〈月間ユーザー3.8億越え〉超人気メタバース『Roblox』が子供には「天国」でも親には「地獄」なワケ
文春オンライン / 2025年1月30日 7時0分
世界で大人気のメタバース『Roblox』。「ゲーム版YouTube」とも言われるそうで、その中身はなかなかカオスだ。画像は『Roblox』公式サイトより
筆者の子供がゲームを遊ぶようになり、そのうち『Roblox』に興味を持つようになっていた。
『Roblox』は月間アクティブユーザー数が3億8000万人を超える超人気のオンラインプラットフォーム。ユーザーがゲームを作成、共有し、また、他ユーザーが作成したゲームをプレイできるシステムだ。日本でも徐々に知名度が上がっており、メタバース(仮想空間)としてよく知られているだろう。
『ドラえもん』や『ワンピース』、ヒカキンも参戦するメタバース
北米・欧州・ブラジル・フィリピンなどで人気があり、日本でも各企業が参入をはじめている。アーティストのライブイベントが開催されたり、『ドラえもん』や『ワンピース』といったタイトルが公式に作品を提供。人気YouTuberのヒカキンもオフィシャルのワールドを持っているほどだ。
『Roblox』はゲーム制作の入口にもなっているし、インターネットへ慣れたりメディアリテラシーを高めるきっかけにもなりうる……という部分は確かにあり、これが『Roblox』の長所ではある。
ただ、実際に子供と一緒に『Roblox』を遊ぶと親のほうが本当に疲弊するのである。あまりにもしんどいのでその愚痴をこぼしたところ、周囲のパパ・ママから共感の声が寄せられた。
なぜ、『Roblox』は子供には「天国」なのに、親には「地獄」といえるのか?
子供たちのメタバースの“無法っぷり”
改めて『Roblox』について説明しよう。前述のように本作はあくまでプラットフォームであり、ユーザーや企業がバーチャル空間やアバターアイテムといったコンテンツを制作・配布・販売する場所である。
それらコンテンツはゲームのような形式をしているが、あくまで「エクスペリエンス」と呼ばれる。つまりおもしろいゲームを遊ぶというよりも、そこにいる人たちでコミュニケーションを取る行為が重視されているわけだ(もちろんひとり用の遊びも存在する)。
『Roblox』は基本プレイ無料であり、PC、スマホ・タブレット、家庭用ゲーム機で遊べるので非常に参加しやすいのもポイント。デイリーアクティブユーザー数は8890万人を記録しており、世界中の人とコミュニケーションが楽しめる。
13歳未満のユーザーが多く、全般的に低年齢層が多いのも特徴のひとつだ。ただし、『Roblox』自体は2006年からサービスが続いていることもあって、13歳以上のユーザーも増えているとのこと。
いわば「子供たちのメタバース」であり、親は保護者としてそこについて行くケースが多いと思われる。そして、その“無法っぷり”に疲れてしまうのだ。
どちらを向いてもパクリが目立ち…
『Roblox』の人気ゲームランキングを見てみると、2025年1月時点ではドラマ『イカゲーム』を模倣したものが数多く存在する。それらはあくまでファンゲームであり、公式のものではないようだ。
そして、アニメキャラクターを無許諾で使っているであろう作品もしばしばあるし、アバターにもあやしいものが多い。というか、十中八九アウトだろうと思えるものをよく見る。
筆者が『Roblox』をはじめてすぐ、「ちいかわ」のアバターアイテムが有料販売されているのを見つけた。思わず欲しくなったのだが、アバター名称の表記がちょっとおかしいし、そもそもオフィシャルでこういったものが出たと宣伝された形跡はない。
つまるところ、『Roblox』は右を見ても左を見てもパクリが目立つのである。はっきりいって、これには「親としては」お金を払いたくない。公式は 2024年9月に知的財産権を侵害しているコンテンツを除外する と発表しているが、偽ちいかわは記事執筆時点でまだ生き残っており、せっせと働いて制作者と『Roblox』運営にお金を送っているのだ。
はっきりいってモラルを期待できない
そして、肝心のエクスペリエンスもなんだか妙に似たようなものが多い。
