「過去を探られるとまずいと…」20年前に週刊誌の女子大生ヌード企画に参加した女性が40代になって明かす、唯一の後悔
文春オンライン / 2025年1月28日 17時0分
写真はイメージです ©AFLO
〈 「もう面倒臭い、大変、危ない」週刊誌の女子大生ヌード企画に参加、風俗店で働いていた女子大生の20年後の姿 〉から続く
20年前、有名私立大学に通いながら東京・五反田の風俗嬢として働いていたミホ(仮名)。名門大学の女子大生ばかりを集めた、週刊誌上でのヌード企画にも参加していた彼女は、“快楽主義者”であることを公言し、好奇心からその世界に入ったことを明かしていた。
そんな彼女は現在どこで何をしているのか。当時からルポライターとして彼女を取材していた小野一光氏が上梓した 『風俗嬢の事情』 (集英社文庫)より一部抜粋して、ミホの近況について紹介する。(全2回の2回目/ 最初から読む )
◆◆◆
「後悔したことは?」「特にないです」
そこで私は気になったことを質問する。
「でも、基本的に(求めるのは)おカネではないの?」
「そん、なにではないですね、じつは……」
「興味というか、いろんな世界を見てみたいということ?」
「そこが大きかったと思う。まあ、一通り経験してみて、それを一生の仕事にするでもなく、体験入学みたいな」
「その後に、後悔したことってあった? やんなかったらよかったなあ、とか……」
「とくにないです」
私の言葉にかぶせるような即答だった。
「そりゃあ、バレたら大変でしょうけど」
「でも、バレてはないでしょ?」
「うん。バレたらワーッてなりますからぁ」
「当時は、バレることってけっこう怖かった?」
「それは気を遣いましたねえ。それに、ふつうの会社員だったらいいんですけど、公職とかは無理だと思いました」
「それは将来の仕事でってこと?」
「そうそう。政治家とか議員とか、そういうのはもう無理だわって」
「過去を探られるとまずい、と」
「ちょっと前に、ある公共的な団体で役員をやってたことがあって、そのときに、議員に立候補すればって言われたんですけど、無理って、即座に断りましたね」
「こういうSNSの時代とか、想定してなかったですから」
「そっかあ、大丈夫だと思うんだけど……あっ、そういえば裸の写真を撮られる仕事もやってたんだよね」
「そうそう。どこで出るかわからないし」
「そこはちょっと後悔ってことはない? 形に残るものをやってしまったっていう」
「そうですね。そこはある、かな。形に残る写真はマズかった、っていう……」
当時はなにも考えていなかったことが、自分の未来の可能性を狭める原因になってしまった、ということはわかる。ただまあ、それを学生時代に予見しろというのも、なかなかに酷な話ではある。そこで聞く。
「当時は全然考えてなかったんだよね?」
「そうですねえー、ははは。こういうSNSの時代とか、想定してなかったですから」
「まあ、もう、20年も前だから大丈夫だよ」
「ははは、そう思いたい……」
その昔、彼女の裸の写真を撮った方々は、過去の話として、そっとしておいてあげてください、と願う。私は話題を変えた。
自分で稼ぐ道はリスクがあってもいけない
「ところでさあ、これまでの40年の人生のなかで、性欲がいちばん強かったのって、いつ頃だった?」
「あーっ、35くらいかしら、ふふふふ」
「そのときは特定の彼氏がいて?」
「あ、そうですね」
「どうしてそのときがいちばん強いと?」
「うーんそれは1年間くらいで、短期間なんですよ。ホルモンの関係かなあ。いまのこの歳になったら、もうそんなに性欲はなくて、やるとしても、清潔な場所でやりたいな、とか、ははは。車内とか野外とかはもういいやって。あと、やる前は身ぎれいにしときたいとか……。だからいきなりとかは無理ですね、はははは……」
「自分のなかで高校とか大学とかその後も、いろいろ回ってきてみてさあ、なにか結論というか、教訓とかって生まれたりした?」
「結局あれですよ、なにかなあ、あの、自分の稼ぎで生きていく道を見つけなければならないってことですよ。それは安定してなければいけないし、リスクがあってもいけない」
