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京急線“ナゾの北陸っぽい駅”「金沢八景」には何がある?

文春オンライン / 2025年1月27日 6時0分

京急線“ナゾの北陸っぽい駅”「金沢八景」には何がある?

京急線“ナゾの北陸っぽい駅”「金沢八景」には何がある?

 金沢といえば、言うまでもなく日本を代表する観光都市だ。北陸新幹線に乗ったら東京から2時間半足らず。だから、気軽に行けるといえば、まあその通りだ。

 しかし、だからといって今週末にでも金沢に行こうかな、というほどにはことは簡単ではない。昨今ではインバウンドやら何やらで新幹線はとにかく混んでいるし、もうすぐ例の春節というヤツもやってくる。きっと、金沢のホテルもお高くなっていることでしょう……。だから、おいそれと気軽な気持ちで遊びに行くには、ちとハードルが高いのだ。

 では、どこか代わりになるところはありませんか……と、つらつら地図を眺めていたら、首都圏にも「金沢」があった。

京急線“ナゾの北陸っぽい駅”「金沢八景」には何がある?

 横浜市南部は金沢区。京急線にも金沢文庫・金沢八景という駅がある。調べてみると、どちらもすべての電車が停まる主要駅の中の主要駅。特に金沢八景駅などは、逗子方面に分かれる支線の逗子線の分岐駅にもなっている。

 それに、「八景」というからにはきっと見目麗しい景勝地に違いない。そういうわけで、横浜駅から京急線の快特に乗ったらおおよそ20分。京急線の要衝のターミナル・金沢八景駅にやってきたのである。

 横浜駅と金沢八景駅の間、快特は上大岡駅とお隣で車庫のある金沢文庫駅にしか停まらない。そして、金沢八景駅のひとつ先の追浜駅はもう横須賀市。だからこの駅は、横浜市にあっては南の端っこの駅ということになる。

 そんな金沢八景駅は、背後の西側に権現山という小さな山を抱え、東側に町が広がる立地にある。ホームは2面4線、橋上に改札を持つ。改札を抜けて東側に出ると、そのまま駅前広場を覆うペデストリアンデッキ。そこからシーサイドラインという新交通システムの駅にも繋がっている。

「シーサイドライン」誕生直後に生まれたあの場所

 シーサイドラインは、JR根岸線の新杉田駅と金沢八景駅の間を文字通り海沿いを走って結んでいる。沿線には三井アウトレットパークに八景島シーパラダイス、また埋立地にできた工業団地などがある。

 金沢区沖合の埋立地に工業団地を開発するにあたり、その通勤路線として建設されたのがシーサイドラインだ。

 1989年に開業し、その4年後の1993年に八景島シーパラダイスがオープンしている。ちなみに八景島シーパラダイス、京急沿線にあるから京急系列の施設だと思っていたが、調べてみたら西武グループだった。

 それはともかく、金沢八景駅は金沢区の中核的な位置づけのターミナルであり、同時にシーパラダイスや工業団地へのアクセスの拠点という役割も持つ、ということになる。

まずは駅前の様子を見てみる

 駅の周りは商業ゾーンといって差しつかえなかろう。ペデストリアンデッキを囲むように商業ビルが並び、ひととおりのチェーン店なら揃っている。

 駅前広場の向こうには国道16号、横須賀街道が南北に通り、その少し北にはイオンも見える。駅の周りは人通りも絶えず、かといって歩くに難儀するほどのこともなく、都会的でありながらものどかさも垣間見える。そういう駅前である。

 加えて、横須賀街道の北には瀬戸神社という立派なお社が鳥居を構えている。その向かいには、古い料亭の跡と思しき建物が残り、さらにその東側はもう海だ。

 平潟湾という、ほとんど四方を陸に囲われた内海で、料亭跡の脇からは海に浮かぶ小島に続く小径。小島には琵琶島神社という小さなお社が鎮座する。こうしたあたりを見るにつけ、やはり金沢八景はその名の通り、景勝の地なのだろう。

海の近くを歩いていくと…

 海の周りを少し歩く。南側は海沿いが公園のように整備されていて、その真上をシーサイドラインの高架が走る。

 海の上にはたくさんの船が浮かんでいて、南東の奥には野島公園、さらに先には日産の追浜工場なども見える。このあたりの光景は、まさしく“シーサイド”。シーサイドラインは平潟湾の真ん中あたりを横切って北東へと進んでゆく。

 対岸の北側には釣り船屋が軒を連ね、平日の昼過ぎというのに沖から戻ってきた釣り人たちの姿も目立つ。

 さらにだいぶ距離は離れているけれど、まっすぐ北に進んで金沢文庫駅の近くには称名寺。鎌倉幕府を牛耳った北条氏の一族で、金沢区一帯を治めた金沢北条氏の菩提寺なのだという。春の桜に秋の紅葉と、四季折々の楽しみがある名刹なのだとか。

 このように、駅前は商業ゾーンの趣が強く、その先には海が出迎えてそれを囲むような景勝地。それでいて、少し脇道に入ってゆくと、一戸建ての住宅が並ぶ新興住宅地のようなエリアがあったり、巨大なマンションが並ぶエリアがあったり。まるですべてが揃っているような、そういう町が金沢八景なのだ。

「北陸っぽい名前」がナゼついた?

