなど難しいと感じるところはありましたか?
松坂 時代劇特有の所作、言葉遣いはありますが、患者さんを受け止める姿勢をしっかり演じようと心がけました。小泉監督は「脚本をとにかくよく読むこと」を勧めてくれ、みんなで読み合わせをし、現場でも綿密にリハーサルをやって下さったので、演じる上での壁がなかったのはとても助かりました。
不安より高揚感に包まれた現場
─本作は昨今珍しいフィルム撮影ですね。
松坂 そうなんです! クランクイン前は、ワンテイクが大きな意味を持つので期待も不安も大きかったのですが。だけど、黒澤明イズムを継承したベテランスタッフの方々に囲まれると不安より高揚感に包まれました。監督から「現場の空気を感じ、素直に演じてください」と声をかけられたのも大きかったです。こうした信頼感に包まれる現場は幸せです。小泉監督が「キャメラが寄れば寄るほど登場人物から遠くなる。逆に遠くからズームレンズで捉えたら人物像に迫れる。なぜなら撮影を意識しない自然な演技を捕まえられるから」と言われたのも印象的でした。カットを遮二無二変えていくのではなく、アクション場面でもフレーミングの中で動くのが新鮮でした。本当に演じる充実度は高かったです。
『孤狼の血』以降、共演するたびに役所さんから学んでいる
─雪山のシーンは本編中の白眉でした。
松坂 撮影は12月中旬に雪が積もった中で行いました。監督が何度も山へ足を運んで、「いまだ!」と決断した時の一発勝負でした。望遠レンズで撮影されていますから、雪に足を取られて倒れてしまったのですが、カットがどこでかかったのかを覚えてないほどです(笑)。これぞリアリズムという体験をしました。
―役所広司さんとは、医療の師弟関係という間柄ですね。
松坂 蘭方医・日野鼎哉として登場した役所さんの演技は、「この先生に学ぶことはたくさんある」と思わせる存在感が漲っていました。演じていると良策と鼎哉の師弟関係が僕自身の体験に混じり合うような、そんな感覚に陥るんです。『孤狼の血』(18年)でご一緒して以来、共演するたびに役所さんには何かしら教えられます。
時代劇はシンプルにドラマが迫ってくる
―時代劇主演は2作目になりますが、終わっての感想は?
松坂 本作は幕末の時代設定ですが、演じてみると感情の湧き上がり方は、現代劇と変わらないことが多かったです。むしろ、スマホやネットがないぶん、感情をストレートに出して演じられるんだな、と。時代劇は観る側へシンプルにドラマが迫ってくるのが“強い”気がします。最近では『SHOGUN 将軍』の成功もありましたが、これまでの時代劇という枠だけではなく、現代に通じるものがあるということを知ってもらうために、微力ながら頑張りたいと思っています。
杉山拓也=写真
カワサキタカフミ=スタイリング
古久保英人(OTIE)=ヘアメイク
まつざか・とおり 1988年、神奈川県生まれ。2009年デビュー。『ツナグ』(12年/平川雄一朗監督)で、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍。『孤狼の血』(18年)で、第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『新聞記者』(19年)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞しているほか、『孤狼の血 LEVEL2』(21年)、『流浪の月』(22年)で、第45回と第46回の日本アカデミー賞優秀主演男優賞をそれぞれ受賞。
『雪の花 ―ともに在りて―』
INTRODUCTION
黒澤明監督の助監督を務め、デビュー作『雨あがる』(00年)以来、一貫して人間の美しい在り方を作品にしてきた小泉堯史監督が、吉村昭の小説『雪の花』を映画化した。実在した町医者である主人公・笠原良策役には松坂桃李。使命感に溢れる人物をひたむきに、力強く演じきった。良策の妻・千穂役に芳根京子。良策を導く蘭方医・日野鼎哉役に役所広司。多くの命を奪う疫病に立ち向い、絶対に諦めなかった男が逆境に直面する姿を描く。
STORY
江戸時代末期。死に至る病、疱瘡(天然痘)が猛威を振るい、多くの人命を奪っていた。福井藩の町医者・笠原良策は、どうにかして人々を救う方法を見つけようと、京都の蘭方医・日野鼎哉に教えを請う。治療法を探し求めていたある日、種痘(予防接種)という方法があると知るが、そのためには「種痘の苗」を海外から取り寄せる必要があり、幕府の許可も必要だ。実現は困難だが、良策の意志は固くやがて藩、そして幕府をも巻き込んでいく。
STAFF & CAST
監督:小泉堯史/原作:吉村昭『雪の花』/出演:松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、益岡徹、山本學、吉岡秀隆、役所広司/2024年/日本/117分/配給:松竹/©2025映画「雪の花」製作委員会
(岸川 真/週刊文春CINEMA)
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