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「最初は『最悪な奴やな』と思っていたけど」支持者はトランプ信者と瓜二つ…斎藤元彦が兵庫県知事選挙で「まさかの勝利」を手にした理由

文春オンライン / 2025年1月30日 6時0分

「最初は『最悪な奴やな』と思っていたけど」支持者はトランプ信者と瓜二つ…斎藤元彦が兵庫県知事選挙で「まさかの勝利」を手にした理由

斉藤元彦知事 著者撮影

 2024年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが圧勝し復活を遂げた。その頃、兵庫県知事選で斎藤元彦知事の支持者たちを取材していたジャーナリストの横田増生さんは、「トランプ信者」と「斎藤応援団」が“瓜二つ”であることに気づいたという。

 ここでは22年に刊行され、トランプ復活を機に新書化された『 ルポ 「トランプ信者」潜入一年 』(小学館)から一部を抜粋。20年の大統領選挙で「トランプ信者」たちを取材した横田さんだから見えた「斎藤現象」の本質とは――。(全4回の1回目/ 続きを読む )

◆◆◆

大統領選から兵庫県知事選挙へ

 兵庫県政の混乱の発端は24年3月にさかのぼる。

 元県民局長が、知事である斎藤元彦のパワハラやおねだりなど7つの疑惑を告発する内部文書を報道機関等に送付した。以来、兵庫県政は迷走に迷走を重ねた。

 最初で最大の蹉跌(さてつ)は、斎藤元彦が公益通報者保護制度に違反する可能性が極めて高い告発者探しを行ったこと。さらに、記者会見で告発文書の内容は「噓八百」であり、書いた当事者は「公務員失格」などの強い言葉で非難した。その後、元県民局長が「一死をもって抗議する」というメッセージを残し、自殺とみられる死を遂げた。

 それを受け、兵庫県議会は調査特別委員会(百条委)を立ち上げた。だが、そこで、道義的責任を感じているかと問われると、斎藤元彦は、

「道義的責任が何か分からない」

 と言い放った。

 そのあまりに傲岸不遜(ごうがんふそん)な発言によって不信感を募らせた県議会は、全会一致で不信任案を可決した。それにより斎藤元彦は失職を選ぶことを余儀なくされた。その直後に開かれた兵庫県知事選挙に、斎藤元彦が再選をかけて立候補していたのだ。

 事前の情勢調査では、前尼崎市長で知事選に立候補を表明していた稲村和美が当選するだろう、とみられていた。

 支持母体であった自民党も日本維新の会も離れていったため、当初は誰も斎藤元彦が当選するとは思わなかった。その再起をかけた出直し選挙に私は密着取材していた。

 孤立無援の斎藤元彦が選挙戦で勝てる可能性が残っているとしたら、SNSを使った空中戦しかないだろうな、と思っていた私は、告示日前に事務所を訪れ斎藤に話を聞いた。

斎藤元彦インタビュー

 私の最大の関心事は、斎藤のネット戦略についてだった。私はこう訊いた。

──今回の選挙戦では、東京都知事選で善戦した石丸伸二のようなSNSを駆使した戦いを目指すのか。

「もちろん、X(旧ツイッター)やインスタグラム、ユーチューブも使っていきます。確かに、石丸さんの選挙戦はすごいと思いますが、私はSNSよりも、街頭演説で1人でも多くの県民に直接訴えていきたい」

──ネットには、クラウドソーシング企業のクラウドワークスが、斎藤の動画の作成を1本当たり1500円で募集しているという広告が残っていることを知っているのか。

「私がそういう募集にかかわったことは一切ありません。クラウドなんとか、という企業名さえも知りません。もちろん、私がお金を支払ったということもない。正直言って、何のことなのか、見当もつきません」(斎藤)

 この時点で、斎藤は明確なネット戦略を持ち合わせていなかった。それならこの選挙は、戦う前から、斎藤の敗北が確定しているように思えた。

 しかし、トランプの圧勝を読み切れなかったように、結果的に私は、斎藤の再選も予測できなかったことになる。

 県知事選の初日、斎藤の出陣式の直後に、斎藤を支持するという50代の会社経営者の男性の話を聞くと、わずかながら斎藤が勝利する道筋が見えてきた。

 神戸市在住の内山淑登(51)はこう話した。

「最初のころはテレビが報道する、パワハラやおねだりを鵜呑みにして、斎藤って最悪な奴やな、と思っていました。けれど、全国ネットのテレビまでが斎藤さんを叩くようになって、集団いじめのようになってきた。テレビがここまで叩くのはおかしいな、と思って調べだしたんです」

 百条委で斎藤を責め立てた県議たちのXの投稿を追うと、「えげつない」ほど斎藤を攻撃していることを知り、その反発心から斎藤を応援する気持ちが芽生えてきた。

 内山の主な情報源はXやユーチューブといったSNSであり、新聞は購読しておらず、「テレビは1ミリたりとも信用していない」と語った。

 喫茶店で1時間ほど話を聞きながら、目の前の内山と二重写しとなったのは、4年前にトランプの落選が確定した後でも、その当選を信じて疑わないと言う50代の白人男性だった。

闇の政府=ディープステイト

 ミシガン州に住むマイク・ピニュースキー(52)は、「トランプを110%支援する」と言い、「この選挙は民主党と中国共産党によって盗まれた」と私に語った。

「民主党と中国共産党がグルになって、アメリカの行く手を阻んでいるのは明らかだ。どこからの情報かって? ユーチューブやフェイスブックで探せば、いくらでも情報は見つかる。共和党は“闇の政府(ディープステイト)”に支配されているんだ。それは、今に始まったことじゃない。(2001年に起きた)9・11の同時多発テロも、当時の政権が国民を支配しやすくするために仕組まれたんだ」

