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外房線“ナゾの終着駅”「勝浦」には何がある?

文春オンライン / 2025年2月3日 6時0分

外房線“ナゾの終着駅”「勝浦」には何がある?

外房線“ナゾの終着駅”「勝浦」には何がある?

 暑いときには暑いところへ、寒いときには寒いところへ。それが旅の要諦だ……などという手前勝手なこだわりを、折に触れて披瀝している。だから、この冬もいそいそと(というか仕事で)北海道に赴いた。

 ただ、いつもそんな旅ばかりしていては、体への負担が大きすぎる。暑さ寒さそのものもそうだし、室内外の寒暖差も何かと体に応えるものだ。ときには暑いときには涼しい、寒いときには暖かいところに出かけたい。

 そういうわけでやってきたのは、千葉県は外房、太平洋に面する港町・勝浦である。

“暖かいし涼しい”ふしぎな終着駅「勝浦」

 勝浦は、黒潮の影響もあって冬は温暖、夏は冷涼。最高気温が35度を超えることは過去に一度もなく、30度超の真夏日すらまれだとか。それでいて、冬は冬でも氷点下の冷え込みなどはごくわずか。つまり、東京から気軽に行くことのできる上に夏は避暑、冬は避寒にうってつけの町なのだ。

 そんな首都圏の天国・勝浦には、JR外房線が通じている。クルマを使わず鉄道で、となったら、外房線に乗ってゆくほかに道はない。ありがたいことに、東京駅から京葉線経由の特急「わかしお」が走っている。

 夢の国まみれの通路を歩いて歩いて東京駅の地下ホーム。そこから「わかしお」に乗り込んで、海浜幕張も蘇我も茂原も上総一ノ宮も通り過ぎ、ざっと1時間半ほどの旅のすえ、勝浦駅に到着する。

 さすがにこの辺りまで来れば、外房の香り。都心の風情は消え失せて、のどかな房総半島らしい車窓が広がっている。

 勝浦駅もまた、すぐ北側には山が迫り、南側にだけ駅前広場を持つのんびりした空気のターミナル。駅前広場にも、どことなく南国ムードが漂っている。

 寒いいまの時期ならば南国ムードはありがたく、気分だけでもいくらか寒さが和らぐ心持ち。といっても、海が近いからだろう、風がだいぶん強いから、実際のところはそれほど暖かいと感じるほどのことはない。

 それでも空が大きく開放感がある勝浦駅の駅前は、東京から1時間半の旅の果てにやってきたことも手伝って、だいぶレジャー、リゾート気分にしてくれる。

 駅舎やそこに通じる階段が真っ白に塗られているのも、また駅前の交番が白とスカイブルーに塗り分けられているのも、爽やかさを感じさせてくれて悪くない。

真っ白な階段を抜けて町を歩く。砂浜にポツンと赤い鳥居が建っていた

 ちなみに、その交番の脇には松前重義なる人物の石碑が置かれていた。松前さんは東海大学の創始者にして、武道大学の設立を提唱。それがきっかけとなって1984年、勝浦に国際武道大学が開校した。

 その名の通りに武道各種に加え、各種スポーツの強豪校。我らが阪神タイガースの頼れるサウスポー・伊藤将司も国際武道大の出身だ。勝浦の町も、武道大のおかげで“学生街”の一面を持ち合わせているのかもしれない。

 駅前広場をうろうろしても何にもならないので、勝浦の町を歩く。駅前から南西に向かって伸びる通りがどうやら駅前メインストリート。商店街というほどではないが、いくらか商店が並び、まっすぐ下って国道を渡ると、ほどなくリゾートホテルの三日月シーパークホテル勝浦が見えてくる。その裏手に控えているのは海水浴場だ。

 勝浦中央海水浴場と名付けられるこの砂浜の真ん中には、赤い鳥居がポツンと建っていた。近づくと、「熊野貴船神社」の扁額が。けれど、あたりを見渡しても神社らしきものはない。どういうことかと調べてみれば、昔はここに本当に神社があったらしい。

 ところが、たびたびの災害によって社殿が壊れてしまい、内陸の高台に移転。この場所に神社があったことを伝えるために、後の世の人がこの鳥居を建てたのだとか。

 いまふうの言い方をするならば、災害遺産といってもいいのかもしれない。いずれにしても、砂浜にポツンと建ち、ときに波に洗われる鳥居というのは、なかなかに風情があるものだ。

 海水浴場の脇から海に沿って歩いてゆく。すると、すぐに勝浦漁港が待ち受ける。ドデカい倉庫がずらりと建ち並び、そこからこれまた巨大なトラックが出たり入ったり。

 昼下がりに訪れたから、朝の早い漁師たちの姿はまばら。堤防に囲われた勝浦漁港には、たくさんの船が係留されていた。勝浦漁港は、カツオにマグロ、キンメなどが水揚げされる、日本有数の港なのだという。

