共学化した「元男子校・元女子校」の落とし穴とは? 手探りの教育方針、 驚異の倍率66倍、「有名校長の改革が白紙に…」という嘆きの声も
文春オンライン / 2025年1月31日 11時0分
渋谷教育学園渋谷中学のキャンパス 公式サイトより
私立中学がひしめき、中学受験が過熱する首都圏にも、少子高齢化の波は確実に押し寄せている。東京都の公立小学校の児童数は昨年度から微減に転じ、予測によるとこのまま減少が続くという。
生き残りをかけて共学化や大学との提携などの改革に乗り出す学校も多い。歴史ある男子校・女子校の共学化も目立つが、共学化初年度の入学には少々覚悟も必要だ。
共学の最上位校「渋渋」の前身はコギャルブームを牽引した女子高
東京圏の共学の最上位に君臨する「渋渋」こと渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、元は“渋女”として呼ばれた女子校だった。原宿や渋谷に近い立地もあり平成のコギャルブームを牽引した学校だが、96年に共学化。すでに進学校として成功していた渋谷教育学園幕張との連携をきっかけに、共学の超名門校へと変貌を遂げた。
ほかにも、今や不動の共学人気校となった三田国際学園中学校・高等学校は、前身は戸板中学校・戸板女子高等学校。戸板時代は残念ながら偏差値表では存在感を示せずに生徒募集も苦戦という状況だったが、グローバル教育と共学化に舵を切ったことで偏差値も60台に乗り、生徒募集も安定した。
特に人気が高いのが通称ISCと呼ばれるインターナショナルサイエンスクラス。昨年度の第4回入試ではなんと倍率66.7倍を記録している。
このようにグローバル教育と共学化の合わせ技で成功した学校の前例があるからか、最近も生徒募集に苦戦していた学校が共学化するケースが目立っている。
2022年には元女子校の目黒星美学園がサレジアン国際学園世田谷となり、文京区にあった村田女子中学は共学化と広尾学園中学校・高等学校との教育連携をきっかけに広尾学園小石川中学校・高等学校に。2023年には東京女子学園が芝国際中学校・高等学校となった。
芝国際中学は1期生となる生徒を迎える入試で学校の予想をはるかに超える志願者が殺到。120人の定員に対して累計2770人もの受験者が集まり、合格発表が遅れるなど前代未聞の事態も起きた。その混乱の教訓を生かしてか、昨年度の入試は志願者数も少し落ち着いた様子だったが、今年は再び志願者数が増えている。
東京女子学園と名前の似ていた東京女子学院中学(練馬区)は、2026年度からの共学化(高校は2025年度から)に向けて今年4月から英明フロンティア中学校・高等学校に改名する。
こうして名前を並べてみると女子校からの共学化が目立つが、男子校でも共学化に踏み切る学校はある。
世田谷区にある男子伝統校の日本学園はすでに共学化を表明し、明治大学の系属校になることも発表されている。2026年度からは名前も明治大学付属世田谷中学校・高等学校へと変わる。
日本学園といえば、元首相の吉田茂や岩波書店創業者である岩波茂雄などを輩出してきた歴史ある学校で、フィールドワークを起点に学びへとつなげる「創発学」などユニークな取り組みが話題になった時期もあったが、近年は人気が落ちていた。
模試によっては偏差値表に名前が出ないこともあるほどだったが、明治大学の系属校になるという発表があってから驚異的に志願者が伸びており、昨年度の入試でも最終日となる第3回入試は実質倍率が8倍に達した。
「女子校時代は子どもたちに共感しながら指導する方が響いていたが…」
共学化は生徒集めに苦しむ学校にとって復活の一手になることもあるが、“落とし穴”も存在する。
会社の中長期計画同様、学校も共学化に向けて何年もかけて準備を進め、教育内容や方針を練り直すことになる。とはいえ現場の教員が刷新されるわけではないため、男女別学校時代のやり方をしばらくは引きずってしまうのだ。
男子だけ、女子だけという環境に最適化した教育方法が確立されている別学校にとって、共学環境への適応は簡単ではなく、それまでの指導法が通じないと嘆く教員もいる。
共学化した元女子校で働いていたある教員は「女子校時代は子どもたちに共感しながら指導する方が響いていたが、男子はどうもそれだけでは響かなくて……」と、指導に苦労する様子を漏らしていた。共学化にあたっては教員側も手探りなので、とりわけ初年度はトラブルも起りやすい。
さらに単純な問題として、別学校と共学校では設備も異なる。たとえば男子校には女子トイレが極端に少なく、女子校では男子トイレがほぼないところもある。子どもを男子校や女子校に通わせた経験のある保護者なら、保護者会などでトイレが見つからなくて困った経験もあるだろう。
ほかにも、部活動の部室などは男女で分ける必要があり、共学化に合わせて新校舎を建設するところもある。共学化にはこうした設備投資費が必要なのだ。
それでも共学化に踏み切るのは、学校にとって生徒募集こそが生命線だからである。「教育は金儲けではない」という言葉はしばしば現場の先生達から聞かれるが、学校経営にお金がかかることも確かで、生徒募集に失敗して定員割れがおこれば経営は苦しくなる。最悪の場合は閉校に追い込まれることもある。
「有名校長が辞めた途端にそれまでの学校改革が白紙に戻された」ケースも
学校経営が企業と違うのは、収入が年に1度の受験期間に決まってしまうことだ。企業ならば上半期の不振を下半期で取り返すこともできるが、春の入学で確定した生徒数を年度の途中で大幅に上乗せすることはほぼできない。
寄付や補助金もあるとはいえ、当然それだけでは成り立たない。児童数が減少へと転じる中、経営不振の学校は戦略的に生徒獲得を考える必要があるのだ。
大きな改革に合わせて、各校では、名のある人を校長に招くケースもある。しかしその人の考え方に共感したとしても、学校全体にその先生のカラーが浸透するには時間がかかる。
さらには、期待していた校長が数年で辞めてしまうことも少なくない。校長の教育方針や考え方が気に入って入学を決めたという家庭にとっては、梯子を外された気分になるだろう。過去の取材では「有名校長が辞めた途端にそれまでの学校改革が白紙に戻された」と嘆く保護者も複数人に出会った。
つまり、志望校や進路を選ぶうえで、大幅な改革をした直後の学校を選ぶことはそれなりのリスクがあるということだ。改革された教育方針が本当に根付くのかを確認するのには改革後3年くらいはかかるが、共学化などは発表のタイミングが最も話題になり、志願者数も増えることになる。
改革初年度の学校への入学を検討している保護者は、その学校が本当に信頼できるのかを見極める必要があるだろう。
(宮本 さおり)
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