たとえば、『Roblox』の定番エクスペリエンスのひとつに「太った刑務官から逃げて脱獄する」ものがあるのだが、これを1回遊ぶとキャラクターを差し替えただけのものが無限におすすめされるようになる。
差し替えたキャラクターも明らかに問題があるケースが多く、元の脱獄ゲームを改善することもなく、むしろ有料アイテム販売箇所を詰め込みまくって改悪している始末だ。
はっきりいってモラルを期待できないのである。
『Roblox』でエクスペリエンスを制作する大手スタジオは、「体験ごとに用意された、特別かつ複雑な操作方法を学ぶ時間や忍耐を期待しないほうがよい」とまで明言している。つまり、ユーザーは学習しないし忍耐もないので、どこかで見たようなものがよいとされると認めているわけだ。もちろん『Roblox』内でもイノベーションは起こるのだが、似たようなエクスペリエンスが山ほどあるのも事実である。
このように『Roblox』では模倣ばかりの状況が広がっている。まだゲーム経験の少ない子供ならそれらを楽しめるかもしれないが、「親としては」すぐに慣れて飽きてしまう。
また、マイクロトランザクション、つまり少額の課金アイテムが無数にあるのも悩みの種だ。しばらくプレイしていると一定の間隔で有料アイテムを勧めてくるケースや、失敗するたびにアイテムの購入を促すケースもある。
なかにはプレイ中の全員を殺す核爆弾が有料販売されていたりと、「親としては」好ましくない課金要素が目立つ。
そして、単純に作る人が多いので不快になるエクスペリエンスと出会うことも少なくない。エクスペリエンスを終了しようとすると大音量で警告音が鳴ったり、場合によってはそもそもエクスペリエンスから退出させないような仕組みが用意されていたりする。
制作者側としてはエクスペリエンスに長く滞在させるメリットがあるようで、方法を問わないこともあるわけだ。そして、モラルに差はあれど、どのエクスペリエンスもプレイヤーを拘束しようとする。
「小銭を乞う」子供たち
筆者はまだ『Roblox』経験が浅いものの、それでも衝撃的だったエピソードがふたつある。ひとつは、本物より偽物のほうが盛り上がっているケースだ。
『Roblox』には『ドラえもん のび太のゴーゴーライド!』というエクスペリエンスがあり、これは公式のものである。しかし、明らかな偽物である『エスケープドラえもんオビー』のほうが累計訪問者数もアクティブ数も多い。
『ドラえもん のび太のゴーゴーライド!』は『Roblox』の文脈をあまり理解していないようで、カートレースゲームというそこまで流行っていないと思われるジャンルを選択しているうえ、チュートリアルを丁寧に作ってしまっている(むしろ丁寧な説明はないほうがよい土壌なのである)。
そして、偽物である『エスケープドラえもんオビー』は、『Roblox』の定番ジャンルであるObby(障害物競走の略、いわゆるアクションゲームに該当する)を採用。エクスペリエンス内の仕掛けもベタなものを採用しており、場に沿った作りになっている。
驚いたエピソードのふたつめは、海外の掲示板で「こじきシミュレーター」と揶揄されていたエクスペリエンス『PLZ DONATE』があったことだ。
『PLS DONATE』は、端的にいえばほかのユーザーに有料通貨「ロバックス」を乞うエクスペリエンスである。リリースは2022年だが、2025年1月現在も人気を誇っておりランキング上位に位置している。余談になるが、ロバックスは現金に換えることも可能だ(換金は一定額以上で身分証明などの条件もある)。
「寄付しないとあなたは不幸になります」
内容はシンプル。看板を立てて、ほかのユーザーからロバックスが寄付されるのを待つだけである。「毎年クリスマスプレゼントがもらえていないので寄付してください!」だとか「寄付しないとあなたは不幸になります」だとか「ガンになったのであなたのロバックスで助けてください」などと書かれた看板が並んでいるのだ。
もちろん何もせず寄付してくれる奇特な人はそういないので、ユーザー同士でうまくコミュニケーションをとって寄付をもらい受けるようだ。やたらと回転する芸を見せたり、寄付のお礼に絵を描くユーザーもいた。