 金沢八景という呼び名は、江戸時代に生まれたという。

 もともと北条氏の所領だった鎌倉時代から景勝地として名高かったといい、金沢北条氏の北条実時がさまざまな文書を集めた金沢文庫を築いている。鎌倉幕府滅亡とともに衰退したが、現在は復興して博物館になった。

 ともあれ、そうした時代から海に臨む景勝の町、金沢。江戸時代、元禄年間に明の僧・心越禅師がこの地を訪れて、その景勝ぶりを中国の瀟湘八景になぞらえて八編の漢詩を詠んだ。これが、「金沢八景」のはじまりだ。

 江戸時代後期には歌川広重が「武州金沢八景」を描いてこれまた話題を呼び、文人墨客から江戸の庶民までもが足を運ぶ行楽地になっていった。その頃の江戸の町人たちの間では、大山・江ノ島・鎌倉とともに金沢を訪れる周遊ルートが人気だったという。

 なお、金沢八景駅の西側には、六浦藩という藩の陣屋が置かれていた。陣屋の敷地は現在の駅構内にまで及んでいる。ただ、六浦藩は1万2000石の小藩に過ぎず、城下町・武家町として規模を大きくするようなことはなかったようだ。

「都市化の遅れた東京近郊の景勝地」がグッと都会になったワケ

 近代以降も東京近郊の景勝地という性質は変わらない。というより、まだ現在の京急線が通る以前は交通の便が良いとは言いがたく、都市化が遅れた分だけ景勝地としての側面が強まったといってもいいかもしれない。1887年には伊藤博文らが金沢で帝国憲法の起草にいそしんでいる。

 金沢八景の都市化のはじまりは、やはり鉄道だ。昭和に入って1930年に湘南電気鉄道によって金沢八景駅が開業する。

 湘南電気鉄道は黄金町~浦賀間を開業させた会社で、翌1931年には日ノ出町~黄金町間が開業して京浜電気鉄道と接続、現在の京急線の形ができあがった。これによって、金沢八景は横浜、ひいては東京から電車で一本という町に変わったのである。

 それまで金沢町・六浦荘村だった一帯は1936年に横浜市に編入。海に近いというメリットがあったからか、1941年には海軍航空技術廠支廠もできている。さらに戦後横浜市の人口が急増するにつれ、一帯の開発はますます進んで横浜という大都市の中に組み込まれていった。

 こうして金沢八景駅の周辺は、景勝地としての面影をも残しつつ、同時に370万都市・横浜の一端らしいエネルギーに満ちた町に成長してきたのだ。

駅裏の山から町を見下ろすと…

 金沢八景駅の裏手の権現山。その麓から北に進むと、線路沿いに横浜市立大学のキャンパスがある。他に周辺には関東学院大学もあるから、学生街の趣も持っているのだろう。

 横浜市立大学の北側にあるのは、総合車両製作所横浜事業所。こちらは海軍の技術廠の跡地で1946年から操業している鉄道車両工場だ(経営は東急興業→東急車輌製造→総合車両製作所と変わっている)。車両工場の隣は、京急の車両基地である。

 ちなみに、京急のレールの幅は新幹線と同じ1435ミリ。一方で、総合車両製作所が製造しているJRの在来線などで使われる車両は1067ミリだ。だから、そのままではせっかく製造した車両を京急の線路を介して運ぶことができない。

 そこで、工場の目の前から京急逗子線を介してJR横須賀線逗子駅手前までは、レールを2本ではなく3本敷いて、車両のレールの幅に関わりなく走れるようにしている。いわゆる三線軌条というもので、金沢八景駅でもいちばん西側のホームから見ることができる。

 余談はさておき、鉄道車両の工場があって、大学のキャンパスがあって。海に臨んだ景勝地にはじまった金沢八景は、駅の開業とともに都市に飲まれて工業地・学生街・住宅地・商業地と、あらゆる顔を持つ町に変わってきたのである。これこそ、横浜という都市の発展そのものといっていいかもしれない。

 そうした中で、いまでも景勝地の一面を忘れていないのはたいしたものだ。2008年には、金沢区制60周年を記念して「新金沢八景」が選定されている。だいぶ景色は変わっても、江戸の昔とはまったく変わった景色もあれば、変わらないものもある。この町は、歴史の中でもバランスが取れているのだ。

 あらゆる面でバランスの取れていて、交通の便はいうことなしの大都市の端っこの町。金沢八景は、もしかしたら大都市近郊にあっては理想郷のような町なのかもしれない。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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