漁港の朝市の「ことのおこり」をたどると…

 勝浦は、歴史のある港町だ。

 リアス式の海岸線で岩場が多く、沖合には黒潮が流れ、三方を囲われた天然の良港・三日月湾。これらが揃い、古くから好漁場として漁師町として栄えたという。

「勝浦」という町の名の由来も、諸説はあるがそのひとつに“勝れた浦”というものがあるくらい。記録に残らない時代でも、この地の人々は魚を捕って暮らしていたのだろう。

 海に臨む突端の八幡岬には、勝浦城というお城もあった。戦国時代には、房総を領した里見氏の家臣・正木氏が居城とし、徳川家康が関東に入ると家康譜代の植村氏が入って城下町を整えた。

 その頃には漁業のみならず、太平洋を介する海運の拠点になり、各地から物資が集まるようになっている。そうした事情を背景に、植村氏が勝浦に入って間もない1591年に始まったとされるのが、いまにも続く朝市である。

 勝浦の朝市は、農産物と海産物の交換が目的の市だった。魚は豊富にあるが農産物には事欠く勝浦の人々が、それをうまいこと手に入れるための市、というわけだ。

 上本町・仲本町・下本町というみっつの町を10日ごとに移動しながら365日毎日開かれていたという。江戸時代には、「勝浦三町江戸勝り」などと言われるほどに賑わったというから、なかなかである。

400年続く朝市の“現在の姿”

 現在でも勝浦朝市は続いている。いまでは下本町と仲本町の2町体制で、月の半分ずつ場所を入れ替えて。そして、この市が開かれる港のすぐ脇の市街地が、いまも昔も勝浦の町の中心市街地なのである。

 勝浦の中心市街地は、勝浦駅よりも港に近い。このあたり、この町が歴史的にも徹頭徹尾港町であったことを物語る。港の中心部付近から北東にまっすぐ伸びるのが仲本町通り。東側、遠見岬神社が鎮座する小高い丘沿いが下本町通り。両者は中央通りという商店街によって結ばれている。

 訪れたのは昼下がり。だから朝市の賑わいなどはまったく感じられない。が、いまもって400年以上の歴史を持つ朝市と、そこに隣接する港町。これが勝浦という町の本質であり続けているということだけは間違いなさそうだ。

発見した「歩行者専用トンネル」をぬけて脇道を進む

 そんな古い港町を抜けてゆくと、外房黒潮ラインと呼ばれる国道128号に出る。国道沿いにはコンビニやらファミレスやらがあって、現代にあってはこちらがメインストリートなのだろう。クルマの通りはひっきりなしで、それでいてちゃんとした歩道があるわけではないから、歩いているとちょっとおっかない。

 などと思っていたら、墨名歩道トンネルという歩行者専用のトンネルがあった。トンネルを抜けた先はもう一本の国道で、国道297号に通じる。トンネルの真上の丘の上には小学校。小学校方面に直接抜ける出入口も、トンネルの真ん中に設けられている。

 この歩道トンネルは、1970年代に作られたという。ちょうどクルマの交通量がどんどん増えていた時代。きっと、この地域の子どもたちが交通量の多い国道を延々と歩かず学校に通えるようにと設けられたのだろう。小さな町の真ん中で丘の下を貫く1本のトンネルに、子どもたちの安全に対するこの町の人々の思いが感じられる。

 外房黒潮ラインからこのトンネルを抜けて国道297号に出て、そのまま脇道を入ってゆくと、勝浦駅の駅前広場に戻ってくる。

 歩道トンネルは、港町と駅前の近道でもあるのだろう。駅を降り立った避暑・避寒の行楽客はそのまま海に向かって一本道を歩き、港方面にはトンネルを抜けて。それほど広い市街地でもないからわかりにくいが、意外とうまくリゾートエリアと港町エリアが分かれているような印象を抱く。

終戦直後の漁港が生んだ「魚じゃない方のグルメ」

 ともあれ、そうした港町だから、やはり目立つのは魚を食べさせる飲食店である。

 いくら流通技術が発達したとはいえ、東京のスーパーで買った刺身と勝浦のような港町で食べる刺身定食とでは、まったく味が違うような気がしてしまう。

 港町という舞台設定がそうさせている部分もあるのだろうが、やはりこうした町ではうまい魚を食いたくなるものだ。

 が、この勝浦という町にはもうひとつの名物がある。いわずと知れた、勝浦タンタンメン。

 漁師たちが冷えた体を手っ取り早く温めるために、ラー油をふんだんに使った個性派ラーメン。なんでも1950年代から提供されていたというから、そんじょそこらの町おこしB級グルメと比べたら年季が違う。きっと、国際武道大に通う体育会系大学生たちにとっても、パンチの効いた勝浦タンタンメンは愛されているに違いない。

 このように、勝浦の町は小さいながらも食べるものには事欠かず。加えて太平洋を望む絶景に海水浴場。少し足を伸ばせば守谷海水浴場もあるし、海中公園もある。

 何より、夏は冷涼冬は温暖。四季折々などと言うけれど、過酷極まる夏の暑さばかりが際立つ昨今。勝浦のような町の存在は、実にありがたい。暑さ寒さに疲れたら、勝浦に行くべきなのだ。

 だから、次の機会には、三日月シーパークホテルにでも泊まって、仕事を忘れてゆっくりしたいものである。

写真=鼠入昌史

(鼠入 昌史)

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