「天使は優等生っぽいから……」伊坂幸太郎さんが語る、あの“人気作”の主人公ができるまで
文春オンライン / 2025年2月5日 6時0分
『死神の精度』新装版は2025年2月5日発売 ©文藝春秋
2005年に単行本が刊行され、2008年に初文庫化された伊坂幸太郎さんの初期代表作『死神の精度』。デビュー25周年となる2025年に 新装版 で再文庫化された本作について、著者にお話を伺いました。
天使は優等生感がありすぎるから、主人公は「死神」に決定
──第一編「死神の精度」は、デビューから丸3年経った2003年末に雑誌掲載されました。執筆当時のこと、覚えてらっしゃいますか。
伊坂 これはかなりよく覚えているんですよね。これまで四半世紀くらい小説を発表してきた中で、突貫で仕上げたランキング二番目ぐらいの作品なんです。「オール讀物」の編集者から短編を一本書きませんかと依頼が来て、最初に書いたのは全然違う話でした。その話は結果的に『オー!ファーザー』(2010年刊)という長編になるんですが、長すぎたんですよね。「もう少し短くできないか」と言われたんですけど、短くはできないので、それは別に取っておいて、締め切りを一週間延ばしてもらって新しいものを書くことにしたんです。
焦ってアイデア帳を見返してみたら、電話交換手だった女性が……という逸話のメモがあって「これだ!」と。ただ、この逸話を使って謎とオチは作れるとしても、問題は誰を探偵にするのか。ネタが地味だから、探偵は突飛な存在にした方がいい。奥さんとモールのスタバに行って、ネタ出しに付き合ってもらいました(笑)。
──探偵が、死神になった経緯とは?
伊坂 ヴィム・ヴェンダースの映画 『ベルリン・天使の詩(うた)』(1987年)が念頭にあったんだと思います。天使が当たり前のように人間の世界にいる雰囲気が面白くて、そういう感じがいいなあ、と。でもそのまま天使にするのはベタだし優等生感やハッピーエンド感があり過ぎるから、じゃあ死神かな、と(笑)。あと、藤子不二雄先生が、キャラクターを作る時は、そのキャラクターの好きなものと嫌いなものを決めればいいとおっしゃっていた気がするので、死神の好きなものは音楽で、嫌いなものは渋滞! と決めて(笑)。
冒頭で「死ぬのが怖い」と言う床屋の主人に、死神が「生まれてくる前のことを覚えているのか?」と話すくだりも、僕の父親が昔言っていたことをそのまま使っています。締め切りまで一週間しかないから、とにかくひたすら書いていったんです。
──本作は翌年、第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞しました。
伊坂 本当に驚きました。僕はミステリーが好きだったので、最後で、かなりのどんでん返しがなければいけない、という気持ちが強かったんですよね。このお話は「ああ、なるほどね」という納得感とか、おかしみみたいなものは楽しめるけれども、サプライズは弱い気がして、ミステリーを書いたという気持ちはあまりなかったんです。ミステリーとして受け入れてもらえたことは、その後の自分にとって結構大きかったんじゃないかなと思っています。
「吹雪に死神」は、特殊設定ミステリーの先駆的作品
──ミステリーのド定番シチュエーションに挑まれた第三編「吹雪に死神」を読むと、本書は近年の小説界でブームとなっている「特殊設定ミステリー」の先駆的作品だったと感じます。
伊坂 もともとデビュー作の『オーデュボンの祈り』は、山口雅也さんの『生ける屍の死』(※1989年刊。特殊設定ミステリーの元祖と言われる)から影響を受けて書いたんです。『死神の精度』も、その流れの先に出てきたものなんですよね。ただ、「死神と藤田」みたいなミステリーっぽくない話も入っているので、あまりそうは思われていないかもしれません。特殊設定ミステリーが盛り上がってきた今、その仲間にも入れてもらいたいです(笑)。
──本書は20年前に発表されたものですが、全く古びていないなと感じました。2025年の新作ですと言われたとしても、違和感なく受け止めることになったと思います。
伊坂 僕も今回、十数年ぶりに読み返したんですが、スマホや「検索」が出てこないものの、あまり古くさくなくて、ホッとしました。頑張って工夫しているなとも思いました(笑)。例えば、死神の千葉さんがどうやって対象者と接触するのかも、手を替え品を替えで、毎回変化をつけている。あと、読み返して初めて気づいたんですが、この作品ってハードボイルド小説っぽいな、と。社会の外側にいるアウトローの視点から観察して、社会ってこういう仕組みでできているよねとか、人間にはこういう面があるよねと書いていくやり方が、ハードボイルド小説っぽいんです。湿っぽくなく、ドライな感じとか。
──死神は、人間の姿をまとっていながらも、人間社会の外側に立つ究極のアウトローですよね。
伊坂 僕はもともと、人間ってこうだよねとか、社会ってこういう仕組みだよね、ということを書きがちなんですけど、そういうのって偉そうじゃないですか(笑)。僕もその人間なのに、って。ただ、このお話の中であれば、そういうことを書いても「死神が言ってることだから」で割り切れるんですよね。だから、自由に楽しく書けたんだと思います。死神が言うことは人間からしてみればズレているから、そこでユーモアも出せる。僕はマンガも大好きなんですけど、マンガっぽさとリアルさのちょうどいいバランスのところで、ドラマが起きている。読んでいたら、なんだか、これはめちゃめちゃ僕好みの小説だなあ、と思っちゃいました(笑)。
◇
このインタビューは『 死神の精度〈新装版〉 』に収録されている、著者特別インタビューの抜粋です。
(吉田 大助/文春文庫)
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