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東京郊外に移住→突然「エミューを飼いたい」…会社員女性が“寿命20〜30年”のエミューとの暮らしを“夫に納得させるまで”

文春オンライン / 2025年2月2日 11時0分

東京郊外に移住→突然「エミューを飼いたい」…会社員女性が“寿命20〜30年”のエミューとの暮らしを“夫に納得させるまで”

会社員女性が飼うエミューのグルート

 きっかけは親しい編集者から寄せられたこんな“情報提供”だった。

〈彼女は最近、犬のほかにもエミューを飼い始めました〉

“彼女”というのは彼の同僚で、私も当時、仕事でお世話になったサホさんである。サホさんが3か国語を操る才女であることは知っていたが、エミューを飼っているとは知らなかった。(全3回の1回目/ #2 に続く)

◆ ◆ ◆

 ご存じない方のために説明しておくと、エミューとはオーストラリア原産の巨大な鳥で、オーストラリア全域の草原や砂地など開けた土地に生息している。体高が1.5mから1.9mあり、これは現生鳥類ではダチョウに次いで世界で2番目の大きさである。翼は退化していて飛べないが、強靭な2本の脚で走り、その時速は40km以上に達する。

 個人的に最もロマンをそそられるのは、「世界一危険な鳥」と称されることもあるヒクイドリに近い仲間であるという点である。

 そのエミューをサホさんは飼っているという。いったいどこからやってきたのか、普段はどこにいるのか、何を食べているのか、危険じゃないのか……次から次へと「?」が湧いてくる。こうなったら、会いにいくしかない。 

家のゲートには〈WARNING(警告)〉の文字

 東京都心から西へ電車で約1時間、さらに最寄り駅から車で30分ほど走ると、旧い街道の面影を色濃く残す山あいの道へと入っていく。やがて辺りは東京から2時間ほどの場所とは思えない里山の景色となり、ようやく目的地に到着した。

 アメリカの牧場のような木製ゲートには〈WARNING(警告)〉の看板が掲げられ、そこにはこう書かれている。

〈 THIS PROPERTY IS PROTECTED BY A HIGHLY TRAINED EMU(この土地は高度に訓練されたエミューによって守られています)〉

 ログハウスの中から出てきたサホさんが「遠いところをはるばる……」と笑いながらゲートを開けてくれた。敷地に一歩足を踏み入れると、何となく視線を感じる。

 いた。広い敷地の一角にフェンスで囲われた小屋があり、そこから長い首を伸ばしてこっちを見ているのがエミューの「グルート」だ。その名前は、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも登場する木のような姿のキャラクターにちなんだという。

「映画の中でグルートは、言葉がちょっと通じないというか、仲間から何かを説明されてもよく意味がわかってなくて変なことをしちゃうんですけど、すごく重要な役割を果たすんです。好きなキャラクターだったし、コミュニケーションが成立しているかわからないけど、キュートな魅力があるところが何か似ているかな、と思ってつけました」(サホさん、以下同)

なぜエミューを飼おうと思ったのか?

 グルートに会う前に、まずは屋内でサホさんに話を聞く。

――もともとエミューを飼いたいと思っていたんですか?

「それが全然なんです。ここに引っ越してきて、たまたまこういうことになりました」

 そう語るサホさんの傍らには2頭の犬(ホワイトスイスシェパードのゼルダとフラットコーテッドレトリバーのリラ)が控える。そもそも最初のきっかけが“犬”だったという。

「私はもともと田園都市線沿いのペンシルハウスみたいな家に、夫とホワイトスイスシェパードのソフィ(※2024年3月に他界)と住んでいたんです。それで『もう1頭、犬を飼いたいな』と思って、夫に相談したら『だったらもっと広い家を探さないと』ってなったんです。そこから土地を探し始めました」

