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マジメに生きるだけで「大谷翔平の生涯の友」になれたはずなのに…元通訳・水原一平のキャリアを台無しにした「ある病」

文春オンライン / 2025年1月24日 11時0分

マジメに生きるだけで「大谷翔平の生涯の友」になれたはずなのに…元通訳・水原一平のキャリアを台無しにした「ある病」

水原一平はなぜ輝かしいキャリアを捨ててまで、ギャンブルを続けたのか? ©getty

〈 《三菱UFJ銀行「貸金庫10億円窃盗事件」だけじゃない…》600万円の借金のため“人殺しになった中学教師”も「ギャンブルをやめられない人」ほど“犯罪者になる”ワケ 〉から続く

 ギャンブル症が発覚するまでは世の中の寵児だった大谷翔平選手の元通訳・水原一平。いったい彼はなぜ輝かしい未来を捨ててまで、ギャンブルを続けたのか? ここでは「ギャンブル症の恐ろしさ」がわかる事例を一挙紹介。長年、精神科医としてギャンブル依存症患者とその苦しみに向き合ってきた帚木蓬生氏の新刊『 ギャンブル脳 』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)

◆◆◆

ギャンブル脳と闇バイト

 最近増えているのは、闇バイトに応募しての重大事件です。

 2023年の1月、狛江市で90歳の女性を強盗目的で殺害した実行犯のひとりは、闇バイトで強盗グループに加わっていました。まだ21歳の若さなのに競艇にはまり、借金が膨らんでいたといいます。事件前、別の傷害事件について、知人男性に「ボコボコにして血だらけにしましたよ」と語っていたそうですから、罪悪感のかけらもなかったのです。

 ギャンブル脳になった本人にとっては、闇バイトで殺人をして大金を手にするのも、一種の大バクチだったのかもしれません。そこにはもはや善悪の判断などかき消えているのが、ギャンブル脳の恐ろしさです。

 もともと犯罪を取り締まるのが務めで、触法行為に目を光らせている警察官でさえも、ギャンブル脳になってしまうと、詐欺に走ってしまいます。その一例は2022年に逮捕・起訴された福岡県警の元巡査部長46歳です。嘘の投資話を同僚に持ち掛けて現金をだまし取ったのです。投資話以外でも、十数年前からさまざまな理由で同僚に借金を依頼し、最終的に借金に応じたのは数十人規模になり、総額も数千万円になるといいます。投資話での被害総額は1000万円超です。この場合は、警察官がだましだまされる関係になっていたわけです。

 発覚したのは内部通報によってですが、懲戒処分ではなく、本部長注意にとどまっています。このあたりにも、ギャンブル脳の恐さを、警察の中枢部が全く理解していない現状が反映されています。

 このあと本人は依願退職をし、見事に退職金を貰っています。しかしこれもギャンブルですべて使い果たしたのか、その後もかつての同僚たちから借り入れを続けていました。そしてついに失踪し、警察が行方を追っていたところ、逮捕されたのは何と長崎市のパチンコ店でした。そこでパチスロをやっていたといいますから、もはやギャンブル脳が人の形をしていると言っていいでしょう。

(略)

 2007年には20代の息子が両親を殺害し、自宅の庭に埋めて逮捕されています。パチンコ・パチスロで300万円の借金があり、母親から叱責されて立腹して殺した悲惨極まる事件です。これは一審で懲役30年でしたが、二審で無期懲役になりました。

 とはいえ、今でも人々の記憶に残っている巨額のギャンブルでの損失は、2011年に発覚した大王製紙会長の106億円でしょう。子会社7社から26回金を振り込ませて、マカオのカジノで費消しました。その後、背任事件として逮捕されて、懲役4年の実刑判決を受けて服役します。

 刑期満了したのは2017年10月ですが、治療を受けた形跡はないので再発はもはや必至です。いくら本人が「ギャンブルはやめた」と豪語していてもです。その証拠に2023年には、韓国のバカラ賭博場にいる姿が見つかっています。

 そうです、いったんピクルスになったギャンブル脳は、二度と元のキュウリの脳には戻りません。治療によってギャンブルがとまる回復があるだけです。治療をやめるとまたギャンブルは再開されます。

水原一平はなぜ輝かしいキャリアを捨てたのか?

 そして、世界中の人々がギャンブル脳の怖さをまざまざと見せつけられたのは、2024年4月に米連邦検察から訴追された大谷選手の元通訳です。

 違法なスポーツ賭博でこしらえた多額の借金返済のため、大谷選手の口座から約26億円を、違法な賭け屋に不正送金していたのです。2021年12月からの2年間で、合計1万9000回、1日平均25回も賭博を繰り返していました。罪状は銀行詐欺と不正な所得申告です。

 私自身は、この大事件が報道されたとき、精神科の同僚から「よかったね」と何回も声をかけられました。これまで35年以上、ギャンブル脳の恐ろしさを、さまざまな機会をとらえて警鐘を鳴らし、多数の論文と本を書いて来たのに、精神医学会の反応は冷やかだったのです。ギャンブル症に効く薬はないので、精神科医はこの病気に大して興味を持ちません。悲しいかな精神科医の目には、薬の効かない病気は存在しないのと同じなのです。

 元通訳は、ギャンブル症が発覚するまでは世の中の寵児でした。通訳だけでなく、キャッチボールや私生活でも単身者の大谷選手を支え、その能力を大いに発揮できるように援助していました。日本の英語の教科書には、その通訳以上の仕事ぶりを紹介する記事を用意していた出版社もあったほどです。大谷選手が寄せる信頼も絶大なものがあったはずです。このままいけば、生涯の友人として世間から誉め称えられていたでしょう。

 しかしその信頼も、将来の栄光も、ギャンブル脳の前には何の価値もないのです。悪事に手を染めれば、どういう将来が待ち受けているかさえも、想像できなくなっています。

 この事件ほど、ギャンブル脳の本質を明らかにしてくれた実例はありません。しかもギャンブル脳の実態を世界中に広めてくれたわけですから、同僚たちが「よかったね」と言うように、私自身、悲しい事件ながら、少しは「よかった」面があったと感じています。

 これから米国裁判所が元通訳にどういう判決を言い渡すのか、世間は注目しています。私自身は、裁判所がギャンブル症の治療を命じるかどうかに興味を持っています。何年間服役したとしても、刑務所内での治療がなければ、出所後にまたギャンブルが始まるからです。元通訳の4倍の金額をギャンブルに費消した、前述の会長がよい見本です。

(帚木 蓬生/Webオリジナル(外部転載))

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