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息子2人と応援に来た牧師、スタバで働く5児の母、爆音で音楽を流すトレーラーの運転手…集会に潜入取材して見えた「トランプ信者」の顔

文春オンライン / 2025年1月30日 6時0分

息子2人と応援に来た牧師、スタバで働く5児の母、爆音で音楽を流すトレーラーの運転手…集会に潜入取材して見えた「トランプ信者」の顔

トランプの私設応援団長のロブ・コーティスの車両「TRUMP UNITY」 著者撮影

〈 「最初は『最悪な奴やな』と思っていたけど」支持者はトランプ信者と瓜二つ…斎藤元彦が兵庫県知事選挙で「まさかの勝利」を手にした理由 〉から続く

 2020年、ドナルド・トランプは再選をかけてアメリカ大統領選挙に挑み、そして敗北した。これまでアマゾンやユニクロの潜入取材をしてきたジャーナリストの横田増生さんは、その時アメリカにいた。トランプ陣営にボランティアとして潜入し、支持者たちを取材していたのだ。

 ここでは22年に刊行され、トランプ復活を機に新書化された『 ルポ 「トランプ信者」潜入一年 』(小学館)から一部を抜粋。オハイオ州北部のトレドで開かれた支援者集会に参加した横田さんが目の当たりにした「トランプ信者」の実像とは――。(全4回の2回目/ 続きを読む )

◆◆◆

「ほかの政治家とは違い、必ず約束を守る」

 トレドに到着した私がいったんホテルに荷物を置き、会場に来たのは、午後6時すぎ。すでに、警備のための警察車両や、マスコミが集まっているのが見える。

 ひときわ目立ったのは、会場の真ん前の駐車場にピックアップトラックを停め、その後ろに、「TRUMP UNITY」という文字を載せた15メートルほどのトレーラーを積んで、大音量で『Y・M・C・A』のメロディーにトランプを称賛する歌詞をのせた音楽を流していた男性だ。静まったダウンタウンが、目を覚ましそうな音量だった。男性は眼鏡をかけて、「トランプ 2020」の文字が入った毛糸の帽子を被っていた。

 いったい何をしているんですか? と、思わず声をかけずにはいられなかった。

 男性の名前は、ロブ・コーティス(54)。映画のPR会社を早期退職し、16年から、勝手連としてトランプを応援しているのだという。

「住んでいるのはミシガン州のデトロイト郊外だよ。そこから、このトラックで、ハワイとアラスカを除く本土全48州を回り、トランプを応援しているんだ。これまで2万6000マイル(4万1600キロ)を走った」

 ──なぜそんなことをしているのですか。

「大統領の前向きなメッセージを伝えて、アメリカを勇気づけようとしているんだよ。トランプはもともと政治家じゃないだろう。不動産業で大成功したビジネスマンだ。その経営者のセンスを活かして、アメリカという国の舵かじ取りをしてほしいのさ。それに、彼の語る家族を大切にする価値観も大好きだ。運動資金は支援者からの寄付金だ。10万ドル以上が寄付で集まったし、自分自身のお金も使っている」

 ──トランプのどこが好きですか。

「大統領の言っていることは、いつも筋が通っている。それにほかの政治家とは違い、必ず約束を守るだろう」

 ──トランプの選挙公約の1つに、海外での戦線を拡大しないというのがありました。けれど、数日前に、アメリカ軍がイランの軍司令官ソレイマニを殺害したため、アメリカとイランは今、戦争の瀬戸際にあるとも報道されています。

「それはフェイクニュースだ。イランへの攻撃は、残酷なテロリストに対してきちんと対応しただけだよ。戦争なんかにはならないって、大統領自身が言っているじゃないか。それに、健康保険制度も見直しているし、退役軍人への保護も手厚くしている。女性だってちゃんと尊敬している。大統領は中絶を認めない生命尊重派(プロライフ)の立場だ。オレ自身、クリスチャンだから、そこは譲れないポイントだな」

 生命尊重派という言葉は、大統領選挙に限らず、アメリカで生活していると必ず出くわす言葉だ。反対に中絶を肯定する立場は中絶擁護派(プロチョイス)と呼ばれる。日本では想像しづらいが、中絶を容認するか否かは、アメリカでは大きな政治問題の1つだ。大きく分けると、共和党が生命尊重派で、民主党が中絶擁護派の立場をとる。