 ギリギリ通勤可能な都心から2時間圏内を円で囲んだエリア内で、予算に合う土地を探すこと2カ月あまり。ようやく見つけたのが、この場所だった。

 1200㎡の敷地に建つログハウスは、ログハウスメーカーがスウェーデンから運んだ木材で「あっという間に」組み上げたものだというが、いかにも快適だ。ログハウスの前には“庭”というよりは“ドッグラン”と呼ぶべき広大なスペースが広がり、当然のごとく家庭菜園もある。

田舎暮らしの“敵”は生い茂る雑草

 こうして「もう1頭、犬を飼いたい」という思い付きから始まったサホさん夫妻の移住計画が実現したのは、世間がコロナ禍に突入する少し前のことだった。

「以来ずっとキャンプしてるみたいな感覚です(笑)。会社に行って帰ってくるだけでもバスで峠を越えたり、トコトコ電車に揺られたりで2時間かかりますが、小旅行気分で面白いんです。逆に都心に住んでいた頃の方が、満員電車では何にもできなかったので、通勤時間は短くても辛かったかもしれない。その後、コロナ禍でリモートワークも定着したので、今では週に1、2回出社すればよくなりました」

 サホさんの仕事は海外との交渉がメインであり、時差があるため、日中は自宅で畑仕事をすることも多い。とくに夏場は、ぐんぐん生い茂る“雑草との戦い”だったという。

「畑とドッグランだけじゃなくて、家のまわりの土手も各家庭が管理するという地域の慣習があって、サボるわけにはいきません。これは大変だな、と思って、雑草を食べてくれる動物を飼おうと思ったんです」

 そこで、エミューなのである。

エミューは「自治体への届け出なし」でOK

 最初はヤギを飼うことを考えたというが、「ヤギは寂しがり屋で1頭だと鳴きまくるので、飼うなら最低でも2頭いないといけないそうです。あとは高い場所に登る習性があるので、そういう場所を作らないといけないし、鳴き声も近所迷惑かな、と断念しました」

 それから羊やポニー、ニワトリなど“雑草を食べてくれるヘルパー”となる動物をいろいろと検討した末、最終的に行き着いたのがエミューだった。

「もともと生き物系YouTuberの『ちゃんねる鰐』さんの動画を見るのが好きだったんです。その鰐さんの動画でエミューを孵化させて育てているのを見て、『エミュー、ありかも』と」

 調べてみるとエミューは特定動物には該当しないので自治体などへの届け出も特に必要なく、雨風がしのげる場所があれば、現在の敷地面積で十分育てられることもわかった。

戸惑う夫の反応は…

 こうなるとサホさんの行動は早い。早速、夫のデービッドさんに「エミューを飼いたい」と伝えたところ――。

「いつものことなんですが、だいたい私がシェパードを飼おうとか、ログハウスを建てようとか、エイッと決めちゃうので、夫は『またか』という反応でしたね(笑)。最初のうちは『えぇ、でもエミューでしょ!? うーん、どうだろう』とかちょっと戸惑ってましたが、私の決心が変わらないのを見て、『エミューがいる人生もありか……』という感じで、最終的には人生の面白いことのひとつとして受け入れた感じでした」

エミューの寿命は20~30年

 ところで、そもそもエミューはどこで手に入るのだろうか。

「国内にいくつかエミューを扱っている会社があるんですが、私は福岡でエミュー事業を行っている会社に問い合わせました。そこはエミューを活用するためのコンサルティングや素材を生かした商品の開発などを手掛けている会社で、ここなら信頼できるな、と思ったんです」

 エミューの飼育に関するハードルが思いの他、低かったことに加えて、サホさんの背中を押したことがある。それは「エミューは20年から30年生きる」という事実だった。

「もうこうしちゃいられない、と(笑)。私たちだっていつまで生きられるかわからないので、一刻もはやく迎え入れて、1日でも長く一緒に暮らそうと思いました」

 そして2023年のゴールデンウィーク、サホさん一家のもとに3月3日に生まれたばかりのエミューの雛がやってきたのである。

写真=松本輝一/文藝春秋

〈 自宅からエミューが脱走…「とても焦りました」東京に出勤しながらエミューと暮らす会社員女性が語る“理想と現実” 〉へ続く

(伊藤 秀倫)

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