“トランプタワー”に登り、“安倍神像神社”を探るべく長野の秘境に分け入って…SNS時代の「新しい愛国」の正体に迫る
文春オンライン / 2025年2月3日 6時0分
『ルポ国威発揚 「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(辻田真佐憲 著)中央公論新社
これまで私は、幾度か辻田氏と対談してきたが、そのときの印象は「この人は天性のインタビュアーだ」であった。綿密な下準備、先入観の排除、丁寧だが即興性のある質疑、そのどれもが有能なインタビュアーの資質を示していた。が、その資質はそのままルポライターの資質でもあろう。しかも、その対象が感情渦巻く政治プロパガンダとなれば猶更である。辻田氏の著書『ルポ国威発揚』は、まさにこのバランス感覚を示した好著である。
「国威発揚」と聞くと、一部のインテリは「つくられた伝統(虚構)」だと言って軽蔑するが、そんなことは批判にならない。いや、全ての「伝統」は、そもそも作られたものなのである。人間が孤独を恐れる動物である限り、人はその孤独を克服するために共同体を作り、国家を作り、歴史を作り、その内(味方)と外(敵)を区別し、それを物語るために「国威発揚」の感情にコミットしてきた。辻田氏はそれがよく分かっているのだ。
その上で辻田氏は、消費社会の政治的動員のあり方を見届けるために米国のトランプタワーに登り、令和の神武天皇像に会うために岡山の離島に向かい、安倍神像神社の実態を探るべく長野の秘境に分け入る。歩いた国は、アメリカ、ドイツ、インド、イタリア、ベトナム、フィリピン、中国、台湾に及び、訪問先も博物館、史跡、公園、銅像、記念碑と幅広い。それを著者は、改めて「偉大さをつくる」「われわれをつくる」「敵をつくる」「永遠をつくる」「自発性をつくる」という主題で纏めるが、その「つくる」現場において常に感じられるのは、ときには「上から」、ときには「下から」作られる「国威発揚」の多様性であり、また、見せたいものの裏に張り付いた見せたくないものの存在であり、さらには見せる気もなかったものの裏に存在する本当に見るべきものの存在である。そこには、歴史を作り出そうとする人間の情熱と、それが導く意図と効果のズレ、その「揺らぎ」が記されている。
が、辻田氏をして、この「揺らぎ」に向かわせているのは、もしかすると氏自身の若い頃の経験なのかもしれない。平和教育に反発して保守系論壇誌を読み漁るも、その後に台頭する嫌韓ナショナリズムや在特会への違和から右派の言論からも離れたという辻田氏は、歴史に纏いつく感情と、それへの距離感のなかで自分のバランス感覚を形作ってきたのだった。
その点、トランプ再選でグローバリズムの終焉とナショナリズムの復権が言われる現在、「再プロパガンダ化」する世界に対する適切な距離感を見出すためにも、本書におけるバランス感覚は重要だろう。「国威発揚」に踊りながらも醒めること、あるいは醒めながらも時に踊ってみせること、その余裕とユーモアが、今、求められている。
つじたまさのり/1984年大阪府生まれ。評論家・近現代史研究者。著書に『「戦前」の正体』『防衛省の研究』『超空気支配社会』『大本営発表』、共著に『教養としての歴史問題』『新プロパガンダ論』、共編書に『文藝春秋が見た戦争と日本人』等。
はまさきようすけ/1978年埼玉県生まれ。文芸批評家。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員。京都大学大学院特定准教授。
(浜崎 洋介/週刊文春 2025年2月6日号)
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