《空挺降下訓練始め》「美しい国、日本を守る」不肖・宮嶋が見た“精鋭無比”第一空挺団の全貌
文春オンライン / 2025年1月30日 6時10分
©宮嶋茂樹
帝都に近い陸上自衛隊習志野演習場では年明け早々、日本唯一の空挺旅団である、第1空挺団主催による「空挺降下訓練始め」と訓練展示が一般市民も招いて公開された。部隊の規模と装備の詳細は明らかにできんが、東の空挺団、西の水陸機動団と並び称される日本を代表する精鋭部隊の名を欲しいままにしている空挺団である。習志野にはいまだ我々のカメラの前にその実情を現したことがない特殊部隊その名も「特殊作戦群」も控える。
最前線にも派遣されている空挺団
その空挺団のモットーは「精鋭無比」、テーマソング(愛唱歌)は「空の神兵」であり、まさにその歌詞のとおり敵の支配下でも山河であろうと夜間であろうと恐れることなく空から舞い降り、戦闘をつづける能力があるばかりか2011年に発生した東日本大震災直後の東電福島第1原発20~30km圏内の行方不明者捜索始め災害派遣やアフリカ、ジブチの自衛隊海外拠点という最前線にも派遣されている。その団員たるやまさに根性、気合い丸出しの猛者揃い、みな落下傘を表す空挺記章(エンブレム)を胸に誇り高いが、数は少ないながら女性空挺団員もいる。
そして今年の訓練降下始めには同盟国である米軍に加え英蘭加独豪仏伊、ウクライナ隣国の遠くポーランドや同じアジアのフィリピン、シンガポールからも11か国の約200名の外国軍空挺隊員も参加、実際日米軍の落下傘を背負い、航空自衛隊のC-130輸送機や陸上自衛隊のCH-47大型ヘリコプター、さらに米空軍のC-130輸送機からジャンプして習志野上空で散開した。自衛隊側は舞台をあえて特定の国や地域は想定しないとお決まりでいうが、不肖・宮嶋からしたら、そりゃあ日本の沖縄県南西諸島の離島を想定、敵は中国人民解放軍やそれと手を組むロシアや北朝鮮やろ。
実戦的な近接戦闘訓練も公開
またこの訓練では訓練のための訓練を繰り返してるわけやなく、昨今のウクライナでの戦闘も参考にドローンによる偵察部隊や少数の対人狙撃チームによる降下やナイフを使用した近接戦闘訓練も公開された。さらにドアガンを射撃しながら敵陣に接近するUH-1ヘリ、その後10式戦車や16式機動戦闘車を先頭に敵が潜む離島に進攻する空挺団員らのスムーズで無駄のない動き、これが訓練で良かったと思えるほど実戦的であった。しかし圧巻はやはり12か国の空挺降下による曇り空とはいえそれを覆い隠す無数の落下傘が開花した瞬間であり、6機の陸上自衛隊CH-47ヘリから降下した12か国の空挺隊員が各々の国旗を掲げ一斉に中谷元防衛相も臨席したVIP席もある丘に向かい突撃していくシーンであろう。それは硫黄島の摺鉢山や203高地攻略もかくやのシーンであった。
この12か国の連帯、練度の高さを我が国周辺の想定敵国に見せつけられたことは「日本に手を出したら、同盟国米軍は元より、NATO主要国や中国の鼻薬が利かぬアジアの国々まで黙ってへんで」という強いメッセージを発することができたはずである。
訓練展示後、場内に流れた空挺団による締めくくりのナレーションを紹介させていただく。
〈 陸上自衛隊は「いま正に戦って勝てる」そして「将来にわたって戦って勝てる」「強靭な陸上自衛隊の創造」を実現するため、陸上防衛力を抜本的に強化しています。そのような中、第1空挺団は常に国民とともに存在し、あらゆる困難な状況を克服しつつ与えられた任務を必成していきます。
「今日、我々の流す汗が、この先、我が国の生存と安定に直結し、ひいてはこの美しい国、日本を守る」という矜持の下、日々厳しい訓練に励み、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努めていくよう邁進してまいります。〉
戦後80年、天災による犠牲者数は戦災以上
戦後80年、その間、我が国は幸いにも戦禍は免れてきたが、それに匹敵する犠牲者数を天災で出してきた。行方不明者や災害関連死まで含めると、阪神淡路で6400人、東日本で24000人、能登で500人以上の日本人が亡くなっているのである。これは昨今停戦となったガザの40000人、ウクライナの民間人も合わせた53000人には及ばないが、何年、何カ月にわたってでなく、たった1日ででるその数は戦災に匹敵、いやそれ以上である。
その初期の人命救助に復旧復興の主力となってきたのが、陸海空自衛隊であることはもはや疑いを持つ日本人はおらんやろ。陸路が絶たれた能登半島孤立集落にも人員や物資を運び続けるのは900機以上の航空機を保有する自衛隊しかできんのである。
厳しい環境下で人を救う技術と自信は、厳しい訓練から
ただそんな自衛隊の第1の任は災害派遣でなく国防である。被災民を温める温食や屋外風呂を毎日提供できる装備も本来はなんにもない演習場で長期訓練を続けるため隊員の心身を健康に保つためなのである。昨年の能登、14年前の東日本、30年前の阪神淡路、大きな震災は不幸にも真冬に起こっている。そんな電気も水道もガスさえ途絶えた極寒の被災地で乏しい衣食住にもかかわらず、連日不眠不休で人命救助や復旧復興に当たれるのは、ふだんからかような「降下始め」などの戦闘訓練をつづけているからである。なんでそこまでがんばれるのか尋ねるや彼ら彼女らは口を揃えて言う、「普段の訓練のほうがよっぽどきつい」と。厳しい環境下で人を救う技術と自信はそれ以上の厳しい訓練からしか得られない。そのために戦闘訓練を続けているのである。
撮影 宮嶋茂樹
(宮嶋 茂樹)
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