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来てくれた女の子にヒロインを頼んで出演してもらい……黒沢清監督や山本政志監督も来場した自主上映会から数多の映画監督が生まれていった

文春オンライン / 2025年2月2日 6時0分

来てくれた女の子にヒロインを頼んで出演してもらい……黒沢清監督や山本政志監督も来場した自主上映会から数多の映画監督が生まれていった

今関あきよし監督 ©藍河兼一

〈 『小さな恋のメロディ』の美少女トレーシー・ハイドに夢中になって、授業中ずっと彼女の絵を描いていた中学時代 〉から続く

『小さな恋のメロディ』で映画の魅力に取りつかれた今関監督。高校時代には仲間と8ミリ映画製作をはじめ、初監督作も撮った。やがて雑誌『ぴあ』を媒介とした8ミリ映画仲間のつながりが広がっていく。(全4回の2回目/ 3回目 に続く)

◆◆◆

「葉っぱ2枚の上映会」を続ける

――そして、『FANTASTIC★PARTY』と一緒に上映会が始まります。豊島区民センターで。

今関 面白いと思ってくれた人にはお金を払ってもらって、つまらないという人は無料でもいいようにしたいねということから、「葉っぱ2枚の上映会」と銘打ってスタートしたんです。葉っぱを2枚持ってくれば、お金はなくても観ていいですよと。豊島区民センター前の公園には葉っぱがいっぱい落ちてますから、それを持ってくればオッケー。もし面白ければ、10円でも100円でも帰り際に置いてくれといって、箱に入れてもらったりする。

――月1ぐらいでずっとやってましたね。

今関 最低月に1回はやろうと。多くて2回。手塚眞が手塚治虫の息子だというのは、その上映会で知ったんですよね。本人が言わないので。上映会で手塚治虫さんが来て、「ああ、そうか。手塚、なるほど」と。手塚治虫さんは1万円置いていきました。

――上映作品に毎回違う作品を入れたりしてました。

今関 そう。『FANTASTIC★PARTY』が賞を取った時に眞が出会った増井公二君の『王将餃子edムービー』(1978)とか。いろんな組み合わせでやってましたね。

――僕の『TURN POINT10:40』(1979)もやってもらいました。

今関 成蹊高校映画研究部の作品はクオリティが高いので、何本かやったりして。それはずいぶん刺激的だったし。当時の自主映画の監督、黒沢清さんとか、山本政志さんとか、結構そうそうたるメンツが上映会に来ていたりするんです。冷やかし半分だと思うけど観に来てくれて、ありがたいなと。

――その時代の自主映画界に横のつながりができた感じですね。

今関 そうですね。できてましたね。当時、あんまりセクトというか、壁がなかったから。石井聰亙(現・岳龍)監督は日芸で、眞もその後日芸に入るけど、なんだかんだ交流はありましたよね。

『ORANGING'79』でPFFに入選

――『ORANGING'79』はその頃ですよね。

今関 三留まゆみちゃんが主演で撮った映画が『ORANGING'79』。風景を撮ったり女の子を撮ったりするスケッチの延長線上で、まゆみちゃんの日常生活を追いながら、自分の好きなテイストを入れて。やっぱり最後ぐらいちょっと映画っぽくしようと、江ノ島の海の防波堤からまゆみちゃんがアメリカへ行くといって浮き輪を持って泳ぎだすところが最後なんですけど。あれは『ルパン三世』のラストもそうなんですよ。

――みんなが沖に向かって泳いで、「アメリカに行くぞ」みたいな。

今関 そうそう。ああいう自由なのがいいなと思って。

――三留まゆみちゃんとはどういう出会いだったんですか?

今関 葉っぱ2枚の上映会でいろんな人が来る中で、まゆみちゃんも友達と映画を撮っていて……出演者としてね。監督は田代君といって、当時、お付き合いしていた彼氏だったんですけど、その彼氏と一緒に来てくれて。まだ高校生、17歳ぐらいかな。自主上映会にあんまり女の子は来ない時代だったから、やっぱり目立つわけです。で、その場でじゃないと思うけど、声をかけて、出演をお願いした。

――あの頃の自主映画には珍しく、葉っぱ2枚の上映会には女の子が来てましたよね。

今関 そう。毎回小さいイベントをやった。「ぴったしカン・カン」みたいなクイズとか、お客さん参加型のくだらないことをやっていた。

――僕が覚えているのは、歌合戦をやったこと。

今関 そうそう。

――「いい加減にしろ」ってアンケートに書かれた(笑)。

今関 たまに文句を書いてる人もいましたけど。クリスマスの時はクリスマスツリーを飾ったり、ワインを無料で出したりしてましたからね。

――『ORANGING'79』がPFFに入選して、PFF作家同士のつながりもできますよね。

今関 そうそう。犬童一心監督とかはぴあ(PFF)からだし。技術的な交流とか「そっちに出てるあの人いいね」みたいなキャストの交流とか。それがぴあを中心に始まった感じがしますね。

