「鋭い爪で引っかかれて出血」「あちこちで大量のフンを…」エミューと暮らす女性が“そういう生き方もアリか”と思うワケ
文春オンライン / 2025年2月2日 11時0分
エミュー(グルート)とサホさん
〈 自宅からエミューが脱走…「とても焦りました」東京に出勤しながらエミューと暮らす会社員女性が語る“理想と現実” 〉から続く
東京から電車を乗り継いで2時間ほどの里山で、会社員をしながらエミューと暮らすサホさん。自宅であるログハウスでの取材をいったん切り上げ、庭に出て、いよいよエミューの「グルート」と対面してみる。
見慣れぬ人間が近づいてくるのを視界の端で捉えていたのか、グルートはさりげなく距離をとるように歩き始めた。が、サホさんも我々の近くにいるためか、遠くに逃げるでもなく、付かず離れずの距離をキープしている。
(全3回の3回目/ 最初 から読む)
◆ ◆ ◆
この脚で蹴られたら「アザになります(笑)」
まず目を惹きつけられるのは恐竜を思わせるような太い脚だ。
――この脚で蹴られたら痛いでしょうね……。
「痛いです。アザになります(笑)。脚もまたどこから飛んでくるのかわからないんですよ。前に蹴るときもあるし、横向きとか、後ろにも蹴れます。今でもよく蹴られます」
――どういうときに蹴られるんですか?
「例えば私が帰宅するのが遅くなって、グルートを早く小屋に入れようと後ろからグイグイ押したことがあったんです。そうしたら、バスンとやられました。それは私が悪かったな、と反省しました。機嫌をうかがわずに、有無を言わさずにグイグイしちゃったんで」
改めてグルートをよく観察してみる。頭をくいっと伸ばすとその目線は身長170cmの筆者とほぼ同じ高さだ。
灰褐色の羽毛に覆われたシルエットはお尻の部分がふわりと膨らんでおり、ちょっと貴婦人のドレスを思わせる。遠くから見たときは、確かにダチョウに似ていると思ったが、間近で見た印象はやはり恐竜に近い。通常、鳥類の足指は4本だが、エミューには3本の鋭い爪が生えている。
――この爪もかなり鋭いですね。これで引っ掻かれると血が出そうですが……。
爪で引っかかれて出血、スカートはボロボロに
「そうですね。肌の露出しているところをやられると(血が)出ますね。服を着ていても、薄手のスカートとかパジャマは、ビャッとやられたら、かぎ裂き状になっちゃいますね。実際、それで何枚もダメにしました」
――サホさんに対しては、飼い主という認識はあるんでしょうか?
「一応、あるとは思います。ご飯をくれる人、という程度の認識かもしれませんが(笑)。私は近づいて触ることもできるんですが、夫が近づこうとするとグルートは“ボンボン”と言いながら、離れていくんです。ほら、今も音がしますよね」
言われてみれば、確かにグルートの喉の辺りから、“ボンボンボン”という微かな音が聞こえてくる。まるで先住民が儀式で叩く古代の太鼓を思わせる音だ。
「喉のところを触ってもらうとわかるんですが、ボヨンボヨンの袋みたいになっていて、ちょっと警戒したり、威嚇するときに、そこを震わせてこういう音を出すんです。エミューはオスとメスで声が違うらしくて、オスは低く“ヴゥー”という感じで、メスは“ポンポン”と鳴くそうなので、グルートはメスじゃないかと思うんですが……」
――えっ、オスかメスか、わかってないんですか?
「そうなんですよ。エミューの場合、生後1年以上経ってからようやく性別がわかるそうです。もしメスだったら、そのうち卵を生むはずなんで、はっきりすると思います」
予測不可能な動きを…「急にグワッと動く」
対面して最初の頃よりは近づかせてくれるようになった。サホさんに断って、おそるおそる体表に触ってみると、表面は犬や猫とはまったく異なるゴワゴワとした毛に覆われているが、その下にいわゆる羽毛のフワフワとした感触がある。地面に落ちていた羽毛を観察すると、2本の羽毛が軸のところで繋がり、一対となっている。これはヒクイドリの仲間の特徴だという。
するとグルートが急にグイッと身をよじるように離れていった。顔は正面を向いたまま、いきなり身体だけ真横に移動したような動きに思わずビビる。
――こういう動き方も、本当に予測不能なんですね。
「そうなんですよ。急にグワッと動くでしょう?」
何を考えているかわからない漆黒の瞳で見られていると、やや落ち着かない気もする。だが違う種の動物が向かい合うというのは、本来こういうことなのかもしれない。
サホさんは、グルートが疾走する様子をカメラマンに撮らせようと、自らが囮となって「ほら! おいで!」と走ってみせるが、グルートは気乗りしないのか、2、3歩ダッシュしかけたところで、プイッと違う方向へ行ってしまう。
――グルートと暮らしてみて、事前の想像と違ったところはありますか?
「私、鳥を飼うのが初めてなんで、どんな感じなのか、そもそも想像もできなかったんです。それで何が一番大変かな、と考えてたんですが……」
一番大変なのは「あちこちに大量のフンをすること」
サホさんには取材前、事前の質問項目として「一番大変なことは何か」と尋ねていた。
「あまり大変なことって思いつかないんです。もちろん蹴られたら痛いし、スカートもボロボロになりますが、大変というのとも違うな、と。それで夫に聞いたら、『フンの処理が大変』だって(笑)。ウチはフンを集めてコンポストに入れて、畑の肥料にしているんですが、結構、あちこちにフンをするし量もすごいので、確かに大変は大変です」
――もし病気やケガをしたら?
「それは私も心配だったので、調べました。そうしたら近くに鳥類に強い動物病院があることがわかったので、安心して迎え入れました。あとは鳥インフルだけは怖いので、食べカスにカラスやスズメが寄ってこないように気をつけています」
――長い旅行にはいけないのでは?
「そんなことないですよ。いつも旅行中に犬たちの世話をお願いしているペットシッターさんが馬の調教もされている方で、大きい動物の扱いに慣れているんです。これまでにも何度か来ていただいて大丈夫でした」
「そういう生き方もありか」
――犬のようにはコミュニケーションがとれないのは大変ではないですか?
「夫は『ちょっと寂しい』と言ってますね。でも私は、そういう生き方もありかと思っていて。グルートを見ているとちょっと笑っちゃうんです。周りのことは全然気にしないで、走りたいときに走って、休みたいときに休んで、つつきたいときにつつく。人とコミュニケーションをとるとかとらないとか、そんなものもなくても、あなたはそれで幸せでしょう、とか思いますね」
わずかな時間しかグルートと接していない私でも、サホさんの言うことは何となくわかる気がした。犬がいようと(グルートが外に出ている間、リラたちは目を合わせないように2頭で固まっていた)、我々のような突然の訪問者が来ようと、どこ吹く風。
グルートは胸を張って辺りを歩き回っている。
「どうやらグルートはメスのようなので、もうすぐ深緑色の綺麗な卵を産むはずです。それもすごく楽しみです」
取材が終わる頃には「そうか、飼おうと想えばエミューって飼えるんだ」と納得している自分がいた。人が何と言おうと、自分の思った通りに生きればいい――グルートとサホさんを見ていると、それは実はそう難しいことじゃないのかも、という気にさせられる。
ボンボンボンボン……日本の里山風景にグルートの奏でる重低音が不思議なほど融けこんでいる。胸がすく、とはこういうことを言うのだろう。
写真=松本輝一/文藝春秋
(伊藤 秀倫)
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