「中国人元死刑囚の父親は狼狽し…」小学生2人と両親の遺体が見つかった殺人事件は、中国人3人のみの犯行なのか「捜査常識では考えられない」
文春オンライン / 2025年1月31日 18時25分
2019年に死刑が執行された魏巍
〈 福岡の家族4人を惨殺、ダンベルで遺体を海に沈めた中国人元死刑囚の父親が語ったこと「死刑になっても仕方がない。ただ…」 〉から続く
2003年6月20日に発生した、福岡市に住むAさん(41)と妻、2人の子供が殺害された「福岡一家4人殺人事件」で、事件への関与が疑われる中国人の元日本語学校生・王亮(21)と元私大生の楊寧(23)。
犯行の4日後に中国に帰国した彼らの、中国・吉林省にある実家の取材を終えた私は、日本に戻ってきていた。
殺人事件に関与していることを認めた魏容疑者
すると間もなく、旧知の福岡県警担当記者から電話があった。
「福岡で逮捕されていた魏容疑者が、Aさん一家殺害への関与を自供しました。『(中国に帰国した王と楊の)2人に誘われ、3人でやった』と話しているようです」
元専門学校生の魏巍(23)は、中国へ帰国直前の03年8月6日、元交際相手への傷害容疑で福岡県警に逮捕されていた。もちろんそれが、Aさん一家殺害に関係する逮捕であることは、当時この事件を取材する者ならば、みな知っている。
そしてついに、魏が殺人事件に関与していることを認めたというのだ。私は中国の河南省に住む魏の父親の携帯電話番号を知っていた。これまで事件への関与が明らかになるまでは、連絡を入れないことにしていたが、これは連絡を入れてみるべきだろう。
そこで福岡県内に住む、中国語の通訳をしているEさんに電話を入れ、一緒に電話をかけて欲しいと依頼した。
「まさか……」電話越しに息を呑む魏容疑者の父
9月16日の夕刻。目の前のEさんが国際電話で、中国の携帯電話番号を押す。先方はすぐに出た。魏の父親である。Eさんが私のことを伝えると、続いて事前に決めていた質問をする。
「日本にいるあなたの息子さんが逮捕されていて、一家4人が殺された事件に関わったと供述していることをご存じですか?」
携帯電話のスピーカー越しに、父親の息を呑む気配が伝わる。
「まさか……。おとなしい子だったので信じられない……。息子から最後に電話を受けたのはもう何カ月も前です。ただ、日本にいる息子の友達の母親から、うちの子が8月中旬に中国に帰ってくるかもしれないと連絡を受けていました。それなのに帰ってくる様子がないし、本人からの連絡もないので心配していたのです。その話は真実なのですか?」
細かく震えた、狼狽する声だった。通訳が翻訳するその返答を聞き、私は次の言葉を伝えてもらう。
「お気の毒ですが、本人も認めており、ほぼ間違いありません」
いつどこで魏容疑者は王や楊と知り合ったのか
ショックを受けた父親の吐息だけが聞こえ、長い沈黙が続いた。そして父親は落胆した様子で言う。
「そうですか……」
「私もいまわかっているのは、それくらいのことしかありません。今後またなにかわかることがあればお伝えします……」
そう訳してもらうと、Eさんの日本での携帯電話番号を先方に教え、なにかあればこの番号で連絡がつくことを伝えると、通話を終えたのだった。
父親の反応から推測するに、中国の公安当局のみならず、日本の捜査当局やメディアからの連絡は受けていないようだった。
一家4人殺害の実行犯が、中国人留学生3人だったという疑いが強まったことの衝撃は大きい。ニュースは連日この事件について報じており、週刊誌で取材をしていた私も、福岡市に留まって取材を続けていた。
そこで出てきたのが、実家のある地域や日本での留学先の異なる魏が、いつどこで王や楊と知り合ったのかという疑問だ。
福岡市内にいる中国人留学生や、福岡県警担当記者などへ取材を続けるなかで、一軒のインターネットカフェの名前が挙がってきた。インターネットカフェとはいうが、繁華街にあるマンガ喫茶の発展形ではなく、ビルの一室を使った、中国人向けのインターネットカフェだという。
福岡の中国人向けインターネットカフェ「A計画」
その店は、福岡市の中心街・天神から北側の海岸方面に向かう途中の、幹線沿いの雑居ビルのなかにあった。
店名は「A計画」。
私が取材した当時は「T」(仮名)という別の店名がドアの前に掲げられていた。室内は業務用デスクにパソコンが並ぶ無機質な造りで、隣席との仕切り等はない。
「A計画」の設立経緯を知る在日中国人は、次のように明かす。
「空き物件を見つけた中国人Kが、ここでインターネットカフェをしたいと考えました。ただ、彼には設立するまでの資金がなかった。そこで知り合いに出資を呼びかけたのです。出資したのは全員中国人で、魏と同じコンピュータ専門学校に留学しているHという26歳くらいの男が80万円、妹が北九州市にいるMという30歳くらいの男が200万円、そして呼びかけ人のKが100万円を出して始めることになったのです。その際に、一番カネを出したMが不動産の契約を行い、Kが店長をすることに決まりました」
