大学教員が授業中に「赤ちゃんにはミルクではなく母乳を」と驚きの指導…保育士を目指す“伝説の事件記者”（63）が、短大で戸惑いを感じたワケ

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〈 「赤ちゃんに鬼畜の所業を行い、その様子を撮影して売った親もいた」相次ぐ子どもへの性暴力に、保育士を目指す“伝説の事件記者”（63）が抱く“怒り” 〉から続く

　朝日新聞の事件記者だった緒方健二さん。地下鉄サリン事件をはじめ、数多くの殺人事件や暴力団抗争、凶悪事件を取材し、「伝説の事件記者」と呼ばれていた。

　そんな緒方さんは2021年に朝日新聞を退社。2022年に63歳で短大の保育学科に入学し、保育士資格、幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得した。

　なぜ彼は、セカンドキャリアに「保育の道」を選んだのか。20歳以上年下の同級生たちと、短大で何を学び、どのようなキャンパスライフを送っていたのか。ここでは、緒方さんの著書『 事件記者、保育士になる 』（CCCメディアハウス）より一部を抜粋して紹介する。（全3回の2回目／ 3回目 に続く）

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学園祭が終われば勉強一直線

　大学祭を終えると、授業に全力を注ぐ日々が再び始まりました。

「ピアノコンサート」における当方の歌唱場面を同級生や教員が動画撮影してくださっていました。かたじけない。データをいただき、勇を鼓（こ）して2回だけ見ました。画面に向かい「この厚顔無恥野郎め」と毒づくほかありませんでした。

「命、長ければ辱（はじ）多し」

　兼好法師さんも「徒然草」でおっしゃっています。恥じて悔いても詮無（せんな）きこと、大学祭のことは忘れ、さあ脇目も振らずに勉強一直線でい。

　授業は「シラバス」に沿って進められます。科目を担当する教員が作って、あらかじめ学生に公表しています。

　授業の概要や単位数、到達目標、前期・後期各15回の回ごとの授業計画、成績評価の方法、教科書・参考文献が書かれています。文部科学省が「大学設置基準・成績評価基準等の明示等」に基づいて作成を求めているようです。

　当方が大学生だった40数年前はなかったように思います。

教える技量に疑問を抱かざるを得ない方に遭遇

　事前に読み込み、勉強のポイントをつかんでおけば教わる内容がさくさくと理解できそうです。未知の分野に迷い込んで右往左往の当方にとって実にありがたい。

　当方はこれを読んで履修登録をし、授業に臨みました。シラバスは教員と学生が交わす契約書のようなものでしょう。

　ところが教員の中にはシラバスとは異なる進め方をなさる方がいます。ご自身の価値観を押し付けたり、常識を疑うような振る舞いをなさったりする方もいて戸惑いました。失礼ながら教える技量に疑問を抱かざるを得ない方に遭遇した日にゃ頭を抱えました。

　もちろん教員のみなさまは人格、識見ともに優れた方ばかり、のはずです。でも本業である授業をめぐって学生に「内容が理解できない」と言わせてはなりませぬ。決して安くない授業料に見合う授業をしていただかなくては、学生との「契約」を違えることにもなりかねません。

教員が「赤ちゃんにはミルクではなく母乳を」と…

　必修科目を担当するある教員とは、僭越ながら頻繁に議論しました。

　幼児教育の基本と細目を定めた文部科学省の『幼稚園教育要領』に依拠して毎回お話をなさいます。熱意は十分に伝わってまいります。敬意を表します。

　ただ話があちらこちらに飛んで、本日の主題がわかりません。シラバスの中身とも違います。

　合間に学生を指差して「はい、あなたこれはどういうことですか」と質問なさる。答えられない。当然です。ずっと聞いていた当方も何を問うているのかわかりません。複数の学生が縋るような視線を当方に投げて寄越します。

　合点承知、しばし待たれよ。

　赤ちゃんには「ミルクではなく母乳を」とか「紙おむつではなく布おむつを」という趣旨の発言も気になりました。母子の体調や生活環境に応じて考えればよろしいのではありませんか。

　これから親になるかもしれない若い衆の選択の幅を狭めてはいけない。おっしゃるなら詳しい根拠と最新の研究データをお示しの上でどうぞ。

価値観の押し付けにはNOを

　潮時です。

　挙手をして発言の許可を得ます。学生としての分をわきまえ、冷静に、礼を失しぬよう言葉を選んで申し上げます。

「ご自身の価値観は尊重も、押し付けと解釈されかねないご発言の再考を」

「冒頭で本日講義の柱を明確に示されたし」

「人を指差す行為はお控えあれ。某国ならその場で撃ち殺されるおそれがありますぞ」

　教員の研究室でも膝を突き合わせて話したことはいちどではありません。改善を約束してくださった事柄もあります。豊富な教育経験をお持ちです。

　お願いします。理解できないことの責任を学生にだけ帰すのはおやめくださいね。

〈 原爆の絵本は「残酷だから」教材として不適切…？ 63歳で保育士を目指した“伝説の事件記者”が、短大の試験で覚えた“違和感” 〉へ続く

（緒方 健二／Webオリジナル（外部転載））