「撮影に入ると必ず本気で恋をするの」失楽園では激しく愛し合う不倫カップルを熱演…亡くなって10年、それでも「女優・川島なお美(享年54)の存在」が色あせないワケ
文春オンライン / 2025年1月25日 11時0分
亡くなってはや10年…それでも今も川島なお美さんの存在が色あせないワケとは? ©文藝春秋
〈 「だって私、女優だもの」余命1年、5リットルの腹水が溜まった状態でも舞台へ…命尽きるまで女優であり続けた川島なお美(享年54)の“美しき生き様” 〉から続く
「女優は一生をかけてやる仕事。命ある限り表現していきたい」――2015年、がんでこの世を去った女優・川島なお美さん(享年54)。ドラマ『失楽園』ではハードなスケジュールによる睡眠不足をワインで乗り越えたことも…。女優として常に輝き続けた「彼女が大切にしていたこと」とは? 新刊『 スターの臨終 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)
◆◆◆
「私は撮影に入ると必ず本気で恋をするの」
愛知県名古屋市出身の川島は、青山学院大学在学中に歌手としてデビューし、ラジオ番組でDJも務めた。「女子大生ブーム」の先駆け的な存在であり、レギュラーを務めたバラエティ番組「お笑いマンガ道場」(日本テレビ系・中京テレビ制作)で人気を集めた。
この番組では出演者がイラストや似顔絵を描くのが常だったが、川島の場合は描くのが速く線に迷いがなかったそうである。「独特の感性に驚いた」と当時のプロデューサーは振り返っている。
だが、芸能生活を始めた頃はお金がなくて苦労した。月給から家賃を差し引くと、小遣いとして残ったのは約3万5000円。服を買うのもやっとの思いだった。
普段の生活では、いつもジーンズをはいていた。夕食はハンバーガー1個というのも珍しくなかった。一人旅が好きで、30歳の誕生日はトルコのイスタンブールで迎えたという。日本にいると何かと拘束され、周囲の目も気にせざるをえなかったが、海外だと一人きりの時間を存分に楽しめたそうである。
1997年には渡辺淳一(1933-2014)原作のドラマ「失楽園」(日本テレビ系・読売テレビ制作)で、不倫の末に心中する女性を見事に演じた。与えられた役柄にやみくもに挑んでいるのではなく、相当の努力をした上で覚悟と自負に裏打ちされた「信念」というものがあったに違いない。「失楽園」を演出した映画監督の花堂純次は、あの激しいラブシーンの場面をこう振り返った。
「『私は撮影に入ると必ず本気で恋をするの』と言っていましたね。睡眠時間を削るくらいハードな撮影でしたが、『ワインを飲んで自分をもたせている』とほほえんでいました」(「週刊朝日」2015年10月9日号)
「女優は一生をかけてやる仕事」
美しいだけの女優ではなかった。美しさの中に「精神の糸」のようなものがピンと張り詰めていたと言ってもいいだろう。
「女優は一生をかけてやる仕事。命ある限り表現していきたい」
取材に対し、川島は真剣な眼差しでこう応じていたが、女優としての目標は自分自身を超えることだったのだろう。穏やかな風景が続く一本道ではなく、曲がりくねった道のような芸能生活。山あり、また山あり。山を越えたら次の山が待ち構えており、その山に登って、さらなる景色を見る。「別の景色が見えたらチャンスありと思ってきた」と川島は語っていた。
さて、ここからは私の個人的な見解だが、川島にはどんな色が似合ったか考えてみたい。生命の色である赤やバラ色はたしかに似合う。大地を彩る黄や緑もシックな感じがして似合う。だが私は、青色こそ川島にとって最も似合う色だと唱えたい。
青は大空を彩るように気高い。そして時には、人間を激しく拒む。画家のパブロ・ピカソ(1881-1973)も孤独で不安な青春期を青色で表現したが、暗く沈んだ色調の青こそ女優・川島なお美にふさわしい。晴れ渡った春の青空を見上げつつ、彼女に思いをはせる。
(小泉 信一/Webオリジナル(外部転載))
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