《真相レポート》日本国民はGAFAMに支配される「デジタル小作人」となった〈手数料と利用規約に縛られ、赤字は年5兆円〉
文春オンライン / 2025年1月22日 17時0分
ユーチューバーのマネジメント会社、UUUMは2023年5月期決算で10億円以上の赤字 ©NurPhoto via AFP
“宗主国”となったGAFAMによる「デジタル植民地主義」。日本はすでに「デジタル小作人」になった……。読売新聞編集委員の若江雅子氏が、現状に警鐘を鳴らす。
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国家を凌ぐほどの「権力」
17世紀の思想家、トマス・ホッブズは国家を「リヴァイアサン」、それに対抗する教会などの勢力を異形の怪獣「ビヒモス」に喩えた。憲法が専門の山本龍彦・慶應大教授はこれになぞらえ、GAFAMなどを「現代のビヒモス」と呼ぶ。国家の力を凌ぐほどの「権力」をもち、国家の権力行使のありようをコントロールし始めているとみるからだろう。
たしかに彼らは一国の人口を数で大きく上回る利用者を抱える。アンドロイドOSユーザーは世界で33億人。iPhoneユーザーは10億人以上と言われ、日本の人口のそれぞれ27倍と8倍だ。しかも彼らは、提供するサービスを通じて膨大なデータを収集し、ユーザーの行動や内面を把握する。さらには、それに基づいてユーザーの行動や精神状態を誘導する力ももつ。まさに主権国家に対抗しうる「ビヒモス」の名に相応しい。それでも欧州は「法」を武器に「ビヒモス」をコントロールし、主導権を奪い返そうと奮闘している。日本はどうするのか。
日本の「デジタル植民地化」
南アフリカ出身の社会学者、マイケル・クェット氏が2019年に発表した論文に「デジタル植民地主義――アメリカ帝国とグローバルサウスにおける新帝国主義」がある。
デジタル植民地主義とは、「土地」の代わりに「デジタル技術」を用いて外国を「植民地」として支配していくという考え方だ。クェット氏によれば、途上国の人々は、GAFAMのようなビッグテックのサービスに依存していくなかで、経済的、技術的、文化的な侵略を受けている。
南半球の国々だけの話だろうか。日本における検索エンジン市場シェアの8割弱はグーグルが占める。OSはグーグルとマイクロソフトとアップルのみ。EC(電子商取引)市場トップはアマゾン、SNSは1位こそLINEだが、2位以降はYouTube、Instagram、X、TikTok、Facebookと海外勢が続くのだ。
「デジタル赤字」は2.6倍に
このような状態では「宗主国」であるPF事業者が「税金」(手数料)を上げたり、「労働条件」(利用規約)を変えたりしただけで、その条件下で働く「小作人」は壊滅的な影響を受けかねないだろう。
例えば、東証グロース市場から上場廃止となる見通しとなったユーチューバーのマネジメント会社、UUUM。一時は時価総額1000億円を超えたが、2023年5月期決算では10億円を超える赤字となった。その一因として指摘されるのが、グーグルが2021年に導入した「ユーチューブ・ショート」の影響だ。
ユーチューブ・ショートは最長60秒の縦型動画で、若い世代に人気のTikTokへの対抗策として導入されたと言われる。だが、ユーチューブ・ショートの収益化は難しい。導入から1年半後、再生回数に応じて一定の広告収入が配分されるようになったが、公式の情報はないものの、1再生あたりわずか0.003〜0.01円と言われる。ひと頃は「小学生のなりたい職業」でナンバーワンだったユーチューバーだが、最近は収入激減を嘆く声も聞こえる。
植民地化が進む中で、日本の「デジタル赤字」は拡大している。国家間の資金移動をまとめた国際収支統計のうち、デジタルサービスに関連する「デジタル収支」を集計した三菱総合研究所によると、2023年は約5兆5000億円のマイナス。赤字額は2014年の2.6倍に膨らんだ。デジタル赤字の3分の1弱を占めるのが、「クラウド利用料」だ。インターネット上でソフトウェアの利用やデータ管理ができるクラウドサービスは、IT社会を支える重要なインフラだ。総務省の2023年通信利用動向調査によれば、国内事業者の78%がクラウドサービスを利用する。だが、その国内市場の6割は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフト、グーグルの米国3社が占めている。
※本記事の全文(約1万字)は「文藝春秋」2025年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(若江雅子「 『デジタル小作人』収奪される日本 」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・マイナンバーをスマホに…ほとんど議論されずに法案成立
・欧州はアップルとグーグルの独占回避に奮闘
・日本の「デジタル植民地化」の実態
・国民の個人情報を外国企業が管理する現実
・「米CLOUD法」と「行政協定」とは?
◆《緊急特集》崩れゆく国のかたち
・尹錫悦大統領の自爆で日韓どうなる(黒田勝弘)
・混迷するドイツ、リベラル派の罪(斎藤幸平×マライ・メントライン)
・イスラエルは神を信じていない(E・トッド)
・SNS選挙は民主主義なのか(浜崎洋介×與那覇潤)
・ 「デジタル小作人」収奪される日本(若江雅子) <<この記事
(若江 雅子/文藝春秋 2025年2月号)
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