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自宅からエミューが脱走…「とても焦りました」東京に出勤しながらエミューと暮らす会社員女性が語る“理想と現実”

文春オンライン / 2025年2月2日 11時0分

自宅からエミューが脱走…「とても焦りました」東京に出勤しながらエミューと暮らす会社員女性が語る“理想と現実”

雛の頃のグルート。体表には星屑を散らしたような縞模様が(サホさん提供)

〈 東京郊外に移住→突然「エミューを飼いたい」…会社員女性が“寿命20〜30年”のエミューとの暮らしを“夫に納得させるまで” 〉から続く

 東京から電車を乗り継いで2時間ほどの里山で、会社員をしながらエミューと暮らすサホさん。週に1、2回は都心へ出社しているという。自宅を訪ねてサホさんの話を聞いている間、ケージから出してもらったグルートは、敷地内で家の周りを自由に歩き回っている。時折、開いているリビングの窓からにゅっと首を突き出して、中をのぞきこんでくる。人間に媚びるところのない無遠慮な視線が印象的だ。

「これでもウチに来た当初は、キュンキュン鳴きながら、私の後をずっとついてくるのが可愛かったんですよ」

 当時の写真を見せてもらうと、雛の頃のグルートは今と違って、身体も小さく首も短い。その体表には星屑を散らしたような縞模様が入っている。

「そうそう、このシマシマが可愛いかったです。ただ羽毛は、思ったよりザクザクしていて、正直手触りはあまりよくなかったですね。半年ぐらいすると、その下から大人の羽毛がムクムクと生えてきて、中の方はすごいフワフワなんです。成長するにつれてシマシマも消えて、ヘアスタイルはショートモヒカンになりました」

(全3回の2回目/ #3に 続く)

◆ ◆ ◆

最初は犬との違いに戸惑った

 グルートは基本外飼いで、来た当初は1m×1.2mほどの犬用のケージに入れていた。

「この辺は田舎なんで、やっぱり猿とかいるんですよ。野良猫ももちろんいますし、狸とかハクビシンとかもいるので、そういうのにイタズラされたり、いじめられないようには注意していました」

 エミューどころか、鳥類を飼うこと自体、初めてだったサホさんは、最初は犬との違いに戸惑ったという。

「小さいうちは抱っこしたりできるのかな、と思ってたんです。でもエミューは両脚がきちんと地面についてないと暴れちゃうからダメと聞いて、それは断念しました。あとは、犬みたいに“ルルル”と呼びかけたら来るようにならないか、と思ってちょっとトレーニングもしてみたんですが、これは早々に無理ということがよくわかりました」

エミューが脱走…「とても焦りました」

 ちょっとした事件もあった。

 グルートが来てから1、2カ月が経った頃のこと。サホさんの仕事は海外との交渉がメインで、昼過ぎに自宅で海外とのオンラインミーティングを終えてふと庭を見ると、そこにいるはずのグルートの姿がない。

「すぐに庭に出て探しましたが、どこにもいなかったので、とても焦りました。車に轢かれたら終わりですし、辺りには野良猫もいます。呼んでも返事をしたり駆け寄ってくることもないので、自分で探し出さない限り、命が失われてしまうと思いました」

 まだ身体も小さかったので、見つけることさえできれば、捕まえること自体はそう難しくはない。サホさんは犬のリードを手に「グルート!」と大声で呼びながら、あたりを探し回った。ご近所の庭や畑にも許可を得て、入らせてもらった。

 やがて、隣の家の庭でたたずむグルートを発見した。

「グルートの近くにその家のおじさんがロープを持って座っていたので、『ごめんなさい! その鳥、私の鳥です!』と駆け寄って、お詫びとお礼を述べました。おじさんは『とても大人しいけど、誰の鳥かわからなかったら、ついさっき拾得物として警察に連絡しちゃったとこなんだ』と」

 改めておじさんにお礼を言ってから、首にリードを巻いて連れ帰った。グルートは少し興奮気味で、羽や身体に多少傷もあったが、大きなケガはなかった。

「とにかく、ホッとしました。生きててよかった! 脚のケガがなくてよかった、って。2本足で巨大な体を支えているので、脚のケガは致命傷になりかねないので」

脱走事件の“その後”