「親としては」、自分の子供がこういったものに若くて貴重な時間を溶かすのであれば、ロバックスを買ってあげるから今すぐその乞う行為をやめろと言いたくなってしまう。
何より、そうした場で行うコミュニケーションにも不安がある。ひどいものでは『Roblox』を通じて違法オンラインカジノに誘われるケースもあったようだ。これに関しては対策が講じられているようだし、もちろん『Roblox』にはペアレンタルコントロールや年齢制限、チャットをオフにするオプションもある。あるにはあるが、『Roblox』で交流を楽しむ以上、リスクがつきものになるのは確かだろう。あるいはYouTuberを利用して詐欺に誘うケースもあったりと、常に油断ならない。
なぜ親が疲弊するのか、わかってもらえただろうか。子供と一緒に『Roblox』を遊ぶと、雑多すぎるエクスペリエンスやアバターコンテンツにめまいがし、押し寄せる課金要素をキャンセルするのにため息が出て、子供を監視しなければならず気疲れするのである。
もちろん『Roblox』によい面はある。よいコミュニティに入れれば世界中の人々とつながることもできるだろう。
よいエクスペリエンスもある。日本でも流行した『ひみつのおるすばん』はかわいくて少し刺激的ながら常識ある作品に仕上がっている。著作権を侵害していないオリジナルのエクスペリエンスはほかにもいくつもある。
『Roblox』はゲームを作るきっかけにもなりうるし、各種リテラシーを育むことにも繋がるうえ、単純に多くの作品を見て知識を得られるだろう。「くだらないエクスペリエンスに課金して金をドブに捨てるのは損でしかない」と学べるかもしれない。
そもそも、ここまでの文章で「親としては」という言葉を意図的に使ったが、親から見て嫌なことは子供にとっては喜べるものだといえる。
お金を乞うエクスペリエンスも、親にロバックスを買ってもらえない子供としては一筋の希望だろう。人気ゲームをパクったエクスペリエンスも、子供が無料でそれを体験する機会になりうる。
著作権侵害、詐欺、アカウントハック、いじめ、なりすまし…
『Roblox』は「子供が自分の好きなキャラクターを集めて描いた自由帳」のような代物といえる。幼い子供は何かを真似しながら学ぶため、自由帳には当然ながら見知ったキャラクターたちが集まるし、イマジネーションされたものも既知のものになりやすい。そして、『Roblox』を通じてそれがインターネット上に出てしまうだけともいえよう。
あるパパ友達は『Roblox』を「ビックリマンチョコの偽物」とたとえていた。
ビックリマンチョコは1980年代に流行したシールつきのチョコレート菓子。あまりの人気ぶりにお菓子を捨ててシールを集める子供が出たほか、コピー品や偽物もたくさん出回ったようだ。
この偽物は大人からすれば好ましくないものだし、ビックリマンチョコを販売しているロッテからすれば最悪の代物だろう。ただ偽物だったとしても、子供たちがそれを通じて得たコミュニケーションや楽しさは本物なのである。
むしろ、常識から外れられない公式のものよりも、ぶっ飛んだ偽物のほうがおもしろいと解釈される可能性すらある。そう考えると、『Roblox』が支持されるのもわかるような気がするのだ。
そもそも、『Roblox』における問題はインターネットの縮図なのではないか。この世界には著作権侵害、詐欺、アカウントハック、いじめ、なりすましなどたくさんの問題があるものの、それはよくよく考えればインターネットにもあふれすぎているものだ。
SNSを覗けば売春や闇バイトへの誘いがあり、ふつうにインターネットを見ているだけでも詐欺広告が出ることすらある。誰かと誰かのトラブルなんてもう聞き飽きてどうでもいい。『Roblox』は「子供が多いメタバースなのに治安が悪い」と認識しそうになるが、そもそもインターネット自体に問題が山積しているのである。
ただ、それはそれとして、『Roblox』が親にとって厄介な代物に見えるのは間違いない。たとえ地獄だとしても、子供に付き合ってうまくそれを使えるよう教えてあげなければならないのだ。
(渡邉 卓也)
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