「まあ、それが就職後の生活を続けさせたっていうかさあ……」
「そうです」
風俗経験により、自分のなかに安定志向が芽生えた
「それってさあ、風俗で働いて、周りの人を見たからっていうこと? さっきのお母さんみたいな歳の人とか……」
「それもあります。たしかに。あと、同じ店にいたんですよね。国立大学を出てて、で、その人の彼氏がぁ、『注射器持ってるのよ』なんてこと言ってて。ちょ、待て待て待て、それやめたほうがいいよ、みたいな。巻き込まれないうちにやめろ、みたいな。だから、どんなに頭が良くっても、高学歴でも、ちょっと踏み違えたら転落してしまうというのは、よく見ました」
「だからこそ、自分はちゃんと持ってないとダメだと思った、と」
「うん。それにこの仕事は、確実に危うい路線だと。で、年齢制限じゃないけど、稼げる上限年齢ってあるじゃないですか。どっかで病気をするかもしれないし、なにも社会保障を受けられない状況だということで、ここに、この仕事に人生を委ねるべきじゃないっていうのがあって……」
「つまり風俗経験により、自分のなかに安定志向が芽生えたってことだよね」
「そうですね。ほんと10代、20歳になるまでは、生きていければなんでもいいって思うわけですよ。それでもやっぱり、現実社会を垣間見た時期だったんですよね。これって、結局真面目に生きてたほうが、後々いいんではないかって結論になったんです」
もっともな意見である。だがそこで、置き去りにされている話を蒸し返すことにした。
「社会を知るきっかけになったことはわかるんだけど、風俗って肉体を酷使する仕事じゃない。いろんな男が自分の体を通り過ぎていくっていう嫌さはなかったの?」
「まあ、そんときはあんまり。仕事って割り切ってたから。仕事。給料。それだけ」
「つまり嫌悪感はなかったわけね?」
「たまにはあるんですよ。不潔な人が来たときとか。そういう生理的な面での嫌悪感はどうしてもあるんで。エーッ、みたいな」
本番への抵抗はなかった
「いま現在の性に対する考え方とか行動って、20代前半まで風俗の仕事をやってたことと、なにか関係してるってことはある?」
「いつも困るのは、こう……、ふふふっ、『どこで覚えてきたの?』って、えへへへ」
照れ笑いだ。つまりエッチの際のテクニックが、半端ではないということだろう。
「そんなんねえ、『この歳になったら、そらあしょうがないわよ』とかって言って誤魔化すんですけどね」
「やっぱ違うのかねえ?」
「なんなんですかねえ。控えめにしてるつもりなのに。あんまりそんなにねえ、技はさらさないようにしてるつもりなんですけど」
「そうだよねえ。(ソープランドでの)マットプレイをするわけでもないのにねえ」
「ははは、そうそう」
「あ、そういえばさっきソープの話が出たときに聞いてなかったんだけど、ソープといえば本番があるわけじゃん。それに関しては抵抗なかったの?」
「あまりこだわりはなかったですね。一緒やん、みたいな。あと他の“嬢”の人たちが言ってたのは、結局そっちのほうが楽だと」
「それは自分もそう思ったの?」
「うん。ただ、全体的に体力はいりますけどね。この歳になったら、もう無理だと思う」
そこで突飛な質問を思いついた。
「いま、コロナ禍でいろんな業界が大変なことになってるけど、もしもミホちゃんの会社が業績悪化で潰れちゃうとするよね。そのときって、たとえば熟女風俗の仕事をするっていう選択肢はあったりする?」
「えーっ、ないわぁ。それはない」
「もう一生ない?」
「うん」
「終わりかあ。もうその季節は終わったってことね」
「うん。いくらでもなんかその、仕事はあると思うんで。コンビニとかスーパーのバイトでも、自分一人だったらなんとでもなりますからねえ」
プラスマイナスでいうと「イーブンですね」
「当時、風俗と訣別したのは、どういう理由だったの?」
「結局、就職ってことでしょうね。これでもう、後ろ暗いことはできないなって、それだけの話でしょう」
「やっぱでも、後ろ暗いはあるんだね」
「後ろ暗いはありますよね、それは。人に言えないって時点で」
