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冗談のネタ→信用できるビジネスマンに…トランプのイメージを変え「大統領になるための武器となった」日本人は知らない“リアリティ番組”

文春オンライン / 2025年1月30日 6時0分

冗談のネタ→信用できるビジネスマンに…トランプのイメージを変え「大統領になるための武器となった」日本人は知らない“リアリティ番組”

20年の大統領選挙でトランプ陣営にボランティアとして潜入し、支持者たちを取材した横田増生さん 著者撮影

〈 息子2人と応援に来た牧師、スタバで働く5児の母、爆音で音楽を流すトレーラーの運転手…集会に潜入取材して見えた「トランプ信者」の顔 〉から続く

 2024年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが圧勝し復活を遂げた。

 遡れば00年、トランプが第3党だった改革党からの出馬を検討すると言い出した際には、世間では物笑いの種として扱われた。しかし、その後の16年には共和党の候補者として大統領選に出馬し、大勢の予想を覆して大統領となった。

 その間に世間のトランプ像に一体どんな変化があったのか。ここでは22年に刊行され、トランプ復活を機に新書化された、ジャーナリスト・横田増生さんの『 ルポ 「トランプ信者」潜入一年 』(小学館)から一部を抜粋。

 現在公開中の映画タイトルにもなった、日本人が知らない「トランプのリアリティ番組」とは――。(全4回の3回目/ 続きを読む )

◆◆◆

リアリティ番組出演

 トランプが改革党からの出馬を諦めたころ、あるテレビディレクターが、トランプに目を留めていた。リアリティ番組『サバイバー』で数百万人の視聴者を獲得したディレクターが、都会を舞台にしたリアリティ番組を企画していた。

 アリが蜜に集まるように、若者が群れ集い、都会で鎬を削るような番組が作れないものか、と考えていた。

 番組を牽引するような好感度が高い人物で、精神的にもタフで、視聴者の興味を惹きつけることができる人物として、トランプに白羽の矢を立てた。番組を放送するのは3大ネットワークの1つであるNBCだ。

『見習い生(アプレンティス)』では、16人の若者を2チームに分けて競い合わせる。敗北したチームからは、毎週1人か2人が、トランプから「お前はクビだ!(Youʼre red!)」と告げられ、番組から去って行く。最終的な勝者が手にするのは、トランプのもとで見習いとして1年間働く権利である。トランプの決め台詞となる「お前はクビだ!」は、トランプのアドリブから生まれた。

 番組は華やかで陽気で、ウォール街に象徴されるアメリカの実力主義を手本にしている。キャッチーな主題歌から始まる。『アプレンティス』は典型的なリアリティ番組であり、ゲーム的な要素とドキュメンタリーの要素、それにメロドラマとコメディーをうまく混ぜ合わせた仕上がりとなっていた。

 初回が放送されたのは04年のこと。

 番組はリムジンに乗って移動中のトランプの独白から始まる。

「俺の街、ニューヨーク。ここは世界経済の車輪が止まることなく回り続ける場所だ。比類ない力と目的を秘めたコンクリートで作られたこの大都市は、あらゆるビジネスを突き動かす。マンハッタンは厳しい場所だ。ここは本当のジャングルなんだ。ぼやぼやしていると、この街に飲み込まれ、吐き捨てられてしまうだろう」

「俺の名前は、ドナルド・トランプ。このニューヨークで最大の不動産開発業者で、至る所にビルを所有している」

「けれど、すべてが順風満帆だったわけじゃない。13年前、俺はドツボにはまった。何十億ドルもの借金を抱えた。だが、俺は猛然と戦い、そして大きな勝利を手にしたんだ。そのためには、自分の頭脳や交渉術を駆使した。それらのすべてがうまくいったおかげで、俺の会社は今、以前よりもはるかに大きく、力強くなった」

「俺は今、一緒に働く見習いを探しているところだ」

 おもしろければいい娯楽用テレビ番組では、事実確認(ファクトチェック)など働くはずがない。

 番組は、トランプが決してニューヨークで最大の不動産開発業者ではないことや、トランプが経営する企業が依然として倒産の危機に瀕している事実には、目をつぶった。

成功した起業家イメージ

 番組が成り立つためには、トランプの下で見習いとして働くという褒賞がどれほど魅力的であるのかを描くことが大前提だった。トランプはビジネス界における理知的な大立者であり、生まれついてのリーダーだと描かれている。

