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《捜査当局は見た》給料が安いわけでも、ギャンブル依存症でもない…水原一平が大谷翔平の約26億円を盗んだ“本当の理由”

文春オンライン / 2025年2月3日 6時0分

《捜査当局は見た》給料が安いわけでも、ギャンブル依存症でもない…水原一平が大谷翔平の約26億円を盗んだ“本当の理由”

水原一平被告(中央) ©︎時事通信社

 米ロサンゼルスの連邦地検は23日、大谷翔平選手の元通訳水原一平被告に関する求刑文書を裁判所に提出した。この文書によると、水原被告は、4年9ヶ月の禁錮刑、禁錮刑後3年間の保護観察、大谷選手への約1697万ドル(26億円余り)の賠償金の支払い、IRS=内国歳入疔への約115万ドル(1億8000万円)の支払いを求められている。 

「動機はギャンブル依存症ではない」という政府の主張

 すでに多くのメディアが、この求刑文書について報じたが、目を通して見て、気づいたことがある。それは、「犯罪の性質と状況、被告人の経歴と特徴のセクション(The Nature and Circumstances of the Offense and the History and characteristics of the defendant)」の終わりでされている主張「最終的に、政府は、被告の犯罪の動機はギャンブル依存症ではなく、むしろ強欲であったと主張している。被告は大谷氏の信頼を裏切り、彼に経済的、評判的、そして感情的な損害を与えた。大谷氏は真の被害者で、被告の行為によって損害を受けており、今後も受け続けるであろうことは間違いありません。(3)このような裏切りと強欲には、量刑のガイドラインの範囲内で相当の懲役刑が必要だ」の中の“大谷氏は真の被害者で、被告の行為によって損害を受けており、今後も受け続けるであろうことは間違いありません”という一文の終わりに脚注3が付けられていることだ。

 何だろうと思い、脚注3を読んでみると、「大谷氏は、裁判所が検討に使うための被害者影響陳述書を提出した。被害者権利法に基づき、被害者影響陳述書は封印された状態で提出されるものとする」と説明されている。

 つまり、大谷選手は「被害者影響陳述書」なる文書を裁判所に提出しており、その中で、自身は真の被害者であることや被告の行為によって損害を受けたこと、今後も受け続ける可能性があることなどが説明されているのではないかと推測される。

「被害者影響陳述書」とは

 米司法省によると、「被害者影響陳述書」とは、裁判官が被告に判決を下すにあたって検討するために被害者から裁判所に提出される書面または口頭の陳述書のこと。陳述書には、犯罪の直接的な結果として被害者や他の人たちが被った感情的、身体的、および経済的影響が記述されており、書面による陳述書は通常、被告と弁護士が確認する。つまり、水原被告はこの陳述書を確認したと思われる。

 また、犯罪被害者権利法に基づき、被害者には、判決前に意見を述べる権利が与えられていることから、大谷選手は判決時に発言したい場合には、発言することも可能だ。

 「被害者影響陳述書」には3つの目的がある。 

 第一に、犯罪を被った結果、被害者や被害者の家族、被害者の身近な人が経験したことを、被害者が被害者自身の言葉で表現する機会を得ることにより、多くの被害者は犯罪によって直面した試練にいくらか終止符を打つ助けになる。

 第二に、裁判官は被告にどのような判決を下すかを決定する際に「被害者影響陳述書」を役立てることができる。つまり、裁判官は被害者の意見を考慮に入れて判決を下すことができるわけである。大谷選手が水原被告に対してどのように感じているかが、量刑に影響を与えることになるかもしれない。

 第三に、「被害者影響陳述書」は、被告が被害者に支払う必要がある金額を裁判官が判断するために使われる。そのため、陳述書には、犯罪が被害者に与えた経済的影響を確認して評価するための経済的損失陳述が含まれているという。経済的損失とは、被害者が支払った費用や犯罪を被ったことにより被害者が負っているお金のことで、それを考慮の上、裁判官は被告が被害者に支払う賠償額を決めるわけである。

大谷選手はどのようなことを述べているのか

 大谷選手は「被害者影響陳述書」の中でどのようなことを述べているのか? まず、考えられるのは、経済的な被害についてだ。

 水原被告は大谷選手になりすまして、大谷選手の口座があるA銀行から繰り返し送金した。求刑文書によると、それにより、大谷選手が受けた経済的損害は、2021年11月15日の4万10ドル、2022年2月4日の30万ドル、2022年2月28日~2023年10月13日の36回にわたる送金の合計少なくとも1500万ドル、2023年12月15日~2024年1月8日の3回にわたる送金の合計125万ドル。さらに、水原被告は歯科治療のために大谷選手のビジネス用のB銀行の口座から6万ドルの小切手を使う許可を大谷選手からもらったものの、その6万ドルは水原被告が個人的な目的で使うために自分の銀行口座に入れ、実際の歯科治療費は大谷選手の許可を得ることなく、A銀行のデビットカードで支払ったことや、リセールするためにオンラインで購入したベースボールカードの代金約32万5000ドルを大谷選手のA銀行の口座から引き落としたことも説明されている。水原被告が大谷選手のA銀行の口座から騙し取った金額は1697万5010ドル以上としている。

 莫大な経済的損害だが、「被害者影響陳述書」には、大谷選手がそれ以上に被った感情的損害も述べられている可能性もある。絶大な信頼を置いてきた水原被告に裏切られたのだから。実際、大谷選手は記者会見でも「僕自身も信頼していた方の過ちというのを悲しいというか、ショックですし、今はそういうふうに感じています」と述べていた。求刑文書によると、水原被告はドジャースからの50万ドルという、通訳にしては超破格と言っていいサラリー以外に大谷選手からも個人的にサラリーとポルシェまでもらっていた。水原被告に信頼を置いていたゆえの大谷選手の善意の表れと言えるだろう。しかし、信頼も善意も、気づかぬところで裏切られていたわけである。

傷つけられた大谷氏の評判と信用

 また、求刑文書は「たとえ被告が被害者に返済できたとしても、それは不可能だが、被告の行為は経済的損害以上の形で大谷氏に損害を与えた。実際、被告の行為は大谷氏の最大の資産である評判と信用を傷つけた」としている。

 確かに、大谷選手が評判を傷つけられたことは間違いない。著名人からも、大谷選手が銀行口座のお金が不正に管理されていることについて気づいていなかったのはおかしいと大谷選手を疑う声が上がっていたからだ。求刑文書の脚注には、元メジャー・リーガーのピート・ローズ氏やスポーツや選挙を予測する統計学者でタイム誌により「世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれたこともあるネイト・シルバー氏が大谷選手も水原被告のスキャンダルに関与していた可能性があるとの見方を示す記事のURLが掲載されている。ローズ氏は「70年代、80年代に通訳がいれば(自分も)無罪放免だった」と皮肉り、シルバー氏は「ミズハラがオオタニから盗んだとされる1600万ドルと、胴元に対して負った損失4100万ドルとの間にある大きなギャップをどう説明するのか? 複数の人が賭けていたのではないか」と疑問視していた。

 著名人の影響力は大きい。SNSでも、当初、大谷選手の関与を疑い、「オータニを逮捕しろ」「オータニが賭博をして、イッペイをスケープゴートにしているんだ」といったバッシングするコメントが多々あがっていた。こういったコメントは、大谷選手を精神的に傷つけたことだろう。また、求刑文書によると、今もまだ、メジャーなeコマースサイトが面白画像に改変した大谷選手の商品を販売し、彼も犯罪に関与していることを示唆しているという。これも、大谷選手を傷つける行為だ。そして、大谷選手も犯罪に関与しているとする見方や商品はこれからも出続ける可能性もある。つまり、大谷選手は将来にわたって傷つけられることになるかもしれない。

水原被告は「強欲」

 一方、水原被告は、判事への申立書の中で、通訳の仕事だけではなく大谷選手の身の回りの世話までしていたことから24時間365日待機状態になるほどの激務だったにもかかわらず給料が安く、お金に困って賭博に走り、ギャンブル依存症になった趣旨を訴えて、禁錮18ヶ月の情状酌量を求めている。

 もっとも、検察側はギャンブル依存症という水原被告の主張については懐疑的だ。求刑文書は「彼がギャンブル依存症だったとしても、彼が大谷選手から盗んだお金をギャンブルとは関係のない数多くの個人的な出費のために使ったことから、ギャンブル依存症という主張は被告の行為を十分に説明できるものではない。賭博で勝ったお金を大谷選手の口座に戻さず、自分の口座に送金させたことは、犯罪はギャンブル依存症によって引き起こされたという主張を損ない、強欲という別の理由を浮き彫りにする」と、水原被告の犯罪は強欲が起こしたものという見方をしている。

 さらに、検察は、1月30日には、水原被告が大谷選手のお金を盗み始める前に「ギャンブル依存症に苦しんでいたという証拠はない」と水原被告の申立てに異議を唱える文書を提出したとESPNが報じている。水原被告は、犯罪は週に4、5回カジノに通うという長年のギャンブル依存症のせいにしているが、捜査官が国内30カ所以上のカジノを調べたところ、水原被告は唯一、2008年の週末にミラージュのカジノで200ドルを費やしていただけだったという。

 また、水原被告には大谷選手のお金を盗むほど大きな借金も抱えていなかったという。水原被告が最初に大谷選手の口座から不正送金したのは2021年9月で、その金額は4万ドルだが、当時、彼の口座には3万4000ドル以上あったというのだ。そのため、検察は「ミズハラは自分の金を使って胴元に支払うこともできたが、そうせずにオオタニから盗むことを選んだ」、賭博で勝ったお金も自分の口座に入金していたことから大谷選手に「返済する意図はなかった」と述べている。水原被告は家賃も大谷選手のデビットカードを使って支払っていたという。

求刑文書の中でも指摘されていた“問題点”

 水原被告はローンや車代などの経費を支払う必要がなく、銀行口座には2023年3月には3万ドル以上、2024年3月には19万5000ドル以上と相当の残高があったことも指摘されている。検察は「水原氏は真の反省を示さず、大谷氏から何百万ドルも盗んだことを正当化しようとしている」と水原被告に反省の様子が見られないことを問題視しているようだ。

 強欲がもたらしたと検察側が主張している、大谷選手への約1697万ドル(26億円余り)の賠償金。しかし、米司法省によると「裁判官が被告に賠償金の支払いを命じた場合、被告が命じられた金額の全額を被害者に支払うことができるという保証はない」とある。つまり、水原被告は賠償額全額を大谷選手に支払うことはできないかもしれない。ことに、それが、検察側に求刑されている巨額な賠償金となった場合、難しいだろう。求刑文書の中でも「返済は不可能」と指摘されている。そうであるとしたら、水原被告は、結局、1600万ドルを超える巨額の金を使い逃げしたということになる。そんな使い逃げに対し、どのような量刑が言い渡されるのか、2月6日の判決が注目されるところだ。

(飯塚 真紀子)

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