 トランプは昨年19年末、下院で歴史上3人目の弾劾を受けた大統領となりました、と私が尋ねると、相手の表情が険しくなるのが分かった。

「それもフェイクニュースに決まっているじゃないか! たとえば、オレがあんたのことを気に入らないっていう理由で弾劾することもできるんだぜ。それをあんたなら受け入れるのかい。あれは民主党の一方的な弾劾であって、そんなことには、なんの意味もないね」

 トランプにぞっこん入れ込んでいるコーティスに訊いてみた。トランプに不満な点はないのか、と。

「そうだな。ヒラリー・クリントンやジョー・バイデン、(民主党の大物上院議員の)チャック・シューマーを、まだ監獄に送っていないことかな」

 冗談かと思って相手の顔を覗き込むが、目は笑っていない。

 いったい何の罪で彼らを監獄に送れるというのか、と訊きたかったが、なんせ流れている『Y・M・C・A』のボリュームが大きすぎて、これ以上会話を続けるのが難しかった。

 この最初に話を聞いたコーティスとは、そのあとも何度も顔を合わせる。同じようにトランプを追いかけているのだから、広いアメリカであっても、不思議なことではなかった。

「思ったことを思ったように口にできる勇気」

 その後、会場の入り口付近で待っている人びとがいるところに移った。簡易テントや寝袋などを持ち込んで順番待ちをしていたのは10人強。

 夫婦で列の一番前に折り畳み式の椅子を置いて座っていた女性に声をかけた。

 女性の名前はオータム・レンズ(39)。

「ここから20マイルほど南にある町からきたわ。私はその町の共和党の委員会に所属しているの。トランプ大統領の集会に来るのはこれで3回目。1回目と2回目は、16年だったわ。大統領が大好きな理由は、彼なら他人を怒らせるようなことでも、躊躇なく口にすることができるでしょう。ほかの政治家は、政治的に正しいかどうかなんて細かいことばかりを気にするけれど、彼にはそんなところはない。思ったことを思ったように口にできる、勇気がある大統領なのよ。体裁を気にした発言はしないわ」

 ──女性蔑視と思われるような発言も少なくありません。

「それは気にならないわ。男性はしょせん男性だもの」

 ──とはいえ、大統領には一般の人よりも高い倫理観が求められるのではないですか。

「そんなことを言い出したら、大統領になれる人なんていないんじゃないの。ジョン・F・ケネディだって、トランプとは比べ物にならないくらい女性関係は派手だったというでしょう」

 彼女の次の言葉を聞いて、私は意表を突かれた。

「18歳から約20年間、私はずっと福祉のお世話になってきたの。去年の春、工場の仕事を見つけるまではね。10月からは、ここから歩いて数分のスターバックスで働いているの。どっちが好きかって? そりゃ、スターバックスよ。だって、私はコーヒーが大好きだし、そのコーヒーのお店で働くんだから。これもトランプ大統領のおかげで景気が上向いたからだ、と感謝しているわ」

 長年福祉に頼るほど困窮している人は、民主党を支持する傾向が強い。民主党は、フランクリン・D・ルーズベルト大統領以降、社会的弱者の味方の旗を鮮明に掲げてきたからだ。なぜ、彼女は共和党員なのだろう。

「最近、再婚するまで、私1人で子ども5人を育てる間、どうしても福祉に頼る必要があったわ。でも、自分の生活費は自分で稼ぎたいじゃない。それがアメリカって国でしょう。自分のことは自分で面倒みるっていうことが」

 うーん、なるほど。

 たしかに誰にも頼らないという姿勢が、アメリカ人の生活の根幹にある。誰かに頼るということは、この国では弱さや甘えとして見下されがちである。20年近くも福祉に頼りながら、そこから脱却したいと願い、それを果たしたというのはアメリカ人らしいな、と感じた。

不人気と熱狂的支持

 まだ、いろいろな人の話を聞きたかったのだが、私の防寒着があまりにも貧弱すぎて、氷点下の寒風の中では、ペンを持つ手が震えた。ノートに文字を書くのさえ難儀した。翌日の朝、着込んで出直すことにした。

 翌日は朝9時から、集会の会場に戻り取材を再開した。

 会場近くの駐車場に車を停めようとすると、1日20ドルだという。その看板の裏を見ると、24時間で5ドルと書いてある。集会で人が集まるのを見込み、日頃の4倍の料金を吹っかけているのだ。それでも、満車になるほど車が押しかけていた。

 会場に到着すると、道端にはすでに、トランプの帽子やマフラー、バッジなど、さまざまなトランプグッズを売るスタンドがいくつも立っている。ホットドッグやコーヒーを売るトラックも5台停まっていた。ちょっとしたお祭り騒ぎである。