当時の自主映画のピークだった『MOMENT』

――そして手塚さんが日芸に進んで、『MOMENT』を作り始めるわけですね。

今関 そうそう。『MOMENT』が当時の自主映画のピーク。ぴあで出会った人たちを結構引き込んだし、僕自身もカメラで参加した。眞もうまく使ってくれた気もするし。僕らはプロと違うから、リテイクするよと言われても何の抵抗もないので、何回もミュージカルシーンを撮ったり、天気がよくないからもう一回やるとか、撮影が終わるまで結構時間を食ったんですけどね。大林(宣彦)監督や鈴木清順監督にもゲストで出てもらったり、プロとアマの混合自主映画、インディーズ映画みたいな。

――当時の8ミリ映画界の総決算みたいな映画だったですよね。

今関 そう。原宿のラフォーレで、ぴあ主催で発表上映会をやった。

――やりましたね。『お茶の子博士のホラーシアター』(注1)はその後ですね。

今関 テレビ業界も『MOMENT』に注目して、若い連中を遊ばせてみようとスタートしたんだと思う。眞が監督して、そのうち眞以外の自主映画の監督も撮った。ホラーをやったり、サスペンスをやったり。

――最初プロのVTRスタッフで撮り始めたけど、すぐに切り替えて8ミリになった。

今関 8ミリは現像もあるから大変なんだよね。

――週1で作らないといけないし。

今関 そう。オンエアが迫ってくる。眞も葛藤しながらいろいろやっていたんだと思うけど。刺激的でしたよね。面白かったです。

文芸坐がプロデュースしたマインド・ウェーブ・シネマ

――そういう流れと別に、マインド・ウェーブ・シネマというのがありましたよね。

今関 周りが8ミリ全盛でピークに達している中で、僕も何かもうひとつ、上と言うとおかしいけど、前へ行きたくて、16ミリで撮ろうと急に思い出して。お金はかかるけど、節約すれば何とかなるだろうといって。で、『フルーツ バスケット』という映画を『MOMENT』の後に作った。

 『MOMENT』のヒロインでもある矢野ひろみちゃん主演で、庄司真由美ちゃんと大蔵悦子さんと3人の女の子が街の中の小川からボートに乗って海に行くまでの話。それぞれいろんなことを抱えていて、毎日リストカットしている女の子だったり、家出している子だったり。文芸坐でも上映してくれて、人も入った。するとお金を出すから8ミリを撮らないかと文芸坐が言い出した。今思えばまあまあのお金、30万とか50万とか出してくれて、その時に犬童と組んでマインド・ウェーブ・シネマというのを作った。僕が『MILK○MILK』、犬童が『夏がいっぱい物語』を撮って、文芸坐オンリーで上映するというスタイル。面白いですよね。自主映画でお金をもらって撮るって。

――ル・ピリエでやったんですか?

今関 そうですね。結構ロングで上映してもらって。

――文芸坐が文芸坐と文芸地下の間にもうひとつ小さな劇場を作って、そこで8ミリや16ミリをかけられる体制が出来たのは画期的でしたよね。

今関 そう。柱があって劇場としては結構使いづらいけど、自由だったので。文芸坐が作って上映する、産地直送映画なので、人も入って。

――そうですよね。

今関 自主映画でもアイドル映画のように、サイン入りのブロマイドとかを売ってその物販もお金になった。それに普通の子だから、ほぼ毎日のように舞台あいさつに来れるわけですよ。AKBじゃないけど、会えるアイドルだから。

――今で言う地下アイドル。

今関 そう。だから人が結構毎回来てくれて。その中に筋肉少女帯の大槻ケンヂ君が来ていた。当時、荻窪だか高円寺だかに住んでいて、自転車で池袋まで通っていたらしい。マインド・ウェーブ・シネマの会員証みたいなのがあって、それのナンバーも1桁台だったと思いますよ。

――あの時代の文芸坐って他にも自主映画にお金を出してましたよね。

今関 そう。いい感じで回転してましたね。

――山川直人さんの『アナザ・サイド』とか長崎俊一さんの『闇打つ心臓』とか。

今関 そう。そういう意味では支えられてましたよね。ぴあに支えられ、文芸坐に支えられ、なんかうまく転がっていた気がします。

――僕の『星空のむこうの国』も文芸坐です。

今関 そうですね。

注釈
1)お茶の子博士のホラーシアター バラエティ番組「もんもんドラエティ」の1コーナーとして放送された短編ドラマ。手塚眞がお茶の子博士として前説を務めた。

〈 応募者12万7000人、一大オーディションで富田靖子を見出したプロデビュー作『アイコ十六歳』は「敗北だった」と今関あきよし監督が振り返る理由 〉へ続く

(小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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