その結果、02年11月頃に「A計画」が開店する。
魏が「A計画」に初めてやってきたのは、03年の2月中旬頃とされる。つまり犯行の4カ月前である。そこでこの店の店長だったK(当時25)と知り合い、Kの紹介で同月20日頃に王亮と出会う。さらに魏は、王から紹介されることで、4月14日頃に楊寧と知り合ったという経緯が、後の裁判で明かされている。なおこの件については、まず魏とKが外で知り合い、それで魏が「A計画」に来るようになった、という情報も一部であったことを付記しておく。
店長Kの子分のような存在だった、王と楊
同店の王と魏について知る中国人留学生は説明する。
「王は見た目からしておとなしそうでした。無口な印象で、あまり喋っている姿を見たことはありません。魏も無口なタイプなんですが、一緒にパソコンの将棋ゲームで遊んだときに、常に勝ちにこだわっていて、負けず嫌いの性格なんだと思いました」
この人物によれば、客は店内のパソコンでゲームをしたり、中国の友人とメールのやり取りをしたりしていたという。同店に出入りしていた、別の中国人留学生は語る。
「店には王も楊も頻繁に来ていて、2人ともKの子分のような存在だと思っていました。傍目で見ていて、Kはあまりいい人間ではなかったですね。魏については、私は店で見たことがありません」
会員制の同店は、入会金が5000円だったこともあり、事前の予想よりも会員は集まらなかったようだ。そのため、03年1月にはすでに経営が苦しくなっており、Kは店舗の家賃の支払いに窮していたことが、後に判明している。
そこでKは王や楊、魏を巻き込んで数々の犯罪を起こすのだが、そのことについては改めて記す。
Kが店のカネを持って逃げして
先の中国人留学生は続けた。
「店を開けて何ヵ月かして、Kが家賃を払わずに、店のカネを持って逃げたんです」
それは03年3月頃だという。そのため、ビルを管理する不動産業者が、店の鍵を変えたのだと説明する。
「部屋の契約をしたMが困ってしまい、Sという男を新たな店長にしたんです。Mは『SはKみたいに悪い人間ではない』と話していました。新しく店長になったSが、パソコンの台数を増やすなどしたところ、前よりも人が集まるようになった。ただ、そうなったことで、風紀が乱れるから不動産業者に『(店を)やめさせろ』との話が寄せられるようになり、Mも店を閉めて退去することを決め、パソコン30台を売りに出したんです。すると店長のSが血相を変えてやってきて……」
Sに連れられた中国人と日本人の混成グループが、ワンボックス車に乗って集団でやってくると、Mの頭をパソコンで殴ったのだという。そのため、救急車やパトカーが集まる騒ぎとなったのだった。時期としては、日本で魏が逮捕された少し後だというから、03年8~9月のことである。
この事件が起きたことで、「A計画」の名残は、完全に雲散霧消したのだという。
Aさん一家殺人事件は中国人3人のみの犯行なのか
03年秋になると、事件を取材するメディアの関心は、Aさん一家殺人事件について、日本で逮捕された魏と中国で逮捕された王と楊という、中国人3人のみの犯行なのか否か、との点に向けられていた。
まず、元「A計画」の店長だったKは、03年8月26日付で、入管難民法違反(オーバーステイ)容疑で、非公開の指名手配が行われていたが、後に本人が出頭。9月上旬時点で逮捕されている(後に住居侵入・強盗罪で起訴)。彼については、Aさん一家の事件については関与していないと判断された。
9月中旬にAさん一家事件への関与について、自供を始めた魏(この時点で詐欺容疑で再逮捕)であったが、彼の口から出てくる共犯者の名前は王と楊のみで、その他の人物の名前は出ていないことが、9月19日の、福岡県警捜査1課長への囲み取材で明らかになっている。
これまでの捜査常識では考えられないが…
続いて9月末の段階で、福岡県警と警察庁は捜査員を中国に派遣。中国の公安当局との協議を行い、「処罰要請」を行った。
それを受けて、10月前半に福岡県警捜査1課長は、捜査員派遣の成果は「あった」と語っており、「矛盾点が埋まったところもある」と、日中での容疑者の供述が一致したことを、福岡県警担当記者の取材に対して認めている。
同時期、東京の警察庁捜査1課幹部も、オフレコを条件に、次のように記者に語った。
「おおまかなところで3人の供述は一致している。カネ目当てでAさんを狙ったこと。最初から一家全員を殺す予定であったこと。殺した後で遺体を捨てること。それらの点で食い違いはない。もちろん、そういう犯行のやり方は、これまでの捜査常識では考えられない。とはいえ、誰かに頼まれたという話は中国側からまったく出てこない」
かくして「福岡一家4人殺人事件」は、中国人留学生3人による「カネ目当ての犯行」と結論付けられていったのである。
(小野 一光)
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