 それが成り立つためには、出演者の誰一人としてトランプを批判しないことが必要だった。実際の番組では、トランプがいないときでさえ、参加者はトランプへの賞賛を惜しまなかった。こうして、実社会でトランプが引き起こした浮気や離婚による女性問題の醜聞、さらには度重なる企業倒産もきれいさっぱり洗い流される。

 トランプの参加者に対する攻撃的な物言いも、番組では、子どもを思う父親の愛情に裏打ちされた叱責へと変換される。なんといっても、トランプは家族思いで、天賦の才能を持ったビジネスマンなのだから。参加者はトランプの意見を、それが否定的なものであっても、ありがたく受け入れる。

 忙しい本業の合間を縫って番組に現れるという体裁で出演しているトランプは、いつでも番組をすっぽかすことだってできる。もちろん、1回出演するたびに約10万ドルを手にしていたトランプが、番組の収録をすっぽかすことなど一度もなかったわけだが。

 2000万人のアメリカ人が初回の放送を見ると、『アプレンティス』はドル箱番組となった。シーズンの終わりには視聴者数が2700万人に上り、視聴率では全米7位に入った。番組が始まる前、トランプは最初のシーズンだけに出演する予定だったが、以後10年間にわたり出演することになる。アメリカ人の眼底には、テレビに映し出された、成功した起業家然としたトランプのイメージが焼き付けられた。

 日本人には、この『アプレンティス』に出演したトランプのイメージが欠落している。『アプレンティス』は、DVDもほとんど流通しておらず、第1シーズンが中古品としてアマゾンなどのネット通販で買えるだけなのだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の記者で『トランプ王国』の著書があるティモシー・オブライエンは、公PBS共放送サービスの番組でこう語っている。

「トランプはそれまで長い間、冗談のネタとして扱われてきたが、『アプレンティス』に出演したために大逆転を果たした。真のキャリアを持った信用できるビジネスマンとしてアメリカ人の目に映るようになった。リアリティ番組のスターとなったトランプは、現実の政界でもスターになれるかもしれない、と考えるようになった」

 トランプの政治顧問を務めるロジャー・ストーンは、同じ番組でこう語っている。

「いつも完璧な照明を当てられ、服装から髪型まできれいに整えられたトランプを見た視聴者は、16年の選挙での投票者になった。番組は、トランプが大統領になるための最大の武器となった。エリートの中には、たかがリアリティ番組じゃないか、と言う人もいるだろうが、テレビのニュース番組も、ほかの娯楽番組も、同じテレビ番組なのだから」

 トランプ自身も15年、ワシントン・ポスト紙の取材にこう答えている。

「『アプレンティス』で得た尊敬、知名度、そしてお世辞はこれまでとは比較にならないものだった。まさに次元が違ったのだ。俺は今、アメリカを再び素晴らしい国にするために(大統領選に)立候補するが、知名度の高さがそれを助けているのは事実だ」

 トランプは『アプレンティス』への出演を機に、エンターテイナーとしての腕と話術を磨いていく。

 同番組の高視聴率の余勢を駆って、トランプは04年、『サタデー・ナイト・ライブ』にホストとして出演した。1週間の時事ネタをコントやミュージカル仕立てにして生放送する人気番組。この番組に出演しただけで、週明けのニュースとして扱われるほどの影響力を持つカリスマ番組だ。

 ブルーのスーツと赤のネクタイ姿で現れたトランプは冒頭で、「こうして『サタデー・ナイト・ライブ』に出演できて、本当に光栄に思う。でも率直に言って、俺がいまここにいることで、番組が得ているメリットのほうが大きい。俺ほど重要な人物はいない。俺ほど優れた人物もいない。俺は高視聴率を生み出すマシーンだ」と大見得を切った。

 翌05年には、エミー賞の授賞式で、麦わら帽子にオーバーオールを着て左手に干し草用のピッチフォークを持って、映画女優と一緒に、60年代に大ヒットしたテレビ番組『農園天国』のテーマ曲を歌い、聴衆から拍手喝采を浴びている。

 こうしてトランプは、将来の大統領選出馬の可能性を探りながら、着実にテレビ映えする技術やノウハウを蓄えていった。

〈 晩餐会でオバマに笑い物にされ…「じっと座って怒りに耐えていた」トランプが、復讐のために大統領選への出馬を決意した“屈辱の夜” 〉へ続く

(横田 増生/Webオリジナル(外部転載))

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