 私が、当時はトランプと同じ共和党政権のジョージ・W・ブッシュが大統領であったことを指摘しても、

「そうさ、ブッシュもディープステイトの一員だったし、トランプに散々歯向かったジョン・マケイン(2008年の共和党大統領候補、2018年没)も、同じだ。トランプはこの4年間、ディープステイトという悪魔のような存在からアメリカを守るために戦ってきたし、その戦いはあと4年続くべきなんだ」

 という答えが返ってきた。

 トランプ信者も斎藤応援団も、既存のメディアに不信感を抱き、ネットで“真実”を探すうちに“覚醒”した点で一致する。その後に話を聞いた斎藤応援団のほとんどがテレビや新聞などの既存メディアを信じず、敵意に近い悪感情を抱いていたことが強く印象に残った。

 そこには、トランプ信者がトランプに盾突くマスコミをフェイクニュース呼ばわりするのと同種のメンタリティーがあった。斎藤応援団にとって大切なのは、事実よりも、たとえフェイクであったとしても自分が信じたいと思う情報だった。

 私が20年のアメリカ大統領選挙を取材する際、トランプ自身もおもしろいが、トランプの支持者はそれ以上に興味深い、と考えたように、斎藤応援団も十分に取材の対象になる、と思った。

トランプ信者と瓜二つ

 2週間強という短い選挙戦の間、ネットで“真実”に気づき、斎藤元彦を応援するようになった人が、坂道を転がり落ちる雪だるまのように急増した。当初、数十人しか集まらなかった街頭演説の聴衆は、投票日前日までには軽く1000人を超えるまでに膨らんだ。

 今回の勝因は、「斎藤vs.既得権益」という構図を作り上げ、“巨悪”に戦いを挑む孤独な男の復活劇という物語を作り上げたことにあった。斎藤が“悲劇のヒーロー”であるという言説がSNS上で拡散されたことで、多くの人の心を揺さぶり、鷲摑みにした。

 斎藤は街頭演説で、「たった1人で始めた選挙戦だったんです」と語った。「最初に駅立ちをしたときは、本当に怖かったんです。石を投げられるんじゃないか、殴られるんじゃないか、と思っていました。県議会からも、職員組合からも、マスコミからも、副知事からも辞めろ、辞めろ辞めろのオンパレードでした。しかし、そんな声には絶対に負けるわけにはいかないんです。県政改革を止めるわけにはいかないんです」と、繰り返し語った。

 最終日の街頭演説には、斎藤が話をする間、ハンカチで何度も目頭を押さえながら聞き入っていた初老の女性がいた。私の視線は、涙を流しながら演説に聞き入るその女性に釘付けとなった。

 今回の県知事選挙によって兵庫県が、阪神大震災以来といわれる大きな注目を集めるようになった背景には、《NHKから国民を守る党》の党首である立花孝志が、斎藤元彦を応援するために知事選に立候補したことがあった。

 立花は、斎藤元彦の街頭演説の前後について回り、斎藤はパワハラしていない、元県民局長の死亡は自らの醜聞が暴かれるのを苦にした結果である、などの真偽不明な言説を繰り返し、さらにネット上で拡散することで斎藤の当選を後押しした。

 加古川市に住む高見充(52)はこう話した。

「立花さんのユーチューブを見て、テレビがウソをついていたことが分かりました。自分がどれだけ洗脳されていたかに気付いたんです。立花さんが立候補していなかったら、稲村和美さんに入れていました。立花さんは5~6年前からずっとフォローしていて、100%信用しています」

 そう答えたのは高見1人にとどまらなかった。選挙期間中に取材した人で、立花孝志の発信する情報をまったく知らないと答えたのは、1人だけだった。大多数の斎藤支持者は、立花の撒き散らす無責任な言動の中に“真実”を見つけ出し、斎藤を応援したのだ。

 けれども、選挙戦が終わると、立花孝志は、「斎藤さんはパワハラしていました」と前言を翻えし、元県民局長のプライベートな問題の核心部分についても、話を二転三転させた。

 そんな立花孝志と斎藤元彦が二人羽織のような選挙を行ったことで、日本にも“トランプ現象”が起こりつつあるのを目の当たりにした。

 投開票日の午後8時、まさかの“ゼロ打ち”で、メディアが斎藤元彦の当選確実を伝えると、事務所前に集まった数百人の応援団からは大きな歓声と斎藤コールが沸き起こった。

 斎藤コールの間には、「マスコミの負けや!」、「(マスコミは斎藤に)謝れ!」という声も挟まった。

 斎藤元彦が勝利宣言のために事務所前に姿を現すと、多くの支持者がスマートフォンを高く掲げ、斎藤の勇姿を記録しようとした。その様子は、10日ほど前にトランプが当選を果たした夜のトランプ信者の姿と瓜二つだった。

 ウソと虚飾にまみれた兵庫県知事選は、まさかの逆転劇で幕を閉じ、斎藤元彦が再選を果たした。

 4年前には、ともすれば対岸の火事かとも思えたトランプ現象が、日本に上陸した日として、さらには日本の政治の分水嶺となった選挙戦として長く記憶されることになるかもしれない。そう思いながら、私は神戸での取材を終えた。

〈 息子2人と応援に来た牧師、スタバで働く5児の母、爆音で音楽を流すトレーラーの運転手…集会に潜入取材して見えた「トランプ信者」の顔 〉へ続く

(横田 増生/Webオリジナル(外部転載))

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