「トランプが勝ってほっとしました」評論家・與那覇潤氏は、なぜ米大統領選の結果を首肯したのか?
文春オンライン / 2025年2月7日 17時0分
2022年に来日したカマラ・ハリス氏(左)と岸田文雄氏 ©JMPA
月刊文藝春秋で「『 保守』と『リベラル』のための教科書 」を連載している文芸評論家の浜崎洋介氏と評論家の與那覇潤氏。アメリカ大統領選から「リベラル」の現在の傾向について分析した。
◆◆◆
トランプが勝って「ほっとした」
與那覇 浜崎さんとは、本誌の読書欄で連載〈 「保守」と「リベラル」のための教科書 〉を持っています。しかし、そこでリベラルを担当している僕でさえ、今回ばかりはトランプが勝って実はほっとしました。
浜崎 え、そうなんですか。トランプ勝利を寿ぐ人が、リベラルにいるとは思っていませんでした(笑)。
與那覇 保守に寝返ったわけではなくて(笑)、対抗馬のカマラ・ハリスの選ばれ方が本当にダメだった。あれで勝たせたら、逆にリベラルを堕落させると強く危惧したのです。
そもそも高齢のバイデン大統領は1期かぎりで、「再選はめざさずに譲る」想定でハリスを副大統領にしたはずでしょう。しかし彼女は仕事ができず、評判が悪いので、「勝つためには自分でないと」としてバイデンが出馬せざるを得なくなった。
ところが会話も苦しい状態のバイデンが、テレビ討論でトランプに大敗すると、手のひら返しで「勝つためには他の人で」となり、急遽ハリスが民主党の候補になった。
驚くのはその後、ダメだとわかっているはずのハリスをリベラル派が持ち上げたことですよ。しかも、勝負の懸かった米国の民主党員ならともかく、日本の識者がそれをやる。
他にいないので「嘘でもいいからハリスに期待しよう」といった“希望の切り下げ”を続ければ、最後は「トランプでなければ誰でもいい」となってしまう。これでは民主主義が質を問わないものになり、“社会の底”が抜けてしまいます。
浜崎 いまの米国の民主党を見ていたって、「リベラルを擁護する」と言っても、「誰の何の自由を擁護しているのか」が全く分かりませんね。
與那覇 トランプなる「敵」と戦うぞという以外に、内実がない。同じ傾向は、安倍長期政権を経た日本のリベラル派により顕著です。
保守派が政権を独占すると、打算的な人はみんな「僕は保守です」と名乗るでしょう。結果としてリベラル派は、「リベラルを名乗ってくれるだけでいい」といった空気になり、識者の質を問わなくなりました。
芸能人がSNSにちょっと“意識の高い”投稿をしたら、「この人はリベラル!」みたいに群がるとか。そこまで空疎な記号になってしまった。
エリート主義がもたらすリベラルの凋落
浜崎 それは「ポスト冷戦期のリベラルの頽落」という問題ですね。
先進各国は、第二次大戦後に高度経済成長を達成し、さらに冷戦後の世界で「リベラリズム(自由主義)の一人勝ち」を実現した。だから、それ以上「リベラリズムの擁護(〜からの自由)」を訴える必要などなかったんです。それでも「リベラル」という言葉に無理に拘るから、「アイデンティティ・ポリティクス」のような“些末”な問題へと向かってしまった。それに対して、むしろトランプの方が、例えば副大統領候補のJ・D・ヴァンスが『ヒルビリー・エレジー』で描いたような、米国の繁栄から取り残された白人労働者階層を救おうと声を上げた。労働者の現状よりアイデンティティ・ポリティクスを重視するのは、リベラリズムではなく、エリート主義です。
社会における議論や対話は、ある程度の「平等」が保たれて初めて成り立ちます。今はその議論の土台自体が壊れているのに、そこに目を向けずに、学歴エリートの内輪だけで自己陶酔的に「リベラル」を語るのはどうかしています。
與那覇 ハリス陣営が人気の歌手や俳優ばかりを選挙集会に呼んだ「セレブ戦術」が、いまやすっかり敗因扱いなことにも通じますね。トランプの側は「向こうの集会は働く必要のない奴らが来ているが、こっちは働く人の代表が来ている!」と逆手にとり、成果を上げました。
昨年の連載でフォークナーの『響きと怒り』を取り上げ( 11月号 )、かつて南北戦争の後の南部に満ちていた「怒り」が、全米規模になっていることに向きあわないとダメだと書いたものとしては、「ほれ見たことか」という感じです。しかしいまのリベラルには、そうした教養がない。未来志向と称して、過去を振り返らず、歴史に学ばないからです。
※本記事の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(「 SNS選挙は民主主義なのか 」)。全文では、二人が考える民主主義の本質、「草の根の民主主義」を否定する左派の腐敗、「極右・極左」のレッテル貼りの問題などについて語られています。
・この対談は、動画でもご覧いただけます。
【動画】浜崎洋介×與那覇潤「2025年、“民主主義“は終わるのか?」 「極右」と「極左」のポピュリズム政治へ
(浜崎 洋介,與那覇 潤/文藝春秋 2025年2月号)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
トランプ新政権枢要の女性たち
Japan In-depth / 2025年2月3日 14時54分
-
リベラル左派の将来は暗い?!
Japan In-depth / 2025年1月27日 22時33分
-
トランプ氏就任式に見た「男社会」への揺り戻し ビリオネアも民主党重鎮もいつの間にか"迎合"
東洋経済オンライン / 2025年1月21日 14時0分
-
【米大統領選を受け緊急重版!】今のアメリカを理解するための必読書『リベラリズムへの不満』(フランシス・フクヤマ著、会田弘継訳、新潮社)
PR TIMES / 2025年1月18日 10時40分
-
移民問題がカナダを二分...トルドー辞任と進歩派指導者が直面する「二重の圧力」
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月14日 18時59分
ランキング
-
1奈良県で道路下に空洞疑い38か所、レーダーで検査へ…大型下水管に異常なし
読売新聞 / 2025年2月10日 19時12分
-
2昨年6月から行方不明の52歳妻を遺棄した疑い、35歳男を逮捕…遺体は見つからず
読売新聞 / 2025年2月10日 20時43分
-
35年前の神戸のビル火災 放火・殺人の疑いで70歳男逮捕「私は火をつけていません」58歳男性が急性一酸化炭素中毒で死亡
MBSニュース / 2025年2月10日 16時55分
-
4福島市の県道で通行止め解除直後に雪崩が発生 野地温泉が再び孤立・福島県
福島中央テレビニュース / 2025年2月10日 17時4分
-
5八潮の陥没事故、運転手の捜索を下水道管に移行…「穴内部で発見の可能性ない」と小型カメラ投入
読売新聞 / 2025年2月10日 15時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください