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原爆の絵本は「残酷だから」教材として不適切…? 63歳で保育士を目指した“伝説の事件記者”が、短大の試験で覚えた“違和感”

文春オンライン / 2025年1月30日 6時0分

原爆の絵本は「残酷だから」教材として不適切…? 63歳で保育士を目指した“伝説の事件記者”が、短大の試験で覚えた“違和感”

写真はイメージです ©milatas/イメージマート

〈 大学教員が授業中に「赤ちゃんにはミルクではなく母乳を」と驚きの指導…保育士を目指す“伝説の事件記者”(63)が、短大で戸惑いを感じたワケ 〉から続く

 朝日新聞の事件記者だった緒方健二さん。地下鉄サリン事件をはじめ、数多くの殺人事件や暴力団抗争、凶悪事件を取材し、「伝説の事件記者」と呼ばれていた。

 そんな緒方さんは2021年に朝日新聞を退社。2022年に63歳で短大の保育学科に入学し、保育士資格、幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得した。

 なぜ彼は、セカンドキャリアに「保育の道」を選んだのか。20歳以上年下の同級生たちと、短大で何を学び、どのようなキャンパスライフを送っていたのか。ここでは、緒方さんの著書『 事件記者、保育士になる 』(CCCメディアハウス)より一部を抜粋して紹介する。(全3回の3回目/ 1回目 から読む)

◆◆◆

採点への不服申し立て

 別の教員とは試験の採点をめぐり、じっくりと話し合いました。

 この教員の担当科目で「良」評価を受けました。すでにピアノ実技で不合格のち最低合格「可」を食らっています。野獣諸法度「全科目最高評価」の野望は潰えていました。

 とはいえ、これ以上の躓(つまず)きはもう許されません。試験問題を思い出し、自己採点しました。

「学内歌の歌詞を書け」との問題にはのけ反り、適当に回答したため減点はやむを得ません。他の問題はそこまで不出来だったわけではない。ぎりぎりで最高評価の「秀」、悪くて次の「優」、その下の「良」はないだろうと確信しました。

 疑問はすぐにでも解決しなければなりません。新聞記者の仕事でも保育の仕事でもそれは同じです。

 学科長経由で担当教員と面談しました。減点の詳細を聞いて愕然としました。複数の空欄を用語で埋める問題で、回答した用語は正しいが「その順序が異なる」として0点に。

原爆を題材にした絵本は「残酷だから」減点

 平和を子どもに伝える際に用いる教材を問われ、当方は原爆を題材にした絵本を挙げました。0点でも納得しませんが、減点されていました。「残酷だから」と理由を説明なさる教員に「お読みになったことがありますか」と聞くと、「いいえ」とおっしゃる。

 怒りよりも情けなさが込み上げました。

 ほかの教員も交えた会議で評価の見直しが決まり、「優」に落ち着きました。

 同様の物差しで全学生の回答を評価しているはずです。それによって不合格となり、数千円の追試料を払って再試験を受ける羽目に陥るケースもある。

 多くの学生は、コンビニエンスストアや飲食店などでアルバイトをして保護者の経済的負担を減じようと頑張っています。余計な負担を強いてはなりませぬ。

 すべての学生の評価を見直すよう求め、実行していただきました。後日、くだんの絵本を買ってこの教員に進呈しました。

 お読みくださいましたか。折があれば感想をお聞かせいただきたく存じます。考え方が異なるのは当然です。時間をかけて話し合うことができました。感謝申し上げます。

 短大当局には、それまでなかった評価への不服申し立て制度を作るよう求めました。すべては学生のために。

1人ひとりが自分らしく生きる

 保育や幼児教育の現場では、1人ひとり異なる特性や個性を持つ子どもの多様性を理解し、それぞれに応じた関わり方が求められています。

 偏見や狭い価値観に別れを告げなければなりません。

 ある教員は、座学ではなくトランスジェンダーの知人を短大に呼ぶことでこれを伝えようとなさいました。素晴らしい。

 男性の身体で生まれたけれども、自身の性別は女性であると認識している人です。短大へは、長い金髪にブレザーとスカート姿でおいでになりました。かっこいい。並んで写真を撮っていただきました。

 当方より1歳若く、56歳のときにカミングアウトしました。音楽関係のお仕事をしながらLGBTQ(性的少数者)への理解を求める活動をなさっています。

 人ひとりが自分らしく生きることのできる社会に、との講演に感銘を受けました。

 トラスジェンダーが戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失わせる手術が必要とする「性同一性障害特例法」の要件があります。最高裁は2023年10月にこの要件を「違憲で無効」と判断しました。これについてのお考えも聞くことができました。

「とにかく現場へ、そして当事者から話を聞け」

 記者時代の鉄則です。

 教員が苦労して用意してくださった稀有な学びの現場です。ありがたく活用させていただきました。

(緒方 健二/Webオリジナル(外部転載))

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