 私は支持者の話を聞き終わると、場所を後ろにずらし、次の取材相手を探していった。

 この日、最も印象に残ったのは、「アメリカを偉大なままに!」の赤い帽子を被り、同じ色のトレーナーを着て、背中には星条旗をまとっていた男性だった。

 平日はエネルギー関連会社で働き、日曜日はキリスト教右派の福音派の教会で牧師を務めているというデービッド・カーペンター(53)だ。

「どうして集会に来たかって? トランプは、最も嫌われている大統領だろう。だから、私のような支持者もいることを伝えたくって、息子2人を連れてやってきたんだ。娘もいるんだけれど、今は大学に進学してオハイオを離れているんでね。でも、オハイオにいたのなら連れてきただろう。そう、我が家は妻を含めた5人家族で、みんなトランプ支持者だよ。大統領にも我が家のような支持者がいるってことを見せたくってね」

 トランプがアメリカ史上最も嫌われている大統領というのは、その通りである。

 世論調査会社ギャラップによると、トランプ政権の発足から2020年1月の時点までの平均の支持率は41%。最高値で49%、最低値で34%である。

 支持率が50%を超えたことがないのは、トランプが初めてだ。

 もちろん支持率には波があるものの、オバマ政権の最高支持率は69%、ブッシュ政権(子)は90%、クリントン政権は73%――。彼らと比べると、トランプがいかに不人気なのかが分かる。統計を取り始めたルーズベルト以降で支持率の平均値が53%であるのと比べても、ずいぶんと見劣りがする。

 一方でトランプの不支持率は、大統領就任直後の47%が一番低く、その後、60%に達したことが5回ある。

 カーペンターの言う通り、こんなに人気のない大統領はこれまで存在しなかった。

 しかし、それでもトランプ再選の可能性が決して低くないとされるのは、徹夜をしてでもトランプを見たいという熱狂的な鉄板支持者がいるからだ。

 カーペンターが牧師を務める福音派のキリスト教徒も、トランプの鉄板支持者として知られる。有権者の26%を占める白人福音派のうち、前回の大統領選挙では、その8割以上がトランプに投票している。

国民皆保険に反対

 話をカーペンターとの取材に戻そう。

 ──トランプのどこが好きですか。

「オバマは、イランやアフガニスタンなどの政策でぶれるところがあったと思っている。もっと一貫性を持ってほしかったね。外交面でオバマは弱腰に見えたんだ。それに対し、トランプは一貫しているよね。言うことにもやることにも、すがすがしいほどブレがない」

 その直後、カーペンターが驚くべきことを口にした。

「僕はオバマが掲げた保険制度には反対だった。保険は一人ひとりが自由に選ぶべきだと思っている。トランプはそれを元に戻そうとしているだろう。僕自身、去年1月に前立腺ガンの手術を受けたけれど、会社の保険があったので7000ドルの支払いだけで済んだ。保険がなければ、40万ドルかかっただろうね」

 どちらの数字も信じられず、私はノートに書いた数字をカーペンターに見せたが、数字に間違いはない、と言う。アメリカで病気にかかったために毎年何万人もが破産するというのは本当だな、と実感した。

 保険があっても前立腺がんの治療に7000ドルというのは高すぎる。無保険ということは保険に入る金銭的余裕がないということなのに、40万ドルの治療費なんか払えるわけがない。

 そうした数字は、アメリカの保険制度には改革が必要だという証左だ、と日本人からすると考えがちだが、カーペンターは違うと言う。

「どういった健康保険に入るのかは、個人的な問題だ。それを政府のお仕着せで、みんなが同じ制度に入ることには強く反対するよ」

 生まれてきたときから国民皆保険という制度を享受して日本で育ってきた身には、なんとも理解に苦しむ話である。しかし、その声はアメリカでは決して少数派ではない。共和党支持者はもちろん、民主党支持者の中でも国民皆保険に否定的な意見を持つ人は少なくない。

 支持者の話を聞いていて思ったことは、トランプも興味深いのだが、トランプ支持者の話もそれ以上におもしろい、ということだ。トランプと並んで、その支持者たちもこの本の主役として扱えないだろうか、などと考えをめぐらせた。

〈 冗談のネタ→信用できるビジネスマンに…トランプのイメージを変え「大統領になるための武器となった」日本人は知らない“リアリティ番組” 〉へ続く

(横田 増生/Webオリジナル(外部転載))

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