「でもさあ、逆にその後ろ暗さに、面白さを感じてたってのもあったんじゃ……」
「そうそうそう。それもあった。裏の世界も知りたいって……。で、知ってないと、世の中に出て騙されるっていうのもあるのかなって思った。上手い言葉に乗せられて、とか」
「やってみて思ったの?」
「うん。そういうことを知らないと、世の中にはいろんな、上手いけど危険な話ってあると思うから」
「やってみて良かった、悪かった? プラスマイナスでいうとどっち?」
「イーブンですね。対価について習いました」
「マイナスな点は、人に言えないという……」
「そうそう。あとは、公職に就けないということかな。あ、逆にプラスになったことという点で、もう一つありました。ははは。日常生活で、キモい男性に対処するのが上手になったと思う。えへへへへっ。対処できる枠は確実に広がりました」
「やっぱけっこう多かった?」
「もっ、そういう人は多いですよぉ。ほんと、いろんな人がいるなーって感じ」
この世にはどうにもならない矛盾がある
こちらに気を遣ってか、おどけた言い方になってはいるが、実際、常識を超えた男の裏面を見てきたことだろうと想像した。ただ、そんなミホであるが、いまだにニュースなどで風俗業界に絡む事件があると、つい気にして見てしまうのだという。
「なんか気になっちゃうんですよね。やっぱりふつうのサラリーマンになった私からすると、早く足を洗いなよ、とか、お日様の下を歩こうぜってなるけど、そうはいかない人もいるし……。いまはたとえば、自分の学費を払うためにやってる子とかもいるじゃないですか。あれはねえ……。なんとかならんかなあ、とかって思ったりしますね。でもしょうがない。勉強する時間を捻出するためには、時短で稼ぐしかないですしね」
彼女自身が社会を経験したことで、もどかしくとも、この世にはどうにもならない矛盾があることを理解しているのだろう。そういう点では、風俗で働いた経験をマイナスではなくイーブンにしているミホの話は、現在、そうした矛盾のなかで苦しむ女性を、少しは楽にできるのではないかと思った。
人に言えない分、自分のなかで貴重な体験をしてるなって
「自分が風俗で働いてたことって、誰か言った人はいる?」
「いまも昔もいないですね。どこでバレるかわからないと思ってたから」
「でもそれ、苦しくなかった?」
「いや、人に言えない分、自分のなかで貴重な体験をしてるなって思ってたから。面白いことだな、って」
「それはそれで、人に言えないくらいはしかたないなって?」
「うん。で、どうしても面白いことがあれば、人の話としてね……。それはもう面白い話がいっぱいありましたよ。こんな人がいた、あんな人がいたって」
「そらそうだなあ。なかなかふつうの生活をしてたら見れるもんじゃないもんねえ」
「そうそうそう」
「でもさあ、男性に幻滅したりはしなかった?」
「いや、それはそれで、こういう人もいるよな。こういうことを隠していかなければいけない男の人もいるよな、っていうふうに思ってましたね。で、風俗のいいところは、そういう人たちを受け入れてることだと思ってました。そういう人たちを締め出していたら、世の中の性犯罪者が増えて、被害に遭う人がいっぱいいるって思いますもん。これ必要悪。以上。みたいな。ふふふふ」
もちろん、現在の生活が安定しているから言えること、との見方もあるだろう。だが、それを差っ引いても、女にも男にもある、“どうしようもない部分”を容認している彼女について、素直に、たいしたものだとの感想を抱いた。
それだけでも、20年ぶりに会った価値は、ある。
聞けば、ミホも私と同じく、いまだに喫煙を続けているマイノリティだという。食事もそろそろ終わりそうなところで、私は切り出した。
「じゃあ、ちょっとどこか近くの、煙草が吸えるバーにでも行こうか」
「あ、いいっすねえ」
旧交を温める、幸せな夜はまだまだ続く。
(小野 一光/Webオリジナル(外部転載))
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