「もう面倒臭い、大変、危ない」週刊誌の女子大生ヌード企画に参加、風俗店で働いていた女子大生の20年後の姿
文春オンライン / 2025年1月28日 17時0分
写真はイメージです ©AFLO
20年前、有名私立大学に通いながら東京・五反田の風俗嬢として働いていたミホ(仮名)。名門大学の女子大生ばかりを集めた週刊誌のヌード企画にも参加していた彼女は、“快楽主義者”であることを公言し、好奇心からその世界に入ったことを明かしていた。
そんな彼女は現在どこで何をしているのか。当時からルポライターとして彼女を取材していた小野一光氏が上梓した 『風俗嬢の事情』 (集英社文庫)より一部抜粋して、ミホの近況について紹介する。(全2回の1回目/ 続きを読む )
◆◆◆
「ビックリしましたけど嬉しいです!」
そんなミホに、20年ぶりに連絡を入れることにした─。
これまで一切、連絡を取っていない。就職をして忙しいだろうと思っていたし、新たな生活を邪魔してはいけないとの思いもあった、と思う。そうしてフェードアウトするように、記憶の枠外に押し出していた。
まあ、いまさら連絡を入れたとしても、8割がたは音信不通だろうなと予想しながら、当時の手帳に記していた、いまとは違う〇×〇で始まる携帯電話番号を、現在の090で始まるように変換し、通話ボタンを押す。
「はい、もしもし……」
2コールほどで女性が出た。まさか……。
「あの、突然のお電話すみません。××ミホさんの携帯でよろしいでしょうか?」
「はい。そうですが……」
一瞬だが、頭が真っ白になった。どうしようと慌てながら、必死で言葉を絞り出す。
「あの、すみません。以前、取材でお会いしたライターの小野一光と申します」
「え、あの、なんの取材でしょうか?」
電話の向こうの声色から、こちらがいったいなにを言っているのかわからない戸惑いが伝わってくる。
「あ、あの、その昔、風俗の取材で……」
「え? ああーっ、あのときの……?」
「そうです。そのライターの小野です」
「うわーっ、ご無沙汰してます」
それから私は、いまもライターを続けていること、当時取材した女性のその後を取材したいと考えていること、とりあえず結果はノーでも構わないので、説明のために一度会えないかということを話した。
「あ、まあ、いまは東京にいるんで、別に構わないですけど……」
ミホは突然の、しかも20年ぶりの電話にもかかわらず、その週の週末に会うことを承諾してくれた。それは、まったく予想もしていない展開だった。
その夜、週末の待ち合わせ場所について送った私からのショートメールに、ミホから返信があった。
〈〈ビックリしましたけど嬉しいです! お店了解しました。まだ行ったことがなくて気になっているお店でしたので、楽しみです〉〉
自分はなんて幸せ者なんだろう。心の底からそう思った。
敬語を使うようになっていたミホ
「お久しぶりでーす」
待ち合わせ場所の居酒屋。数日ぶりに会うような気軽さでミホは現れた。年齢なりに目尻に皺は刻まれているが、体型は変わらず、ショートヘアに化粧っ気のない素顔も昔のままだ。クリクリと動く大きな瞳も健在である。変わらないねえ。
まずは再会を喜び、近況を報告しあった。彼女は大学卒業後に勤めた会社にそのまま在籍していて、北海道や関西などに転勤後、いまは実家のある東京に戻ったものの、実家ではなく職場に近い町で一人暮らしをしているという。
「じつは、関西にいるときに結婚しようと思って、家を建てて住んでたんですけど、ちょっとそれが失敗して……」
さすがに大学時代とは違い、ミホは敬語を使うようになっていた。それがなかなかに新鮮だ。
「離婚したってこと?」
「いや、籍は入れなかったんですよ。一緒に住んで、向こうの両親に挨拶したりしてたんですけど……」
「いくつのとき?」
「29のときかな。向こうは××に勤める人でした。あははは」
彼女はCMのテーマソングに記憶がある食品メーカーの名を挙げた。
「まあちょっと、浮気もあったし、仕事ぶりもなんか怪しい感じがあったし」
同居期間は1年ほどだったそうだ。
「籍を入れてたら大変だったかもしれないけど、入れてなかったから、別れるのは楽っちゃあ楽でしたね。で、家も土地も私名義だったので、そのまま住み続けられたし……」
その家は、東京に転勤になったいまも所有しているとのこと。さすが大企業に勤めているだけのことはある。私は話題を変えるため、彼女について驚いたことを口にした。
すでに連絡がつかなくなっている子もいるなかで
「でもさあ、電話が変わってないのはびっくりしたよ」
「ふふっ、よく言われるんですけど、私、1回も電話番号変えたことないんですよ」
「だって、俺の手元に残ってた番号って、〇×〇で始まる番号だったからね」
「はははは……」
「まさか本当に連絡がつけられるとは思わなかったよ」
