2030年から始まる首都圏住宅マーケットの崩壊
文春オンライン / 2025年1月28日 6時0分
新築マンションの部屋(東京都新宿区) ©︎時事通信社
新築マンションの高騰が止まらない。東京カンテイの調査によれば、東京都で供給される新築マンション(70㎡)の価格は1億526万円。東京都に住む人の平均年収592万円の17.78倍に及んでいるという。同様に神奈川県は13.06倍、埼玉県10.99倍、千葉県9.61倍だ。
いくら住宅ローンの金利が安い、ローン金利について一定割合が所得控除される、といっても限界をはるかに超える水準だ。家を手に入れることをあきらめる人たちの嘆き節が聞こえてきそうな今日この頃である。
だが世の中に一方的な右肩上がりの世界はない。冷静になって周囲を見渡してみると、実は変化の兆しを感じ取ることができる。
首都圏でこれから大量に発生することが予想される相続だ。首都圏でどのくらいの相続が発生しているのかを知るのは簡単だ。相続税を払う、払わないとは関係なく、相続件数は死亡者数と一緒だからだ。
首都圏の高齢者数は20年間で1.89倍に
さて2020年における首都圏の相続発生件数は年間で39万2000件である。20年前の2000年では21万2000件だったから、その数は20年で1.85倍になったことになる。戦後の日本は地方から大量の若者が首都圏や関西圏、中京圏に職を求めて流入し、そのまま家を手に入れて住みついている。
今年は戦後80年になるが、大量に流入してきた当時の若者も80歳代から90歳代になっている。お迎えが来るのがこれからだ。ちなみに首都圏の高齢者数をみると2000年では482万人だったのが2020年では911万人と1.89倍になっている。
相続の発生、つまり亡くなる方の多くが高齢者とするならば、2020年に高齢者になっている911万人の方々の多くが、これからの2020年以降2040年頃までに亡くなることが想定される。
高齢単独世帯数の激増
いささか不謹慎な表現となるが、多くの高齢者が亡くなるということは彼らが今住んでいる家が住宅マーケットに大量に出現することが期待できるということになる。ただ、高齢者夫婦のうち片方が亡くなっても(これを一次相続という)、まだもう片方が存命であれば、家を売ったり、貸したりすることは少ない。だが高齢単身者が亡くなる(二次相続)と、相続人である子供や孫がこの家を引き継いで居住しない限り、家は空き家となるか、売る、貸すという行動にでることになる。では首都圏では高齢単独世帯数はどのくらい存在するのだろうか。
2020年における首都圏の高齢単独世帯数は190万3984世帯。この数は2000年と比べてなんと2.54倍もの高い伸びを示している。さらに75歳以上である後期高齢単独世帯数は107万4561世帯と20年前の3.27倍という激増ぶりだ。
ということは、彼らが住んでいる家が大量に相続対象になることが容易に想像できるのである。少子化のすすむ現代社会では、相続人の数も少ない。親が80歳代から90歳代であれば、相続人である子は50歳代から60歳代だ。すでにマンションや戸建て住宅を手に入れている人も多く、今さら親の家に住もうと考える人は少ない。
解体更地化して売却される可能性も
空き家として放置する可能性もある。だが、地方と異なり、首都圏の家ともなると固定資産税や都市計画税の負担は馬鹿にならない。多くの相続人が処置に困って、相続した親の家を売ったり、貸したりし始めるはずだ。
ただ親の家は戸建て住宅であれば築年が古くなっていて商品性に欠ける場合が多いだろう。空き家にして放置するには税金も高く、また放置空き家に対する規制も強化される中で、その多くが解体更地化して売却することになる。戸建て用地は今後首都圏で大量に供給されることになるだろう。また築古マンションもよい立地のものであれば十分流通するだろうし、マンションこそは放置していても毎月管理費、修繕積立金の負担がのしかかってくることから、相続人は積極的にマーケットに拠出していくことだろう。
都心周辺部に形成されてきた大量の住宅は…
これまで住宅地としての評価が高かった世田谷区では、2023年の空き家数が都内トップの5万8850戸になっており、このうち個人放置空き家は2万3840戸に及んでいる。これからの相続圧力の高まりは売却案件、賃貸案件の供給につながるだろう。
練馬区は都心に通うサラリーマンの街として高度経済成長期以降に急速に住宅地化したエリアであるが、2020年の区内の高齢者数は16万491人。20年前と比べて1.67倍の急増。高齢化率も2000年の14.8%から21.7%と6.9ポイントもの高い伸びとなっている。
こうしたデータをみるかぎり、都心周辺部に形成されてきた大量の住宅(マンションを含む)でごく近い将来、住人が消滅することが明らかといえる。拠出された土地に新しい家を建てる。中古マンションは購入して自分流にリノベーションして住む。こうした住宅選びが自在にできるようになるだろう。
「住む」というニーズを満たす住宅は安くなる
都心一等地のタワマンは富裕層のための金融商品として存続するだろうが、こと実需層にとっては何ら関係のない代物。「住む」というニーズを満たすためだけで考えるなら、意外と早い時期に住宅はかなり安いものになるだろう。
Z世代(96年~2012年生まれ)、ましてやα世代(2010年~2024年生まれ)にとって住宅は一生分の給与債権を金融機関に捧げて買うようなものではなくなっているはずだ。そして今、期間35年、限界ぎりぎりのペアローンを組んで憧れの家を手に入れた夫婦にとっては、まだまだずっと残る残債を恨めし気に眺めることになっているかもしれない。
終わりの始まりは2030年前後だ。あとたった5年でマーケットの姿は変わるのだ。
(牧野 知弘)
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