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“読売のドン”渡邉恒雄氏と対立…清武英利氏が明かした巨人GM解任後の日々「スーパーで『あんた、清武の乱の人だね』と…」

文春オンライン / 2025年2月2日 6時0分

“読売のドン”渡邉恒雄氏と対立…清武英利氏が明かした巨人GM解任後の日々「スーパーで『あんた、清武の乱の人だね』と…」

渡邉恒雄氏(左)との対立をきっかけで、清武英利氏は読売新聞グループを離れることになった ©文藝春秋

ノンフィクション作家の清武英利氏は、読売ジャイアンツのGMを務めていた当時、チーム人事を巡って読売新聞グループ代表取締役の渡邉恒雄氏と対立。このことがきっかけでGMを解任された清武氏は、61歳にして“3度目の人生”を歩み始めた。

「物書き」以外に取り柄がない

「物書きであろうとするならば、1日8時間は机の前に座った方がいいですよ。サラリーマンだって8時間は働いているんだから」

 というのが、友人の江上剛の助言であった。

 江上は第一勧業銀行(現・みずほ銀行)の不正融資が発覚したとき、広報部次長として奮闘し、上司に噛みついた。その後に支店長にも就いたが、銀行の体質が変わらないことに絶望し、「やめた方がいいですよ」という周囲の声を押し切って作家に転身している。

 一方の私は巨人コーチ人事への突然の横やりに直面し、渡邉恒雄の独裁の非を記者会見で訴えたが、それはやむにやまれぬ告発で、先々を考えないまま、61歳で3度目の新たな人生に踏み出していた。

 振り返れば、初めは読売新聞で記者稼業を30年、2度目は巨人で球団代表を7年、そして巨人球団代表を解任された3度目は、収入も定まらない物書き修業である。

 それ以外に取り柄がなかったからだが、記者や球団代表の経験から、うまくいくかどうかは、才能よりもむしろ自分の熱と辛抱にかかっていることは知っていた。私たちが創設に苦労した野球界の育成選手制度は、埋もれた選手の隠れた能力を掘り出す仕組みだ。今度は私の中の能力を辛抱して掘り出す番だった。

 巡り合わせというしかないが、私は解任された翌日の2011年11月19日、母校である県立宮崎南高校の生徒らを前に、「あなたの中のビッグツール(大きな能力)」という演題で講演することになっていた。母校の創立50周年記念式典に合わせて、1年前から講演を依頼されていたのだ。

 私の心配は、メディアが押しかけてきて混乱するかもしれないということだった。それで解任された夜に、校長だった佐々木逸夫に「解任という次第になりましたので、講演はご遠慮しましょうか」と電話でお伺いを立てた。彼は宮崎なまりで「何(なん)をいまさら」と笑った。

「あんたが来んけりゃ、私がやらんといかんのですよ。生徒は楽しみに待っちょりますよ」

 その言葉に励まされて、私は宮崎市民文化ホールに集まった約1500人の生徒や卒業生の前に立った。

「昨日まではいろんな肩書がありましたが、今日からはただの宮崎南高5回生の清武です」と挨拶した。そして、プロ野球の育成選手たちが、秘めていた能力を開花させ、一流の階段を駆け上がっていった数多くの事実を紹介し、こう語りかけた。

「すべての人が、自身も気づかない『ビッグツール』を持っています。自分の中の一芸を探しましょう。情熱を持ち続ければきっと大きな能力が見つかります」

 ──これは俺自身に向けた言葉でもあるんだな。

 そう思いながら講演を終え、弟の運転する車で実家に向かった。東京から飛んできたスポーツ記者やテレビ局の記者らがゾロゾロと実家に続く農道を車でついてきた。

「あっ清武だぁ」と中学生に指さされ・・・

 それから多くのメディアに取り巻かれ、実家まで招かれざる記者たちにまとわりつかれた。花束を持って実家の玄関口に現れた週刊誌の記者もいた。わが母親は追い払ったという。「あんな萎れた花で取り入ろうたって、そうはいかんよ」。母は意気軒昂であった。

 実家と地元紙の新聞販売店を継いだ次弟は無口だった。弟は読売の販売店と拡販競争を繰り広げており、巨人嫌いである。「いろいろあるじゃろが、まあ頑張りなよ。命までは取られんじゃろ」

 確かにいろいろあった。

「解任に伴い、読売の社友資格を取り消した」という通知、「あなたは退職後医療共済の会員資格を喪失しました」旨の連絡、解任された日付けで一方的に「読売グループ本社役員持株会を退会した」とする通知……それらが読売から次々と配達証明付き郵便で団地の我が家に届く。そして読売グループからの訴訟である。

 ──組織に反旗を翻すとこんな目に遭うのだな。

 そう思いつつコンビニに出かけると、中学生たちに「あっ、清武だぁ」と指さされ、スーパーで「あんた、清武の乱の人だね。こんなところで何やってんの」とおじさんに同情される。特にスーパーでの日中の買い物は落ちぶれたという印象を与えるらしい。

※本記事の全文(約1万2000字)は「文藝春秋 電子版」でご覧ください(清武英利「 連載 記者は天国に行けない 」)。「文藝春秋 電子版」では、連載のバックナンバーも全てお読みいただけます。

 

■「記者は天国に行けない」

第22回  座を立て、死角を埋めよ
第23回   「やるがん」の現場へ
第24回  情けをかけてはいけません
第25回  辞表を出すな
第26回  奇道を往く
第27回  スカウトは獲ってなんぼや
第28回  それが見える人
第29回  誰も書かないのなら
第30回  OSが違っていても
第31回  志操を貫く
第32回  曲がり角の決断
第33回  告発前夜
第34回  独裁者の貌
第35回  悪名は無名に勝るのか
第36回  おかしいじゃないですか
第37回  再起への泥濘(ぬかるみ)  <<今回はこちら

(清武 英利/文藝春秋 2025年2月号)

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