「ああー、いや、懐かしいなって」
それからしばらく飲食店をやっている彼女の実家の話をした。ご両親はいまも変わらず商売を続けているとのことで安心する。いま考えると、あの当時にそこまでよく話してくれたなと思うが、かなり私生活に踏み込んだ話をしていたのだ。
私は、ふだんもよく飲んでいるというミホのために、日本酒を注文した。片口から彼女の盃に酒を注ぎながら言う。
「それにしても、あの頃はまさか将来、40代のミホちゃんと飲むことがあるとは、想像もしなかったなあ」
「ははは、ですよね」
「20年後に再会するとは……」
「ははは、どっかで野垂れ死んでるんじゃないかな、ぐらいな。ははははは」
「だけどちゃんとした会社に勤めてたからさあ、そんなに心配はしてなかったよ」
「なんかあの頃で思い出すのは、ちょっと一緒に仕事した××大学のあの子……」
ミホが挙げたのは、彼女と一緒に週刊誌上で女子大生ヌードを披露した女の子だ。お嬢様大学に通う正統派美女だった彼女もまた、デリヘル嬢だった。私がフランスの雑誌から日本の女子大生風俗嬢の取材を申し込まれた際に、出演してもらったりしたが、大学卒業後の行方は知れず、すでに連絡がつかなくなっていることをミホに伝えた。
「そうなんですねー」
「まあ、過去を忘れたいのかもしれないしね」
「あ、それはそれでいいと思いますよ。人それぞれだし」
「これが本当の収入なんだよな、って」
会った日は連休初日の土曜日。この連休中は全部休みなのかと尋ねた私に、半分は仕事の予定が入っていると答えたミホは、感慨深げに声にする。
「いやーっ、サラリーマンですよ、ほんとに。自分にサラリーマンできるって思わなかったんですけどね、ふふふ。いまは絶対に最後まで勤め上げて、退職金もらってやるぞって思ってますね。私のときは、同期の女の子が五人いたんですけど、私以外は全員辞めましたから」
「まあねえ、それも人それぞれかも」
「そうですね。入社して3年目くらいまでは、給料やっすい(安い)なあ~って思ったりしてましたもん」
「そのときに、昔やってた仕事に戻ろうって気持ちは?」
「いやあ~、それはなかったよ。これが本当の収入なんだよな~っていう」
「(風俗の仕事は)大学3年のときに辞めたんだっけ?」
「いや、結局は最後の4年まで。へへへ……」
「五反田の店?」
「いや、その後に転々としてたことがあって……大塚? そこでやっぱり同じような隠れマンション(ヘルス)の仕事と、大学の最後のほうまで私、根岸(台東区)に住んでたんで、ちょっとだけ、3カ月だけ、吉原に行ったんです」
本番行為があるソープランドで
吉原といえば、とくに注釈を加えずとも、それだけで本番行為があるソープランドを指している。まったく知らないミホの過去についての情報に驚いた。
「働いてみました。でも、こーれは、体持たねえわ、って……ははは。で、就職活動を始めるときに、『すいません。就職活動あるんで』って……」
店に伝えた退店願いの部分は、青息吐息の口調で言う。
「それは4年生のとき?」
「いや、3年の2月とか3月ですね」
「そうなんだ。でも、稼げたっしょ?」
ソープランドでは、月に200万円くらいの収入を上げている女性もいることから、そういう話題に持っていった。
「いや、そうでもなかった。安い店だから。もう、あの世界はピンキリですよ」
「でも、なんでそっち(ソープランド)に行ってみようと思ったの?」
「いや、きょ、興味本位。あっは、ははははは……。たしかに興味本位。1回くらい行ってみよっか、みたいな。はははは……」
自分の若気の至りに対する、恥ずかしさも混じった照れ笑いだ。
「けっこう大変だった?」
「大変でした。あの、マットってあるじゃないですか……」
ミホは周囲を気にして小声で囁く。
「もう面倒臭い、大変、危ない、滑る~って感じなんですよ」
ソープランドではマット上に寝た男性客の上で、女性がローションを使用して体を密着させる、前戯ともいえるマットプレイがある。当然ながら、ローションを使用するため、かなり滑りやすい“危険な”状態になるのだ。
「同じ店に、ちょっと年かさのお姉さんがいたんですよ。で、『初めてなんです~』って言ったら、『頑張ってね~、大変だけど』って。それで歳を聞かれて、『22です』と言ったら、『あら、うちの娘と一緒だわ』なんて言われて、『ちょっと待って、お母さ~ん』って感じですよ。それを聞いて、これは私、この世界からは、早急に足を洗わんとならんな、と思いました。はははは」
〈 「過去を探られるとまずいと…」20年前に週刊誌の女子大生ヌード企画に参加した女性が40代になって明かす、唯一の後悔 〉へ続く
(小野 一光/Webオリジナル(外部転載))
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