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蜷川実花が京都で大規模展覧会…古都で遭遇した「異界」を会場に

文春オンライン / 2025年1月25日 6時0分

蜷川実花が京都で大規模展覧会…古都で遭遇した「異界」を会場に

会場入口付近の《Liminal Pathway》

 果てしない異界へと迷い込んで、写真家・映画監督の蜷川実花がつくり出した美の世界にどっぷり浸かる……。そんな体験を味わえる大規模展覧会が、京都で開かれている。京都市京セラ美術館での「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」だ。

五感が鋭敏になっていく展示空間

 蜷川実花といえば花や金魚、いまをときめく著名人のポートレートなどで知られる写真家で、同時に「さくらん」「ヘルタースケルター」など話題の映画を生んできた映画監督でもある。写真、映像ともに艶やかな色彩と明暗のコントラスト、過剰なまでの装飾性によって、ひと目でそれとわかる作品世界を築いてきた。

 今展も独自の「蜷川ワールド」は健在でありながら、展示構成としてはひと味違うものとなっている。単体の写真や映像を味わうというより、空間を丸ごと体感することに主眼が置かれているのだ。

 会場でどんな光景に遭遇できるのか、順を追って見てみよう。

 来場者がまず目にするのは、展示室を取り巻くガラス窓一面に貼られた草花や蝶の写真群《Liminal Pathway》。半透明のフィルムに印刷されたものなので、写真越しに京都の街並みとその向こうの山並みもうっすら見える。幻想的な作品世界と現実が入り混じって、早くも自分がどこを歩いているのかわからなくなる。

 そう、この展示は全体に虚構と現実、生と死といった対極的なものの狭間にある境界線を強く意識しながら、異界へ没入していくことを狙い構成されているのだ。

 自分の居場所が曖昧な感覚のまま、暗がりを進む。無数に並ぶ水槽内に映像が揺らめく空間や、両脇を真紅の彼岸花が埋め尽くす曲がりくねった道を通り抜けていく。自分の身体の存在を忘れそうになるいっぽうで、五感は研ぎ澄まされていく。視覚がわずかな色にいちいち感応したり、ところにより気の安まる香りがほんのり漂っていることに気づいたり、音響が脳内に沁み渡っていくのを感じたりもする。

 大きなスクリーンと対峙する空間に行き当たった。光と風を浴びて微細に揺れ動く花々の映像が儚くも美しい。ただし画面をいくら凝視しても焦点が定まらず、この世ならぬ世界を見つめている気分になる。

 それもそのはず、《Blooming Emotions》と題されたこの作品は、スクリーンの表と裏から別の映像が投影されている。観る側は重なったふたつのイメージをいちどきに体験しているのだ。ありそうであり得ぬ光景を見続けていると、自分の意識はどんどん内側へと向かい、心象風景が掘り起こされていく。

現世への飽くなき執着めいたものを感じさせるコラージュ作品

 次なる空間へ移ると、壁面にコラージュ作品がずらりと掛かっている。花や小動物、唇に目玉、室内の一角……。蜷川作品に繰り返し現れるモチーフが幾重にも貼り合わされ、ときにそのうえから絵具で彩色もされ、デコレーションが施された額縁に収められている。過剰に手が加えられ異様な迫力を帯びた画面からは、作者・蜷川実花の現世への飽くなき執着めいたものを感じる。

 歩を進めると、大空間へ出た。人の背丈ほどもある衝立状のガラスパネルに、花畑や海中の光景を写した写真を貼った《Silence Between Glimmers》が立ちはだかる。

 さらにその先に、大型作品《Whispers of Light, Dreams of Color》が現れた。上方から吊り下げられた無数のクリスタルガーランドが、照明を浴びて眩しく輝いている。近寄ってみると、イミテーションの宝石や蝶、星、目玉などのオブジェが、たくさんくくりつけられているのに気づく。何千本にも及ぶガーランドはすべて、蜷川をはじめスタッフが開会直前まで手を動かしてつくったものという。無機的な素材でできた作品にどこか温もりを感じるのは、手づくり感が滲み出ているからなのだろう。

天地が鏡面の「深淵に宿る、彼岸の夢」

 キラキラ光るクリスタルから目を移すと、大空間の奥へと続く通路が見つかった。足を踏み入れると、そこは色とりどりの造花が咲き誇る花園だった。全体が刻々と変わる照明で彩られており、本物の深い森で時を過ごしているような感覚に浸れる。

 花園のさらに奥のほうで、激しく明滅する光が見えた。誘われるまま進むと、いつしか直方体の空間内部にいた。前後左右4つの壁一面はLEDで覆われ、そこに映像が映し出されている。天地はいずれも鏡面で、そこに写る映像が上方にも下方にも無限に続いている。

 自分の身体が重力から解き放たれ、宙空に留まっているようにも天へ舞い上がっていくようにも、または奈落の底へ真っ逆さまに落ちていくようにも感じられる。花園と奈落の空間はひと連なりの作品とみなされ、《深淵に宿る、彼岸の夢 Dreams of the Beyond in the Abyss》と名付けられている。

 圧倒的な空間に心を奪われて立ち尽くすことしばし。ようやく我に返って最後の作品へ行くと、そこは静謐な映像と音楽が流れる空間で、これまでの異界巡りでかき乱された心を落ち着かせることができた。

異界を巡る体験を経たあとに

 これで会場をひと回りしたことになる。暗がりから抜ける出口は入口のすぐ横に設けられていて、展示の初っ端で目にしたガラス窓一面の草花や蝶の写真作品《Liminal Pathway》と、再び邂逅するかたちとなる。異界を巡る体験を経たあとに観ると、先ほどよりずっと鮮やかなものに感じられた。作品自体はまったく変わっていないはずなので、こちらのものの見方にこの短時間で何らかの変化が生じたのかもしれない。

 今展が、境界線の上を歩きながら異界を覗き込むような構成になったのは、開催地である京都という土地に触発されてのことだった。蜷川実花の目から見れば、特異で長い歴史を持つ京都には、異界につながる穴がそこかしこにポッカリ開いているという。生と死、彼岸と此岸、光と影といった両極のものが同居する土地で展示をするなら、それらを強く意識させるものにしたいと考え、展名にもある「彼岸の光、此岸の影」というテーマが定まっていった。

チーム制作で「異界」を出現させた

 表現したいものが壮大だったこともあり、今展は「蜷川実花展 with EiM」とうたっている通り、蜷川個人ではなくクリエイティブチームEiM(エイム)によって制作されることとなった。EiMは蜷川をはじめ、データサイエンティスト宮田裕章、セットデザイナーENZO、クリエイティブディレクター桑名功、照明監督の上野甲子朗ら、各分野のスペシャリストで構成されている。銘々のプロフェッショナルな技能や知見が合わさることによって、来場者を没入させる果てしなき異界は生み出されたのだった。

 死という終わりがあるからこそ生は輝くのだし、光が強いほど影はいっそう濃く豊かなものとなる。両極のどちらにもじっくり目を凝らし、世界を丸ごと味わい尽くしてみてほしい。蜷川実花とEiMからのそんなメッセージが読み取れるような展覧会だ。

INFORMATIONアイコン

「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」
京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
1月11日~3月30日
https://ninagawa-eim2025kyoto.jp/

(山内 宏泰)

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