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オールド・メディアvs YouTube 韓国・尹錫悦大統領、“ナゾの支持率回復”の理由とは

文春オンライン / 2025年2月3日 6時10分

オールド・メディアvs YouTube 韓国・尹錫悦大統領、“ナゾの支持率回復”の理由とは

ソウルの憲法裁判所で開かれた弾劾裁判の弁論に出廷する尹錫悦大統領 ©時事通信社

 韓国で与党「国民の力」の支持率が急伸している。昨年12月3日、尹錫悦大統領による非常戒厳直後では、最大野党「共に民主党」がほぼダブルスコアで「国民の力」を圧倒していたが、両党の支持率が逆転したという世論調査結果も出始めた。ユーチューブが仲介した「尹錫悦ショー」が国民の意識に強い影響を与えているようだ。

尹大統領の支持率が回復

 韓国世論調査会社リアルメーターの調査によれば、昨年12月第2週時点では、国民の力の支持率が25.7%、共に民主党が52.4%だった。ところが、国民の力が徐々に支持率を回復し、今年1月第3週で支持率が逆転した。1月第4週時点でも、国民の力が45.4%で、共に民主党の41.7%を上回っている。次期大統領選についての設問では、「野党中心による政権交代」が49.1%で「与党中心による政権継続」の46%を上回った。

 韓国メディアによれば、尹大統領の支持率も4割程度に回復しているとみられている。韓国世論は非常戒厳に強い拒否反応を示してきた。韓国ギャラップが昨年12月13日に発表した世論調査によれば、尹氏の弾劾に75%が賛成し、71%が「非常戒厳は内乱」と答えた。尹氏の支持率は11%だった。

 どうしてこのような状況になったのか。韓国大統領府の元高官は「ユーチューブが毎日、尹大統領の主張を拡散し続けた結果、政治に関心がない無党派層が与党支持に回った」と語る。

 韓国内では昨年12月3日以降、非常戒厳を巡る話題がニュースの約半数を占め続けている。このうち、尹大統領が主語になる出来事が、12月14日の弾劾、同月31日の拘束令状発布、今年1月3日の拘束失敗、15日の拘束、19日の逮捕、21日の憲法裁判所への初出廷、26日の起訴と、切れ目なく起きた。尹氏と弁護団はその都度、非常戒厳の正当性を訴え続けている。

政治系ユーチューブ・チャンネルの影響力

 尹氏らの主張に大きな助けとなっているのが右翼系のユーチューブ・チャンネルだ。政治系チャンネルとして多数の登録者を誇る高成国TVを運営する政治評論家、高成国氏によれば、左右両派のチャンネルはそれぞれ200~300ほどあるという。

 尹氏も愛聴していたという高成国TVは1月28日時点で、登録者が約121万人。非常戒厳の時点よりも8万人ほど増えた。毎日2時間ほど、生放送を行っている。タイトルを見ると「20(代)30(代)を激怒させた民主党のたわごと」「金建希女史の面会禁止、左派の背徳的戦術」「民主党、検察、裁判所、何を隠しているのか」など、刺激的なタイトルが並ぶ。

 大統領府の元幹部は「非常戒厳を肯定する人はいないし、尹大統領が弾劾されるべきだと考えている人も6割程度いる。その一方、毎日、新しい話題を絡めながら、尹氏の主張を繰り返し聴くうちに、尹氏への同情が広がっている」と説明する。1月19日、尹氏の逮捕状を発布したソウル西部地方裁判所の敷地に、尹氏の支持者ら100人あまりが乱入し、ガラスを割るなどの乱暴狼藉を働いた。元幹部は「10~30代の若い人が半数程度を占めていたようだ。これもユーチューブの影響だろう」と語る。

「オールド・メディア」よりも、刺激的なユーチューブを選ぶ若者層

 2017年3月の朴槿恵大統領(当時)の弾劾では、朴氏と保守系与党の支持率はずっと下がり続けた。当時、朴氏は公式の場での反論を一切控えた。また、当時はユーチューブもそれほど盛んではなかった。高成国氏も「朴槿恵大統領の弾劾時、私の主張を聞いてくれるメディアがなかった。それで、2018年にユーチューブを始めた」と語る。

 もちろん、韓国には様々な「オールド・メディア」がある。ケーブルテレビも充実していて、尹氏の拘束時には、各局が生中継を行った。ただ、ユーチューブのような煽情的な言葉や、思い切り角度をつけた分析は控えている。かといって、「オールド・メディア」が厳正中立の姿勢を維持しているということもない。大多数のメディアが「保守」「進歩(革新)」系に色分けされている。視聴者たちにしてみれば、若者層を中心に「どうせ、角度がついた報道なら、面白くて刺激的なユーチューブの方を楽しみたい」という心理が働くようだ。

 結局、ユーチューブにはまって、「不正選挙」「中国や北朝鮮の介入」などの陰謀論に傾いて非常戒厳を布告した尹大統領だけでなく、一般市民にまでユーチューブの影響が及ぶ事態になったとも言えそうだ。オールド・メディアよりもSNSやユーチューブに影響された政治行動は、すでに昨年の東京都知事選や兵庫県知事選でも指摘された現象だ。

大統領職復帰の可能性

 早ければ2月末にも結論が出る憲法裁判所の弾劾審理はどうなるのか。判事(定数9人)のうち、現在空席の1人を除いた8人中、6人が賛成すれば、尹氏は弾劾される。韓国検察当局は1月26日、全国検事長会議を開いて検察幹部の意見を集約したうえで、尹氏を内乱罪で起訴した。元大統領府幹部も「司法の専門家が出した結論をみれば、憲法裁も弾劾を支持するのが道理だろう」と語る。ただ、その一方、「憲法裁は世論にも影響される。8人中3人が弾劾を支持しない可能性もないわけではない」と語る。

 そうなれば、尹氏は刑事訴追された身分ながら、大統領職に復帰する。いわば獄中政治だ。もちろん、韓国内で「大統領職務執行に問題がでるため、釈放すべきではないか」という声が出て、在宅起訴に切り替わる可能性も十分ある。一方、野党は納得せず、徹底抗戦に出るだろう。尹氏の大統領任期である27年5月まで、政治空白が続くことになる。

 トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩総書記との会談に意欲を示し、国防総省関係者からは在韓米軍削減を模索する発言も出ている。韓国で政治空白がより許されない時期に、こうした展開はまさに不幸としか言いようがない。

(牧野 愛博)

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