 行方不明になっていた時間は実質30分から40分ほどだった。後ほど通報を受けた警察官が家に様子を見に来たが、「犬も元気そうだね」と特におとがめもなかった。

「どこから逃げたのかは正確にはわかりません。木のフェンスの隙間は子犬も通れない幅にしていたんですが、おそらくフェンスが重なっているわずかな隙間に無理矢理、身体をねじこんで、出てしまったんだと思います」

 この脱走事件があってから、フェンスの隙間には金網を張った。

 この“事件”がきっかけというわけではないが、サホさんの家にエミューという珍しい鳥がいる、ということは、ほどなくご近所の知るところとなった。

「近隣のお子さんや保育園の園児たちが“エミュー、みせてください”ってやってきたり、農家のおじいさんが“これ、エミューは食べるかね”と言って野菜をもってきてくれたり……グルートのおかげでご近所との交流は明らかに増えました」

 そればかりではない。

「ご近所で農園をやっている人に言われたんですが、グルートがウチに来てから、猿やイノシシによる農作物への被害が明らかに減ったそうです。やっぱり、日本の里山では普通、見かけない生き物なんで、猿たちも警戒して近寄らなくなったのかもしれません」

 グルートの存在自体が地域に思わぬ恩恵をもたらしているのだ。

犬たちとエミューの関係は“微妙”

 現在、サホさん一家の一日のスケジュールは、朝6時すぎに起床した夫のデービッドさんがまず犬たちをドッグランで遊ばせることから始まる。というのも、犬たちとグルートの関係は、なかなか微妙なのだそうだ。

「最初の頃よりはグルートの存在に慣れてきた感じはあるのですが、やっぱりまだちょっと警戒してますね。グルートが外に出ているときは、犬たちは固まっちゃう(笑)。なので朝、グルートを小屋から出す前にまず犬たちを遊ばせるんです」

 ちなみに今や170cmを超えるぐらいにまで成長したグルートは、夜は広い庭の中の2mのフェンスで囲まれた小屋の中で過ごしている。朝、犬たちの時間が終わると、次はグルートの番だ。

「ぐるぐると敷地の中を歩き回って、ときどき、地面に生えている草を食べたり土を掘り返してミミズなどをついばんだり、気ままに遊んでますね」

エミューは何を食べるのか?

 当初グルートに期待されていた“草取りヘルパー”としての働きぶりについては「食べてはくれるんですが、ヤギとか馬みたいにムシャムシャ食べる感じではないです。こっちでついばみ、あっちでついばみ、前後と比べると、うっすら草が少なくなったかな、ぐらいです。でもいいんです」とサホさんは笑う。

 朝のひと遊びが終わると、8時ごろに「朝食」の時間。基本はキャットフードと鳥用のフード、それに野菜を混ぜたものを与えているという。

「あげる野菜は季節によって違うんですけど、春から夏にかけてはアブラナが周りにいっぱいあるので、それを適当にあげてます。秋から冬にかけての端境期は生えている葉物がなくなるので、小松菜を買ってました。小松菜は好きみたいで結構バクバク食べるので、この時期は結構エサ代はかかっちゃいますね」

 とくに好物なのは「イチゴとかベリー類とか赤くて丸い果実」だそうだが、ミミズや幼虫なども見つけたら好んで食べているという。

 その後、サホさんが家で仕事をしている間も、グルートは自由に外を歩き回っているが、昼食の時間になると犬たちを外に出すので、グルートはいったん小屋に収容される。犬たちの時間が終わると、再び外に出されたグルートは午後の自由時間を満喫する。

「私が剪定とか草取りとかの庭仕事をしていると、何となく私のそばにいるので、家の外にいる時間がさらに楽しくなりましたね。水遊びもすごく好きなので、たまにホースで水をかけてあげると喜んで、その後で全速力で駆けまわったりします」

 真夏は木陰でずっと休んでいたが、涼しくなってから急にまた食欲旺盛になった。

 そして夕方になると小屋へと帰る。「帰る」というのは、つまり「エサで誘いこんで小屋に入れちゃいます」ということである。

写真=松本輝一/文藝春秋

〈 「鋭い爪で引っかかれて出血」「あちこちで大量のフンを…」エミューと暮らす女性が“そういう生き方もアリか”と思うワケ 〉へ続く

(伊藤 秀倫)

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